さらばエンジン、ようこそモーター:電気自動車で部品メーカーに試練

走行中に二酸化炭素(CO2) を一切排出しない究極のエコカーとして注目が高まる電気自動車(E V)は、エンジンを搭載しないため従来に比べ部品点数が大幅に減る。 普及が進めば自動車部品メーカーにとっては死活問題につながりかね ない。各社は新規事業の開拓に必死だ。

自動車エンジン用タイミングチェーンで世界トップを争う椿本チ エイン。日本メーカーが国内で生産する車の8割以上で何らかの形で 使われている同社の部品が、7月に発売された三菱自動車の新車から 消えた。国内初の量産型EV「i-MiEV(アイ・ミーブ)」だ。 EVにはエンジンの動力を車輪に伝えるチェーンは必要ない。

「EVには当社の従来の技術をそのまま転用できる部分がほとん どない」。売上高の約3割を占める自動車部品事業を統括する藤原透 取締役は話す。同事業の製品はほぼすべてエンジン用で、「電気自動 車用ではまったく新しい技術を開発しないといけない。アイディアが なければ仕事にならない」と危機感をにじませる。

自動車調査会社カノラマのアジア・ディレクター、宮尾健氏によ ると、自動車で最も部品が多く使われるのはエンジン周りで全体の 30-40%程度を占める。そのエンジンがなくなるEVの普及を見越 して各部品メーカーは知恵を絞り、新規事業の開拓に取り組んでいる。

「トライアル」

椿本チエインの藤原氏によると、エンジンとモーターを併用する ハイブリッド車用などの部品受注は絶好調。「足元は非常に忙しい。 今後、3年や5年でわれわれの事業がものすごく大変なことになると は思っていない。10年もすればEVの普及はかなり進むだろうが、 それでもハイブリッドの方がまだ比率は高いだろう」と、焦りはない。

ただ肝心のEV向けの新規事業開発は、自動車部品事業部でプロ ジェクトを組んで「一生懸命トライアルしている」ものの、「まだ実 際に電気自動車に載るというところまでいったものは何もない」とい う。

ベアリング(軸受け)世界シェア3位NTNは、比較的早い段階 から対策を進め、タイヤのホイールに駆動源のモーターを内蔵させる 「インホイールモーター」などEV向けの技術の開発に既に着手して いる。

NTNではこの開発に先立ち、他社からバッテリーや車体を調達 して自前のEVを試作するほど熱を入れた。EV向け部品に関する特 許もいくつか申請したという。鈴木泰信会長は「軸受けから離れて世 の中にどんな貢献ができるか、どう生き延びていくかという考えがあ った。開発を通じ、EVに関するノウハウは取得できたと思う」と説 明する。

NTNではEV向けの開発のほか、風力発電や航空機、鉄道車両 用など産業機械分野を強化して売上高に占める割合を現在の4割程度 から、13年度までに自動車と並ぶ5割まで増やす計画で、事業の多 角化に努める。

思わぬ恩恵も

一方、EVの普及で思わぬ恩恵を受けるメーカーもある。エアコ ン世界2位のダイキン工業はそのうちの1社で、リチウムイオン電池 の電解液に添加して容量や寿命を向上させるバッテリー用フッ素製品 の売上高が、2017年までに現在の数億円から100億円程度まで増え ると見込んでいる。

川村群太郎副社長は、鳩山由紀夫首相が表明した20年までに温 室効果ガスを1990年比25%削減する中期目標に言及し、「自動車 産業に求められる削減幅は相当大きいはず。個人的には電気自動車へ のシフトは世間で思われているより、もっと前倒しで進むと思ってい る」との見通しを示した。

カノラマの宮尾氏によると、EVでは1台当たりに使われるモー ターの数が倍程度に増えるため、日本電産などのモーターメーカーも メリットを享受する可能性があると予測している。

勝ち組と負け組に2極化

10年度中にEV「リーフ」を日米欧で投入予定の日産自動車の カルロス・ゴーンCEOは、原油価格が1バレル=70ドル以上で推 移することを前提に、2020年までに世界の自動車需要全体の少なく とも10%を占めるとみている。

調査会社インテリジェンス・オートモーティブ・アジアのアシュ ビン・チョータイ氏によると、EVの普及は原油価格や搭載するバッ テリーの単価、充電施設といった社会インフラの整備などさまざまな 条件に左右される。そのため業界内でも普及のペースについては意見 が別れ、部品メーカーの需要予測を立てにくくしている。

カノラマの宮尾氏は、「ガソリン車が急激になくなることはあり 得ない」と前置きしたうえで、「初期のEVは結局マジョリティーに ならず、一時のブームで終わってしまったが、規制で大排気量の車を 持っているメーカーは仕方なくEVをやらないといけない。今はパー センテージが小さくても今後、確実に伸びる」と指摘する。

宮尾氏によると、EVの普及が進めば、エンジン用部品の需要は 確実に下がり、価格競争が激化するため既存の部品メーカーにとって は利益率の低下につながる。「高い技術を持つ会社はシェアを拡大で きるというスタンス」を取る一方、技術的に差別化できない会社は 「新しい商品を探している」と指摘、部品メーカーの間で勝ち組と負 け組みの2極化が進みつつあるとの認識を示した。

--取材協力 小松哲也  Editors: Kenzo Taniai, Fukashi Maruta

北村 真樹子 Makiko Kitamura +81-3-3201-8482 mkitamura1@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: 東京   大久保義人 Yoshito Okubo +81-3-3201-3651 yokubo1@bloomberg.net 大阪 Drew Gibson +81-3-3201-8817 dgibson2@bloomberg.net

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