増える激安均一店、デフレ象徴の居酒屋業界-1品300円の壁に挑戦

東京の街に全品300円以下の看板 を掲げた居酒屋が増え、中高年のサラリーマンや若い女性で連日にぎ わっている。消費者の舌も肥え、もはや安さだけでは評価されない外 食業界だが、厳しい雇用・所得環境による懐事情を映し足元の業績、 株価は低価格店が優位。アフターファイブの店選びにも、デフレ色が じわりにじむ。

東京・新宿駅東口に8月にオープンした居酒屋「金の蔵Jr」で は、飲み物70種以上、フード100種以上を全品270円で提供。同店を 友人と訪れていた会社員の佐野雪乃さん(23)によると、「この値段で この料理は最高。値段を気にせず飲める」という。

この場所は以前、同一企業の別ブランドの店舗だったが、業態転 換後は来客数が平均で5-6割増えた。大木健太店長は、「ピーク帯が 1時間早めになり、満席になってからも待ち客が続いている」と話す。 金の蔵Jrは、「東方見聞録」などのブランドを持つ三光マーケティン グフーズが展開。5月の池袋西口店を皮切りに、業態転換を通じ低価 格均一店を積極出店、10月末までに累計60店を超えた。

大阪が本社の鳥貴族は、国産鶏肉の焼き鳥を中心に食事60品、飲 料50 品程度を全品280円で提供する居酒屋「じゃんぼ焼鳥 鳥貴族」 を展開。10月末時点の店舗数は148、東京での出店加速で2016年には 1000店舗を目指す。同社の既存店売上高は、昨年夏まで前年同月比 5%増ペースだったが、世界的金融不況の代名詞「リーマン・ショッ ク」後の昨年秋には8%増へ上がり、今年に入り10%増で推移する。

寒い懐に暖かい明朗会計

米コンサルティング会社マーサーの「09年世界生計費調査」によ ると、東京はモスクワを抜き最も物価の高い都市になった。激安均一 居酒屋の増勢は、懐寒い消費者事情の裏返しだ。1人当たり現金給与 総額は、9月まで16カ月連続で前年水準割れ。完全失業率は7月に過 去最悪の5.7%を付けた後、やや改善したが、バークレイズ・キャピ タル証券の森田京平チーフエコノミストは「人件費を含めた日本企業 のコスト削減圧力はまだ根強く、所得環境も厳しさが続く」と見る。

家族との外食、会社帰りの1杯を控える動きは顕著で、日本フー ドサービス協会のまとめでは、主要業態の全店売上高は9月まで4カ 月連続で前年水準割れ。各種業態の中で「ファストフード」のみが前 年水準を上回るが、けん引役は低価格のめん類チェーンで、これも消 費者の節約志向を映す。

所得環境が厳しい中、明朗会計は消費者にとって魅力。1皿ごと の価格が分かりやすい回転ずし店への根強い人気は好例で、居酒屋業 界もその領域に足を踏み入れた。しかし、海外から来たものに寛容な 日本的食文化が生んだ居酒屋の特徴は、和食から洋食、中華とメニュ ーの幅広さにあり、均一価格化には難しさもつきまとう。

アスリート並みの世界

三光マーケでは、2000円を下回る客単価を実現するため、6品頼 んでも1000円台に収まる「1品300円以下」にこだわった。同社の長 澤成博取締役は、「300円台から200円台への引き下げは、オリンピッ クでアスリートがゼロコンマ何秒縮めるのに匹敵する難しさ」と打ち 明ける。仕入れから本部経費、光熱費まですべての面で固定観念を変 え、筋肉質にならなければ、安くても品質を維持できない世界という。

鳥貴族の大倉忠司社長は、「1品300円を下回ると消費者は安さを 感じやすく、さらに価格が均一だと得なものを探す楽しさも出てくる」 と指摘。どの分野でも低価格は一番市場が大きく、「商品力さえあれば 景気や流行に左右されにくく、経営が安定する」独自の経営観を披露 する。同社では、3年以内には株式を上場させる計画だ。

集客力見せる低価格店

金の蔵Jrなど激安均一居酒屋の平均客単価は、大手居酒屋店よ り2-3割程度安い。客単価の低下は運営企業の収益を圧迫するが、 金の蔵Jrを訪れていた会社員の猪股克芳さん(46)は、「不景気にな ってから飲む回数は減っている。飲食中、勘定は気にならないが、店 を選ぶ際は値段が高い店と安い店があれば、安い方に行く」と話す。

16日に発表された7-9月期の国内総生産(GDP)1次速報値 は、実質で前期比年率4.8%増と2四半期連続のプラス成長となった が、生活実感に近い名目では同0.3%減と6期連続のマイナスだった。 かざか証券の田部井美彦市場調査部長は、「居酒屋業界は最初に次回来 店時の割引クーポンを配布していたが、今では直接の割引による低価 格に変わった」とし、7-9月期の名目GDPはこうした居酒屋業界 に見る内需の弱さやデフレ傾向の象徴と受け止める。

いちよし経済研究所によると、外食大手81業態の9月の既存店売 上高で、前年同月を上回ったのはわずか18業態。プラス19%と最大 だった中華料理の王将フードサービスをはじめ、回転ずしのくらコー ポレーション、ラーメンの幸楽苑、セルフ式うどんのトリドールなど。 いずれも各ジャンルで低価格を武器とする業態だ。

広がる株価格差

株式市場でもこうした企業群への評価は高く、10月末までの年初 来騰落率はくらコーポ92%高、王将フード72%高のほか、イタリア料 理のサイゼリヤ37%高とTOPIXの4.1%高を上回る。居酒屋でも、 激安均一店を仕掛ける三光マーケが35%高とチムニーの23%高、コロ ワイド12%高、大庄8%安、ワタミ23%安に水を空け、7%高のひら まつ、5%高のうかいなど高級レストラン企業も圧倒した。

三菱UFJ証券の新井勝己アナリストは、「株式市場ではディスカ ウントはあまり評価されないが、低価格で実際に売り上げを取れるな ら評価される」と指摘。居酒屋業界ではこの数年、大手チェーンを中 心に個室化や個店主義などで単価を上げ、低価格で伸びる企業はなか ったが、今後は「低価格化が大きな流れになる」と予想している。

--取材協力:池田 亜希子 Editor:Shintaro Inkyo、Makiko Asai

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