財政膨張で「日本リスク」―CDS・オプションが示す円売りマグマ

日本の財政規律に対する不安が払 しょくされない。クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)市場で は日本国債の保証コストが7カ月ぶりの水準まで上昇。今後、財政再建 への道筋が見えないまま、日本の格下げリスクが表面化した場合、株・ 債券・円がともに売られる「日本売り」のシナリオも考えられ、通貨オ プション取引では円の先安観の高まりを示唆している。

日本では税収の大幅減収に伴い、今年度の新規国債発行額が過去最 大の50兆円台に膨らむ見通しだ。来年度の概算要求額は、子ども手当 など民主党がマニフェスト(政権公約)で掲げた新政策を盛り込んだ結 果、95兆円超に膨張。政府は「事業仕分け」などで歳出削減に切り込 み、来年度の新規国債発行を44兆円以下に抑制するとしているが、景 気の下振れリスクが残る中、財政膨張を懸念する声は根強い。

ソシエテ・ジェネラル銀行外国為替本部長の斉藤裕司氏は、「海外 投資家には『日本リスク』を見る向きも増えており、日本の財政悪化を 背景に、今後、日本円からの資金フライト(逃避)が起こる可能性も否 定できない」と指摘。「ドル・円は足元もみ合っているが、日本国債の CDSスプレッドやドル・円のリスク・リバーサルをみると、潜在的な 円売りのマグマは溜まってきている」と語る。

日本国債の保証コスト

債券が債務不履行(デフォルト)に陥るリスクに備える保証料を示 すCDSスプレッドをみると、日本国債の期間5年のスプレッドは、9 月16日の鳩山内閣発足時は39.5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01ポ イント)だったが、その後、2カ月間で2倍近くに拡大している。10 月からは英国債の保証コストを上回り、今月9日には76.16bpまで拡 大。一時、イタリア国債の保証コストを上回った。

一方、オプション需給を見極める目安となるドル・円のリスク・リ バーサル率は、円を買う権利を付与するオプション(円コール)への需 要が、円を売る権利を付与するオプション(円プット)の需給との比較 で減退していることを示唆している。

ブルームバーグ・データによると、3カ月物25デルタのドル・円 オプションのリスク・リバーサル率で、円コールのプレミアムは先週末 に1.49%と2007年7月以来の水準まで縮小。1年物のリスク・リバー サル率も過去2年間で最小となっている。

最悪の財政状況

主要国の中ですでに最悪の日本の財政状況は今後、一段と悪化する 見通しだ。国際通貨基金(IMF)は今月公表した報告書で、金融危機 前の07年時点で2.5%だった日本の財政赤字の国内総生産(GDP) 比は09年に10.5%に拡大すると予測。政府債務残高のGDP比は07年 の187.7%から09年は218.6%、14年には245.6%に達するとしている。 財務省によると、国債や借入金など「国の借金」は9月末時点で864兆 5226億円となり、過去最大を更新した。

モルガン・スタンレー証券の経済調査部長、ロバート・フェルドマ ン氏は10日、ブルームバーグラジオとのインタビューで、日本経済は 引き続きデフレに悩まされており、投資家は日本国債に不安を抱いてい ると語った。同氏は、鳩山内閣の「新しい財政アプローチ」が理にかな うかどうかについて疑問の声があるとし、「日本経済は弱く、経常黒字 で日本国債市場を保護できるかどうかという懸念がある」と話した。

財政膨張による国債増発懸念から、債券市場では先週、指標となる 10年債利回りが一時、1.485%と約5カ月ぶりの水準まで上昇。藤井裕 久財務相は、長期金利の上昇について「非常に危惧(きぐ)している」 と述べ、「国債増発懸念が影響しているのは分かっている。それに対す る是正は何としてもしなければならない」と強調した。

バークレイズ銀行チーフFXストラテジストの山本雅文氏は、「日 本国債の外国人保有率は6%程度。郵貯も含め日本の金融機関は今後も 国債を買い続けるとみられ、国債市場が落ち着けば、海外勢の懸念も 徐々に収まる」と予想するが、「景気回復のめどが立たない中、政府に より説得力のある財政再建計画が示されず、日本の格下げ懸念が高まれ ば、円売りになるというリスクシナリオも考えられる」と指摘する。

円キャリー復活の下地

格付け会社フィッチ・レーティングスの世界ソブリン格付け責任者 デービッド・ライリー氏は10日に発表したリポートで、「日本経済の 2010年の回復プロセスは緩慢で脆弱(ぜいじゃく)なものとなる」と の予想を示し、デフレ長期化が日本国債の見通しに「実質的なリスク」 をもたらすだろうと指摘した。

米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)の小川隆 平ディレクター(シンガポール在勤)は、ブルームバーグ・ニュースと の電話インタビューで、日本の財政赤字は日本のソブリン格付けにおい て「もっとも重要なネガティブ要因の一つ」と語った。ただ、現段階で 「安定的」としている日本の格付け見通しを見直す考えはないとしてい る。

フィッチによる日本国債の格付けは「AA-」で、上から4番目。 スタンダード・アンド・プアーズとムーディーズは、それぞれ「AA」と 「Aa2」とフィッチよりも一段高い格付けを与えている。主要7カ国 (G7)で、格付け3社から最上級格付けの評価を得ていないのは、日 本とイタリアだけだ。

円キャリー復活の下地

財政悪化懸念の高まる中、外国為替市場では10月下旬に一時、約 1カ月ぶりとなる1ドル=92円台前半まで円安が進行。その後は90円 前後でのもみ合いが続いているが、フォルティス・アセットマネジメン トの山本平社長は、日本が深刻なデフレに直面し、金利正常化の見通し が立たない中、「いずれ円キャリー(低金利の円を借り入れ、高利回り 資産に投資する取引)が復活する下地は整っている」と指摘。今後、 「ドル・円で100円台を回復する可能性はある」とみている。

ブルームバーグ・ニュースが実施した調査では、回答したストラテ ジスト37人中32人が2010年6月までに円が現状の1ドル=90円近辺 に比べて下落すると予想している。また、別の調査によると、日本銀行 は来年中も政策金利を現行の0.1%に維持すると見込まれている。

SBIリクイディティ・マーケットのリクイディティ統括部部長の 小島誠氏は、「現政府にはもともと成長戦略がなく、郵政の人事にみら れる改革の後退は、日本への成長期待はさらに後退することになり、日 本資産の魅力を弱める」と主張。「日本はいまや新興衰退国(NDC) のトップランナーだ」と指摘している。

--取材協力:Chris Fournier Editors:Joji Mochida, Hidenori Yamanaka

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