香港に響く「シャトー・ラフィット」狂想曲、課税全廃でワインの都に

第2次世界大戦中に爆薬庫として 利用されていた香港の地下室は2008年4月24日、興奮気味の約200 人の入札者であふれていた。香港ではほぼ10年ぶりとなるワインオ ークション。英競売会社ボンハムが富裕層の住む壽臣山(ショーソン ヒル)にある「クラウン・ワインセラーズ」で開いたオークションの 会場には、レッドカーペットが敷かれ、VIPルームが設けられ、ハ リウッド映画の公開初日のようなセレブな雰囲気が漂っていた。

最後に出品された「テイラー・フラッドゲート・ビンテージ・ポ ート1994年」の落札を狙っていたあるコレクターは、8000香港ドル (約9万4000円)の値を付けた。8という数字は中国では幸運を呼 ぶと考えられている。ボンハムの高級ワイン担当国際ディレクター、 フランク・マーテル氏によると、別の参加者が8888香港ドルで入札 したため、同コレクターは1万8888香港ドルで対抗、落札に成功し た。

それから1年半余、いまや香港はロンドンやニューヨークに匹敵 するワインオークションの中心地になった。現在では主要競売会社5 社が香港で定期的にオークションを開き、最も人気のある銘柄は過去 最高値で落札されている。

活気あふれる香港をワインで世界の一等国に押し上げたのは、08 年2月27日に決定されたワイン課税の全廃だった。ボンハムは数カ 月に及ぶ事前準備を経て、課税全廃の15時間後にはオークション開 催を発表。米ワイン販売の老舗アッケル・メラル・アンド・コンディ ットやザッキーズのほか、競売会社の英クリスティーズや米サザビー ズも後に続いた。

ワインに酔う都市

サザビーズが今年4月と10月に開催したオークションの落札総 額は1400万米ドル(約12億7000万円)を超えた。その中には過去 最高値の9万3077米ドルの値が付いた「シャトー・ペトリュス1982 年」のインペリアルボトル(6リットル瓶)も含まれる。

競売会社は最高級のワインを頻繁に香港に回すようになってい る。サザビーズの北米ワイン販売担当責任者、ジェイミー・リッチー 氏は「最高値でもアジアの人々は喜んで支払う」と語る。

オークションは毎回入札者であふれ返り、ドラマに満ちている。 中国人バイヤーはしばしば、できるだけ長い間入札を我慢して待ち、 興奮を高める。マレーシアやフィリピン、シンガポール、台湾からの バイヤーも姿を見せる。

洗練された香港にはずっと以前から、ワインセラーにあらゆる銘 柄を取りそろえた、うんちくあふれるボルドーワインの愛好家がいた。 唐英年(ヘンリー・タン)政務官もその1人だ。そうした愛好家の大 半は米国や英国でワインを購入し、税金支払いを回避するため購入し た国で保管していた。ここ数年、オークションに出品される最高価格 水準のワインの多くを定期的に落札するアジアのバイヤーが増えて いる。

入門は最高級ワイン

最近、香港で開かれるオークションでは、特に中国本土からの新 規参加者が増えている。マーテル氏は「彼らは最高級のワインからス タートする。まるで最初の自家用車にランボルギーニを購入するよう に」と語る。

最上級とされる銘柄は、第一級の産地で作られた「シャトー・ラ フィット・ロートシルト」だ。このワインの価格は昨年末に一時的に 下落した後、他のどの銘柄よりも迅速に回復。ロンドンを拠点とする ワインの電子取引所Liv-exの10月の市場リポートによると、 ラフィット1998年の価格は9月に前月比で17.5%上昇した。

「ラフィット」贈呈は敬意の印

香港に住むすべての人々に物語があるように、ラフィットに取り 付かれているバイヤーにも物語がある。マーテル氏は最近香港のワイ ン販売業者3人と食事をした際、ラフィット1982年を何ケースか入 手しようと3カ月にわたって3人を執拗(しつよう)に追いかけた1 人のコレクターのことを耳にした。その人物は、これらのワインを手 際よく売りさばき、数十億ドルの商談をまとめたことが分かった。中 国ではラフィットを贈ることは敬意の印となるため、政府当局者への 謝礼や企業接待の定番になっている。

クリスティーズの国際ワイン販売担当責任者、デービッド・エル スウッド氏は「激しい争奪戦で、全く夢物語のような状況だ」とし、 「ペトリュスを口にしたことのないコレクターは、いかなる対価を払 っても味わわなければならないと思っている。自分としては、向こう 1-2年のうちに価格は暴落すると予想している」と語る。

香港育ちでこの都市を故郷と思っているLiv-exのディレ クター、ジェームズ・マイルズ氏は、オークションは香港のワインブ ームの一部にすぎないと指摘。「小売市場はその10倍は大きい」と 言う。

小売市場は10倍

ファー・ヴィントナーズなどの英国のワイン販売業者は以前、商 品の約40%を米国の業者や個人顧客に販売していたが、現在では販売 先を香港のバイヤーにシフトしている。これらの業者はスティルワイ ン(非発泡性ワイン)8000万米ドル相当を1-7月に香港の大手輸入 業者5社に販売。この額は08年通年の総額を超え、06年の9倍に上 る。

ロンドンを拠点とするワイン販売業者ベリー・ブラザーズ・アン ド・ラッドの香港店を経営するニック・ペグナ氏によると、新規のバ イヤーらはボルドー産ではラフィットのほか、「シャトー・シュヴァ ル・ブラン」や「ラトゥール」、ペトリュス、ブルゴーニュ産の「ド メーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」、人気の高い米カリフォルニア 産のカベルネ種から作る「スクリーミング・イーグル」を欲しがる。

ラフィットの3分の1の価格の「ムートン・ロートシルト1982 年」は今のところお買い得だ。ブルゴーニュ産については、ふさわし い価格でなければ売るべきでないとの意見に、大方の人は賛同するだ ろう。

ニューヨークに肉薄

香港政府や経済界のリーダーらは、香港が今後もアジアのワイン の中心地となることを目指している。香港貿易発展局のレイモンド・ イップ副総裁は「香港のワインオークションの売り上げは今年、ロン ドンを抜く見通しで、ニューヨークにも迫っている」と胸を張る。

同局は1年以内にワイン貯蔵施設の認証基準を導入することを 計画している。11月初旬には今年で2回目となる香港国際ワイン・ア ンド・スピリッツ・フェアを開催。イップ氏は「香港はワインに関し てはまだ氷山の一角にしか触れていない」と語った。 (エリン・マッコイ)

(エリン・マッコイはブルームバーグ・ニュースのコラムニストです)

原題:Bidding High in Hong Kong(抜粋)

(英語原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌12月号に掲載)

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