【経済コラム】ヘッジファンドさながらのインドの金購入-Wペセック

オバマ米大統領もガイトナー米財 務長官もすっかり当惑しているに違いない。

両者ともに間違いなく、途上国なら余剰資金を米国債で運用し続 けると考えているだろう。それなのに、利息も配当も支払われない過 去の産物の金に投資するとはばかげていると思っているかもしれない。

しかし、インドは67億ドル(約6060億円)で金を購入した。こ の取引は市場で注目を集めた。北京からワシントンまで各国政府も無 視できないだろう。

各国の中央銀行の金保有高を考えれば、インドが購入した200ト ンは巨大規模ではないが、米国がパニックを引き起こさない秩序立っ たドルの下落を保とうと苦戦するなか、象徴的な動きだろう。外貨準 備の投資先を米資産から積極的に分散化させる各国中銀の先鞭(せん べん)をつけたのがインドだと考えてみればいい。

市場はこのような動きを覚悟してはいるものの、インドが示した 「ゴールドラッシュ」から以下の4点の結論が引き出せる。

その1。ドルは一段と苦境に追い込まれた。膨張する米債務に低 迷する雇用情勢という構図は格付け会社の注目を集めるかもしれない。 米国の今回の景気回復は雇用が伴わない特徴があるようで、オバマ政 権の課題を複雑化する。一段の刺激策実施や債券発行の見通しが膨ら み、各国中銀にはドル急落の回避を迫る圧力が増す。ガイトナー財務 長官がアジアの米国債投資継続を頼みの綱としているのは良く知られ たことだし、クリントン米国務長官までもが今年早くの訪中で米国債 相場を押し上げる趣旨の発言をしていた。

忍耐が切れる

もちろん、ドルの時代が終わったというのは言い過ぎだ。ドルに 取って代わる明らかな基軸通貨は見当たらない。それでも価値が下が り続ける米資産に対するアジアの忍耐は切れつつある。この点をイン ドの国際通貨基金(IMF)からの金購入があらためて浮き彫りにし た。

その2。インドがゲームを有利に進めた。中国は外貨準備の内容 をあまり語らないが、同国の一部当局者が今週、顔を真っ赤にしただ ろうことは想像に難くない。「なぜ、インドに先を越されたのだ」と自 問していることだろう。IMFが財政基盤強化で売却する金を真っ先 に手に入れる最有力候補は中国とみられていたためだ。

誰もまだ答えられない点は、インドをきっかけに各国中銀間の金 獲得競争が始まるかどうかということだ。同国政府はロシアを跳び越 して金保有高で世界9位となり、中国は一段の貴金属価格高を目の当 たりにしている。インドはまさにヘッジファンドの手腕を発揮した。 欲しかった金を手にして市場を驚かせた今、値上がりする金がもたら す恩恵を黙って受ければよい。

次はどの国か

トレーダーは次に規模の大きい購入を発表するのはどこか、かた ずをのんで見守っている。2兆3000億ドルの外貨準備を持つ中国か。 それとも外貨準備高が世界2位の日本か。ドル覇権を終わらせようと する湾岸諸国か。ブラジルや韓国の可能性も忘れてはならない。

その3。IMFは復活した。過去2年の危機で、ワシントンを拠 点とするこの国際的な融資機関は活動を再開した。支援を最も必要と する国々のための新たな流動資産も豊富だ。IMFは9月18日に

403.3トンの金売却を承認。9年ぶりの金売却で大金を手にした同機 関はしかも、市場の混乱を回避している。

私は今月2日、来日していたIMFのアジア太平洋局長、アノー プ・シン氏から同機関が途上国の不均衡是正と経済改革に向けた取り 組みを強化していると聞いていた。その翌日に金売却が明らかになり、 同局長の言葉に一段と納得がいった。2010年はIMFにとってますま す忙しく行動的な年になるだろう。

過去に回帰

その4。各国中銀は過去に回帰している。約100年前、経済学者 ジョン・メイナード・ケインズはインドの金崇拝をやゆしていた。

ほこりの積もる金の延べ棒よりも紙幣の方が安全で実用性が高い として信用される背景には、インフレを退治できたとの確信があった。 しかし、ドルの衰退で歴史は多少修正され、金が再び注目されるよう になった。

金の復活はまた、明らかに地理的な側面も持つ。これまで「米連 邦準備制度理事会(FRB)がドルを守ってくれる」と文字通り信じ てきたアジアの中銀が、ことのほか熱心に金を購入すると考えられる。

アジアの次なる大きな産業は、非常に強固な倉庫造りかもしれな い。ドル支配が衰えるにつれ、多くの国には金の延べ棒を保管する自 前の金塊貯蔵庫が必要になるだろう。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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