アジア重視戦略にのめり込む英スタンダードチャータード銀の英断

時価総額で英銀3位、スタンダー ドチャータード銀行は、アジアと新興市場に焦点を絞りたい考えだ。 こうした戦略にあえて逆らう幹部は誰であれ、法人銀行部門の責任者、 マイク・リーズ氏(53)の逆鱗(げきりん)に触れることになる。

「リーズ氏は『戦略に従えないならクリケットか野球のバットで ひっぱたいてやる』と言っている」と明かすのは同行の法人金融部門 責任者、ショーン・ウォレス氏だ。リーズ氏の強引ともいえるやり方 は、スタンダードチャータード銀のピーター・サンズ最高経営責任者 (CEO、47)のお墨付きだ。「その路線から外れれば、叱責(しっ せき)されることを皆承知している」。

ウォレス氏が「狂気じみた」とまで形容するアジア重視の決意。 これにはこの戦略が失敗の積み重ねで始まったという背景がある。 1970年代に同行は一連のM&A(企業合併・買収)を開始。世界の 全大陸に支店や関連会社を置いたものの、80年代は赤字の山を築いた。 90年代には幾つかの倫理上の過失があったことを認めている。そのた め、インドと香港という2つの大きな市場で処分も受けた。

90年に入行したリーズ氏は、「初期には多くの失敗があった」と 振り返る。「精神的にまいった。こうした間違いが繰り返されるなら悲 劇だ」と話す。最近は悪くはない。同行の株価は今年に入り11月3 日時点で79%高。英5大銀行の中では2番目の上昇率だ。宿敵、英H SBCホールディングスの4倍以上の値上がりだ。

根強い「疑問」

もちろん世界的な金融市場の混乱の影響を完全に免れることがで きたわけではない。2008年には株価が46%下落。ただ収益はほとん ど影響を受けなかった。利益は07年に比べ20%増え34億ドルと過 去最高を更新。総収入は26%増の140億ドル。02年に当時のCEO、 マービン・デービス氏が新興市場での足固めを決断して以降、利益は 4倍になっている。

多くの英銀と違い、スタンダードチャータード銀は英政府に救済 措置を求めなかった。そればかりでなく、マレーシア生まれのサンズ CEOはロイズ・バンキング・グループやロイヤル・バンク・オブ・ スコットランド(RBS)などの英金融機関救済でブラウン英首相の アドバイザーを務めた。

マッコーリー・セキュリティーズ(香港)のアジア銀行リサーチ 責任者、ニック・ロード氏は、スタンダードチャータード銀の投資判 断を「買い」としている。「もし同行がこの景気下降局面を経て好調に なった場合、心理面では大きなことだ。今のところまだ真に良質の銀 行になったのかどうかという疑問がぬぐいきれないためだ」と語る。

「アジア」の銀行

ロンドンの金融街、シティーに本店を構えているものの、スタン ダードチャータード銀は「アジア」の銀行だ。08年の総収入の71% がアジアからで、12%が中東とパキスタン、7%がアフリカだ。同行 の株式18.3%持つ筆頭株主は、シンガポール政府系の投資会社、テ マセク・ホールディングスだ。

サンズCEOによれば、同行はほかの英米の銀行が軒並み打ちの めされたサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)を裏 付けとする証券を一切引き受けなかった。その一方で同行は一連の買 収を通じアジアで存在感を高めた。

2000年にはオーストラリアのANZグリンドレーズ銀行を買収。 それによりインドとパキスタン、スリランカ、バングラデシュで最大 の外国銀行となった。その後、25件の買収を実施。05年には韓国の 第一銀行を33億ドルで買収、スタンダードチャータード銀にとって 最大の買収案件となった。02年以降、全世界の従業員は倍増し7万人 に膨らんだ。

アフリカ

ここ数年間、同行は中国とアフリカの企業間の数々の取引を仲介 している。中国ではナイジェリア人の行員がいるし、ナイジェリアの 支店では中国人が働いている。

同行が最近関与した国境をまたぐ大型案件の一つは失敗に終わっ た。インド最大の携帯電話サービス会社、ブハルティ・エアテルは9 月、南アフリカ共和国のMTNグループの株式49%を取得する計画を 断念。同業でアフリカ最大手のMTNとの経営統合を目指したものの、 南アフリカ政府がこれを認めなかったためだ。

スタンダードチャータード銀が知らないことには手を出すなとい うリーズ氏の指令に完全に従っているわけではない。06年、同行はア ジアから遠く離れた米2位のエタノール生産会社、ベラサン・エナジ ーに融資を実施した。だが、エタノール価格急落でベラサンは08年 に破たん。融資資金の回収は難しいだろう。リーズ氏にバットでひっ ぱたかれることは確実だ。

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