キリン:大型債を完売、ムーディーズの格下げも影響なし

キリンホールディングスが29日に募 集を行った総額1000億円の国内普通社債(SB)は即日完売となった。 ムーディーズによる格下げ発表後にもかかわらず、同社がこれまでの規 模の拡大を狙った買収戦略から負債削減を図る質的経営戦略に転換する ことを鮮明にしたことが投資家の評価につながったとみられている。

今回のキリンの起債の内訳は、3年200億円、5年300億円、10年 500億円の3本建て。表面利率はそれぞれ、0.553%、0.856%、1.639% 、発行価格は3本とも100円。

発行利回りは、償還期間など条件が類似する国債にそれぞれ、+18 bp、+18bp、+24bp(1bp=0.01%)を上乗せした水準だった。主幹事 は3本とも、三菱UFJ証券 (事務)、野村証券、大和証券SMBCが 務めた。

2009年度上期にはトヨタ債(1300億円)、ソニー債(2200億円)、 NTT債(1700億円)、第一三共債(1000億円)などの大型起債が相 次いだが、下期入り以降は社債発行が急減した。今回のキリン債は、 個人向けの日産自動車債(1000億円)を除けば、下期初の大型社債と なった。

スプレッド、前回より10bp縮小

キリンは9月29日に主幹事指名を発表して起債の準備に入った。 投資家に対する需要調査は、ムーディーズが10月21日に同社の格付 けを、Aa3からA2に格下げした後に開始した。

共同主幹事は当初、3年債200億円、5年債300億円、10年債300 億円の計800億円の発行額で、発行利回りのレンジは、3年と5年で+ 18bpから+23bp、10年では+22bpから+28bp で需要調査を開始した。 キリンの08年3月の起債(2000億円)時点と比較すると、5年物と10 年物は10bp程度縮小した。

格下げ後の起債を好感

格下げは通常、ネガティブな出来事なはず。だが、キリンの格付け はそれでも、ムーディーズでA2、格付投資情報センター(R&I)で AA-と比較的高いうえ、見通しも「安定的」 であったことから、かえ って投資家の買い安心感につながったようだ。

発行額は27日午前時点で900億円程度となり、同日午後には1000 億円となった。事務幹事の三菱UFJ証券デット・シンジケーション室 担当者によれば、キリン債への投資家の人気は高く、最終的な需要は2 倍程度にも上ったという。

第一生命保険債券部の原田浩志次長は、人気化したキリン債につい て、「社債発行が少なく良好な需給関係であることから、タイトな条件 で起債できたのだろう。これまでの積極的な買収から財務状態のスリム 化に方向転換したということなのだろう」と語った。

ドイツ証券の村田昭仁クレジットアナリストは、「サントリーとの 経営統合も控えており、積極的に行ってきたM&A戦略から方向転換を 行うのは、好ましいことだろう」と語り、この転換は信用力には少なく ともネガティブではないだろうと指摘した。

量から質への転換を評価

今回の起債で見逃せないのは、キリンの経営戦略を投資家が前向き に評価したことだ。キリンはここ数年、フィリピンのビール最大手サン ミゲル(約1316億円)、豪州2位のビールメーカー、ライオンネイサン 社(約2600億)などを相次ぎ買収し、以前のような無借金経営の企業 というイメージがなくなっていた。

だが、26日に発表した中期経営計画では、「量的拡大」から「質的 拡大」へとかじを切っている。同社の発表資料によると現在0.95倍のD ER(負債/資本)倍率を2012年末には0.5倍に向けて負債返済に努め る。さらに、投資有価証券の圧縮や不動産の整理・処分、事業の見直し を行って資産圧縮を行う計画としている。

買収資金、残りは内部調達で

キリンHD・IR室の阿部奈穂子氏は、豪社買収資金の残り(1600 億円)について、「買収後の相乗効果によって創出されるキャッシュフ ローに加えて、資産売却を行って調達した資金で借り換えを行ってい く」と説明した。この方針に沿って発行額を1000億円にとどめた。

三菱UFJ証券デット・シンジケーション室担当者は、キリンの財 務スリム化などの経営戦略や時間をかけた需要調査などが評価されて、 ほぼ全業態の投資家に順調に販売できたという。当初、3年と5年債で +20bp台を要求する声もあったが、最終的に10bp台で決まったという。

キリンをAA-と格付けしたR&Iは、「M&Aもあって収益基盤 は強化されており、比較的高い収益力・キャッシュフロー創出力を今後 も維持していけよう」(発表資料)との見解を示した。「量的拡大」から 「質的拡大」へとかじを切った中期経営計画の進捗とともに、財務構成 の改善状況を注視していくとしている。

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