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日銀の「論理」では2勝1分か、「異例の措置」縮小で-政治に配慮も

日本銀行は30日、企業が運転資 金を調達するために発行するコマーシャル・ペーパー(CP)と社債 の買い入れ停止を決める半面、企業金融支援特別オペは来年3月末ま で延長した。世界的な金融危機を受けた「異例の措置」縮小の背後に は、3つの「固有の論理」がうかがえる。

バークレイズ・キャピタル証券の森田長太郎チーフストラテジス トは、今回の政策決定について「信用緩和策として導入した経緯に照 らすと、若干の齟齬(そご)がないとは言えない」と指摘。ただ、米 欧の中央銀行では「来年前半には流動性の回収が大きな焦点となりそ うだ。日銀内でもその流れに乗り遅れまいとする意見が優勢になった のだろう」と分析した。

日銀は金融政策決定会合で、緊急避難的な市場安定化策として導 入した時限措置のうち、CP・社債の買い入れを年末で終了する一方、 特別オペは来年3月末まで延長した上で打ち切ると決めた。金融機関 がオペで差し入れる民間企業債務などの担保に関する要件緩和措置は 来年12月末まで延長。政策金利は0.1%で据え置いた。

短期金融市場での金融調節による政策金利の上げ下げという通常 の金融政策に対し、CPや社債、株式の買い入れなどは中央銀行とし ては「異例の措置」だと、白川方明総裁は導入時から説明してきた。

こうした措置に伴う問題点として、日銀はこれまで①通貨の信認 に関わる中銀のバランスシートの健全性、②財政政策とのすみ分け③ 市場機能の確保-という3点を指摘してきた。

3つの副作用

まず、日銀が金融機関に資金供給する場合、平常時は、信用リス クのない国債などの安全資産を買い入れるか担保に取る。CPや社債 などの買い入れによって高格付けとはいえない資産が増えると、日銀 のバランスシート上は「負債」に当たる日銀券(お札)、つまり円とい う通貨の信認が、裏づけとなる資産の劣化によって傷つきかねない。

2つ目のこだわりは、特定の民間金融資産の買い入れは財政政策 が担うのが適切ではないか、という主張だ。白川総裁は、例えば8月 8日、上海での講演で「金融政策と財政政策の境界線」に言及。「企業 債務などの個別リスクを負担する政策措置は、ミクロの資源配分に関 わる財政政策の領域に近づくもの」と位置づけ、「中央銀行として異例 の措置だ」と述べた。

財務省は7日、日本政策金融公庫による「中堅・大企業向けの資 金繰り対策等としての危機対応」でのCP買い取り額は9月末時点で 3610億円だったと発表した。

市場機能の正常化、あと一歩

今回のCP・社債の買い入れ停止は①日銀のバランスシート問題 と②財政政策とのすみ分け-という日銀ならではの論理に応じた措置 だ。ただ、特別オペの打ち切り時期を明示しつつ3カ月間延長した決 定は、政策によって市場機能を阻害すべきでないという3つ目の論点 を、直ちに完全に解決するには至らなかった。

白川総裁は14日の記者会見で、特別オペが企業や金融機関に及ぼ す「資金繰りの安心感」は、既存の共通担保オペを上回る「効果の差」 が2-3bp(1bp=0.01%)に縮小していると指摘。打ち切りに前向 きな姿勢を示していた。

特別オペは、民間企業債務を担保に3カ月物の資金を0.1%で無 制限に貸し出す措置。3カ月の東京銀行間貸出金利(TIBOR)や ユーロ円金利先物などの短期市場金利を低位安定させている面がある。 しかし、同時にCP金利を市場実勢以下に著しく押し下げる副作用も 生じ、国庫短期証券(TB)金利を下回る「官民逆転」現象も起きて いた。

日銀が特別オペを3カ月限定で延長した背景について、シティグ ループ証券の佐野一彦チーフストラテジストは、自民党から民主党に 政権交代しても「与党となれば、日銀への接し方は自ずと変わる」と ともに、「日銀が政府の経済政策との整合性に一定の配慮をする点も変 らない」と話した。

方向が逆、安全網は必要

一方、市場には、日銀が異例の措置を縮小したことについて、疑 問視する声もある。三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは、 内外の経済・金融情勢になお不透明感があり、消費者物価のマイナス が長期化する中で「廃止するのは政治や一般国民から見ると方向が逆 だ」と指摘。利用の多寡ではなく、不測の事態に備えた「日銀による 安全網があるということ自体に意義がある」と語る。

CP・社債は主に大企業や中堅企業が利用しているが、鳩山由紀 夫内閣の亀井静香金融・郵政担当相は6日の記者会見で、買い入れの 停止について「日銀は時々、寝言を言う」とけん制。ロイター通信が 14日に報じたインタビューでも「そういうことをしようとすること自 体がおかしい」と述べていた。

クレディ・スイス証券によると、高格付け社債はともかく、Ba a格の社債のスプレッドは日銀のCP・社債買い入れ停止の観測が広 がる中、足元で拡大傾向にある。白川浩道チーフエコノミストは「企 業金融はなお厳しい状況にある」と見ている。

--取材協力:船曳三郎

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