日銀展望:11年度CPIはマイナス0.4%-3年連続下落予測
(内容を追加します)
【記者:日高正裕】
10月30日(ブルームバーグ):日本銀行は30日、2011年度までの 見通しを示す経済・物価情勢の展望(展望リポート)を公表した。同 年度の消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)の前年比伸び率 は、政策委員の見通しの中央値がマイナス0.4%と、09年度から3年 連続のマイナスとなった。物価下落の長期化が見込まれる中、政策金 利0.1%という超低金利は長期化する公算が大きい。
日銀は毎年4月と10月、経済と物価情勢の先行きを示す展望リポ ートを公表しており、3カ月ごとに中間評価を行っている。11年度ま での見通しを示すのは今回が初めて。実質GDP(国内総生産)成長 率見通しの中央値は10年度がプラス1.2%、11年度がプラス2.1%と、 09年度のマイナス3.2%から緩やかに回復に向かう姿を描いている。
10年度のコアCPI見通しの中央値はマイナス0.8%と、09年度 のマイナス1.5%から下落率が縮小、11年度は一段と縮小する見込み。 しかし、3年連続で物価下落が続くとの見通しが示されたことで、日 銀に対して一段の金融緩和を求める声が強まる可能性もある。
展望リポートは「国際金融資本市場は改善の動きが広がり、世界 経済は持ち直している」と指摘。世界経済は「米欧におけるバランス シート調整の帰すう、世界経済の持ち直しに大きく貢献している新興 国経済の動向などに左右される」として、これらをめぐる不確実性は 「ひところに比べ低下したとはいえ依然高い状況にある」と指摘した。
持ち直しのペースは緩やか
その上で、国内景気について「09年度後半は海外経済の改善と経 済対策の効果を背景に、持ち直していくとみられる。10年度もこの傾 向は維持されるものの、世界経済の回復のペースが緩やかなものにと どまるとみられること、国内でも需要刺激策の効果が減衰する中、雇 用・賃金面の調整圧力が残存することなどから、年度半ばごろまでは 持ち直しのペースも緩やかなものとなる可能性が高い」としている。
コアCPIについては「09年度後半には、前年における石油製品 価格高騰の反動の影響が薄れてくるため、下落幅はやや大きく縮小す る。10年度以降は、中長期的な予想物価上昇率が安定的に推移すると 見込まれる中で、マクロ的な需給バランスが徐々に改善することから、 前年比下落幅は引き続き縮小していく」と予想した。
展望リポートは一方で、「労働や設備の稼働水準の回復は緩やか であり、ユニットレーバー(単位当たり労働)コストも弱めの動きを 続けるとみられるため、消費者物価指数の下落幅の縮小ペースは緩慢 なものにとどまると見込まれる」と指摘した。
デフレスパイラルの可能性は小さい
また、物価が下落を続ける中で「物価下落が起点となって景気を 下押しするかどうかが重要な問題」と指摘。「緩やかとはいえ見通し 期間を通じて物価の下落幅は縮小していくとみられる上、金融システ ムや中長期的な予想物価上昇率が安定していることも踏まえると、物 価下落が起点となって景気を下押しする可能性は小さい」としている。
展望リポートは上振れ、下振れ要因としては①米欧におけるバラ ンスシート調整の帰すう②新興国・資源国経済の動向③世界各国で取 り組んでいる各種政策の今後の展開④企業の中長期的な成長期待の動 向-を指摘。物価についても①企業や家計の中長期的な予想物価上昇 率②マクロ的な需給バランス③輸入物価の動向-を挙げ、「上振れ・ 下振れ両方向の不確実性がある」としている。
日銀は中長期的な物価安定の理解として、消費者物価指数の前年 比が0%から2%の範囲内で中心値は1.0%との数値を示している。 モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコノミストは「コアC PIが『物価安定の理解』の下限0%に近づくめどが立つまで、出口 戦略は封印されるとの市場の期待から、量的緩和政策の下で見られた 『時間軸効果』があらためて強力に発揮されるだろう」としている。
デフレ下の利上げは考えにくい
日銀は01年3月に量的緩和政策を導入し、「コアCPIの前年比 が安定的に0%を上回るまで続ける」と約束。いわゆる時間軸政策 を採用した。今回はそのような明確な約束はしてないが、HSBC証 券の白石誠司チーフエコノミストは「デフレ下での、または米連邦準 備制度理事会(FRB)より先の利上げは考えにくい」と指摘する。
JPモルガン証券の菅野雅明調査部長は「日銀としては『政策金 利の変更を伴うような出口戦略』については、引き続き慎重なスタン スで臨むことを強調し、市場が超低金利解除を織り込みに行く動きを 極力回避するよう努めるだろう」と指摘。日銀の利上げ時期は「11年 度であり、10年度中は現在の超低金利を維持する」と予測している。
見通しは次の通り(前年度比、%。は政策委員見通しの中央値)
【政策委員の大勢見通し】 実質GDP 国内企業物価指数 コアCPI 【2009年度】 -3.3~-3.2 -5.3~-5.0 -1.5~-1.5 7月時点の見通し -3.7~-3.0 -6.0~-5.8 -1.5~-1.2 【2010年度】 +0.8~+1.3 -1.5~-1.0 -0.9~-0.7 7月時点の見通し +0.6~+1.1 -2.1~-1.5 -1.2~-0.7 【2011年度】 +1.6~+2.4 -1.0~-0.3 -0.7~-0.4 【政策委員の全員の見通し】 実質GDP 国内企業物価指数 コアCPI 【2009年度】 -3.4~-3.0 -5.4~-5.0 -1.6~-1.4 7月時点の見通し -3.8~-3.0 -6.2~-5.7 -1.6~-1.2 【2010年度】 +0.7~+1.5 -1.5~-0.9 -1.2~-0.7 7月時点の見通し +0.5~+1.5 -2.1~-1.4 -1.2~-0.6 【2011年度】 +1.4~+2.5 -1.1~+0.2 -1.0~-0.3
--取材協力 下土井京子 Editor:Hitoshi Ozawa,Masaru Aoki
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