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【書評】「トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル」が描くリーマンの最後

アンドルー・ロス・ソーキン氏 の新著、「トゥー・ビッグ・トゥー・フェイル(仮約:大き過ぎてつ ぶせない)」は「長過ぎて読めない」大作に近いと言えるだろう。ウ ォール街とワシントンが金融システムと自分たちを救うために奮戦し た有様を、延々600ページにわたって詳細に描いている。

長いが、実は「読めない」わけではない。著者は500時間以上の インタビューと電子メールや電話の録音などの証拠文書を一冊の本に まとめあげるという難行に成功し、米国にとって恐らく史上最大の波 乱の年について読み出したらやめられない作品にしているからだ。

「結局のところ、これは人間ドラマなのだ。自分たちこそ大き過 ぎて失敗などしないと信じていた人々が、失敗することもあるという 物語だ」と著者は結論付けている。

米紙ニューヨーク・タイムズに在籍するソーキン氏の著書は、今 までの金融危機本のラストシーン、つまりベアー・スターンズとJP モルガン・チェースの電撃結婚から始まる。第1章では米コネティカ ット州グリニッチの自宅のドアを開けて出てきたリーマン・ブラザー ズ・ホールディングスのリチャード・ファルド最高経営責任者(CE O、当時、以下同)が運転手付き黒塗りベンツに乗り込むところだ。 2008年3月17日午前5時のこの風景から、物語はリーマンからの資 金流出についての話へと進む。

ドラマはこの後、銀行の役員室や社用ジェット、政府のオフィス で展開していく。登場人物のヘンリー・ポールソン米財務長官やバー ナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長、ガイトナー・ニューヨ ーク連銀総裁は、ファニーメイ(連邦住宅抵当金庫)とフレディマッ ク(連邦住宅貸付抵当公社)、リーマン、メリルリンチ、アメリカ ン・インターナショナル・グループ(AIG)へと危機の火が燃え広 がっていくなかで、場当たり的な対策をひねり出していく。

ラストシーン

本著のラストシーンは昨年10月、すっかり寒くなった秋の日。ポ ールソン長官が米大手金融機関9社のトップを一堂に集めている。J Pモルガンのジェイミー・ダイモンCEO、シティグループのビクラ ム・パンディットCEO、ウェルズファーゴのリチャード・コバセビ ッチ会長など、大きなマホガニー製テーブルの周囲に集まった銀行ト ップたちに、ポールソン長官は政府に優先株を売却して公的資金の注 入を受けるよう事実上、命令する。

コバセビッチ氏が抗議する。ウェルズ・ファーゴは250億ドルを 必要としていないと。「私はしゃれた商品を持ったニューヨークの連 中とは違う」という同氏の言葉が引用されている。本著によると、ポ ールソン長官は規制をちらつかせ、かなり露骨な脅しをかける。 「あなたは明日、資本不足だという電話を受けるでしょう。もう民間 市場での調達はできなくなると聞かされるはずだ」。

本著のおもしろい逸話の多くは、危機を見守ってきた読者には既 に知られている。例えば、ダイモン氏がベアー・スターンズの買収額 を1株当たり2ドルから10ドルに上げると言ったとき、ポールソン長 官は「吐き気をもよおす」と叫んだ話。

インスタント合併

あまり知られていないのはガイトナー総裁がさまざまな銀行の組 み合わせを試みては失敗した合併仲介のエピソードだ。同総裁の「イ ンスタント合併」策は不評を買い、銀行幹部らは同総裁に、オンライ ンお見合いサービスに倣って「eハーモニー」というあだ名を付けた という。

多くの部分が匿名でのインタビューに基づいている本著は、ファ ルド氏とポールソン氏に対して比較的好意的だ。

ファルド氏は悪人というよりは、会社第一主義で過大なリスクに 熱中した挙句、最後には箍(たが)が外れてしまい、市場のうわさの せいにして怒り狂う人間らしい姿で描かれている。ポールソン長官は リーマン救済を話し合うために集まったバンカーたちに対し、ファル ド氏について、「決定を下せる状態にない。現実否定モードになって しまっている」と漏らし、「壊れてしまった」と語る。

激務

ポールソン長官については、疲労のあまり吐き気が止まらなくな るほどの激務ぶりが描かれている。危機のさなかの08年9月17日の 長官のスケジュールによれば、1日に電話と会合を合わせて69件をこ なしていた。自宅や携帯電話からの通話はこれに含まれていない。

著者は最後までコメントを控え、エピローグで初めてポールソン 長官について問いかける。長官の仕事は「危機を和らげたのだろうか、 それとも悪化させたのだろうか」。ソーキン氏はポールソン長官に合 格点を与える。

「1年後に振り返ると、ポールソン長官が危機のさなかに取った 措置の多くはその後の市場安定化の土台になったように見受けられ る」と著者は書いている。現在のリスクは、米政府と議会が、壊れた 規制マシンを修復する「千載一遇の」チャンスを無にすることだと付 け加えている。

「最悪期が過ぎたもようであることに安心して、オバマ政権は他 の課題へと目を転じてしまったようだ」と言う。それはとてつもない 大間違いだろう。(ジェームズ・プレスリー)

(プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書評家です。この 書評の内容は同氏自身の見解です)

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