【コラム】「ベンおじいさん、投資銀行って怖いの?」-Mギルバート

「ねえ、ベンおじいさん。この 投資銀行博物館はカリフォルニア旅行で行った金鉱ツアーほど怖くな いね」。

孫の問い掛けにおじいさんはトレーディング室の展示から顔を上 げた。おそろいのチノパンとラルフローレンのシャツを着た男たちが 怒った顔で幾つものコンピューター画面を眺めている姿が展示されて いる。

「あのね、ジョエル。金や銀や石炭の採掘は人類の歴史のある時 期に、町や国を発展させる主役だったんだよ。鉱山で働く人は共同体 を支える中心と見なされていたし、地下で働くのは危険だったけれど、 世界の経済のために重要で、なくてはならない人間と考えられていた んだ」

「バンカーとトレーダーも、個人としては、ものすごく大きなリ スクを背負っていたんだ。仕事のストレスで血圧は上がるし、蛍光灯 の下で長時間働き上司にいばられて、物の値段は知っているけれど価 値については何も分からない変な人になっていったんだ。そして結局、 金融業界は鉱山業界よりずっと危険なことが分かったんだ。だから、 最後には法律で禁止されたんだよ」

ジョエルはおじいさんの隣で、展示スクリーンに触れている。イ ンタラクティブな展示は、触るとトレーダーがキーボードをいじり、 苦痛に顔をゆがめたり恍惚(こうこつ)としたりする。「金鉱ツアー ではガイドの人が『ゴールドラッシュ』ってものがあったって言って たよね。それから、金が値下がりした後、鉱山は閉鎖されたって。銀 行も同じだったの?」

投資銀行ブーム

おじいさんは2つ目の展示へと進んだ。そこには緑色の長方形の 紙が風の中の旗のように揺れている。一枚一枚の隅には数字の「1」 が印刷され、「ONE DOLLAR」の文字の上にかつらをかぶった男の絵 がある。

「そうだね、ある意味ではその通りだったんだ」とおじいさんは 答える。「銀行が取引する種類の商品には、ちょうどゴールドラッシ ュのようなすごいブームが10年も続いた。大勢の人が本当に短い時 間で大金持ちになった」

「でもね、1つ大きな違いがあったのさ。ゴールドラッシュが終 わったとき、金鉱山は閉鎖されて鉱山で働いていた人は農業とか大工 とか、元の仕事に戻ったんだ。でも投資銀行ブームがつぶれたとき、 トレーダーたちには、社会のために役立つようなほかの技術が何もな かったんだ」

「銀行は閉鎖する代わりに、政府を脅かしてものすごいお金を出 させて働いている人たちに給料を支払った。ほとんどの人は給料が減 ることすらなかったんだよ。そして、その人たちがする別の仕事を考 える代わりに、銀行は元通り、他人のお金で大きなリスクを取り続け たんだ」

CDO

「展示の中の男の人たちはそんなに危険な人たちには見えないね。 楽しそうにも見えないけど」とジョエル。ジョエルが展示スクリーン をこするたびに、トレーダーの1人が紙の束を空中に投げ上げる。こ れは「債務担保証券(CDO)」という紙だ。紙束はすぐに元通りの 整頓された山に戻る。ジョエルは尋ねる。「なんで銀行ってそんなに 危険なの?」

「鉱山ツアーでどうしても通り越せない石の山があったのを覚え てるかい?」とおじいさん。ジョエルがうなずく。「うん。ガイドさ んが『落盤』っていうんだって教えてくれたよね。鉱夫さんたちは出 られなくて生き埋めになっちゃったんだって」

金本位制

「投資銀行は健康とか安全とかに十分な注意を払っていなかった。 でも、今世紀の最初の10年に『ジャイガンティック・グローバル・ バブル・バースト(GIGLOBUBU)』が起こったとき、傷つい たのはバンカーじゃなくて、その客たちだった。GIGLOBUBU ですら銀行に行いを改めさせなかったことに気付いた時、みんなが怒 り出したんだ。それで、政府が出てきて、トレーダーたちが国民に害 を及ぼさないように法律を作り直さなければならなかったんだよ。そ ういうわけで、今では投資銀行の名残はニューヨークのこの博物館だ けなのさ」

ジョエルは別の展示をいじり始めた。ここではレンガの形の金の 延べ棒が回転する。「偽物(FAKE)のお金が禁止されてから金が また大切になったって鉱山ツアーの人は言ってたね。どういうことな の、おじいさん」

「ガイドさんは『FAKE』じゃなくて『FIAT(不換紙 幣)』って言ったんだよ。世界の金融活動のすべてを中国がコントロ ールするようになったとき、世界は『金本位制』というものに戻るこ とを決めたんだ。そうすると、さっきの展示にあったドル紙幣が、金 に取り換えられるようになって、本物の価値を持つようになるんだ よ」

おじいさんは時計を見た。「そろそろ行こうか、ジョエル。おじ いさんはTシャツ工場での仕事が始まる時間だ」 (マーク・ギルバート)

(マーク・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロン ドン支局長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解 で す)

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