【コラム】米預金保険基金枯渇なら納税者にもリスク-J・ワイル

米連邦預金保険公社(FD IC)のベアー総裁は、預金保険基金が枯渇しつつあると指摘し、 その増強方法を検討している。このことが納税者に意味するとこ ろは、そう「財布にご用心」ということだ。

2006年から現職のベアー総裁は、銀行破たんの急増で現在 低水準に落ち込んでいる預金保険基金を拡充する上で、FDIC には複数の選択肢があると指摘する。一つは、加盟する銀行から 徴収する保険料を引き上げること。それ以外に、FDICが自ら の監督下にある銀行から資金を借り入れる方法もある。あるいは、 米財務省からの借り入れも可能だろう。財務省は5000億ドル (約45兆4000億円)の信用枠を設定している。

ベアー総裁は今月18日、ワシントンのジョージタウン大学 での会議で「財務省の信用枠については哲学的な問題がある。つ まり、将来発生すると承知した上での損失のためなのか、それと も予想外の非常事態に備えるものなのかということだ」と語った。 同総裁は「これは真に金融業界と政府との議論である」と指摘し た。

この堂々めぐりの議論に入り込もうなどという気はさらさら ない。ベアー総裁が提起した問題は頭を使うまでもないだろう。 FDIC救済に公的資金を投入することが、予期せぬ非常事態に 備える上での最後の手段としての一つの選択肢となるだろう。F DICが現在それを検討しているとみられることは、内部の財務 状況がいかに厳しいかを浮き彫りにしている。

FDICがいかなる方法を選択しようが、われわれは次の点 だけは見失うべきではない。それは、FDICの運営が不適切で、 規制当局としての信頼性を失墜したということだ。順調に運営さ れていたなら、預金保険基金は今このような状況に陥ってはいな かっただろう。

ベアー総裁の先週の発言を聞いて、私はブルームバーグ・ニ ュースの1年ほど前の記事を思い出した。それはデービッド・エ バンス記者による記事で、FDICの預金保険基金は近々資金不 足に陥り、米財務省が公的資金を注入する必要が生じかねないと 指摘するものだった。注目されたのはFDICの反応で、まさに 記事にかみついた。

この記事が配信された日、FDICはブルームバーグに対し、 アンドルー・グレー報道官の名前で公開書簡を送りつけた。同報 道官は、記事は「FDICの預金保険基金について事実と異なる 印象を与え、御社とその読者に顕しい打撃を与えるものだ」と指 摘。「預金保険基金の財務面での基盤は健全で、金融機関の破た んの大幅な増加にも耐え得る」と説明するとともに、「税金によ る救済を受ける必要」は予見されないと述べた。また、基金は 「金融業界が100%負担しており、FDICに保険料引き上げの 権限があるということは、金融業界全体の資本1兆3000億ドル から支援が得られることを意味する」と論じた。

さらにグレー報道官は、必要となれば、FDICは財務省か らの借り入れが可能だと指摘。その上で、これまでそうした事態 に陥ったのは1990年代初めの1回だけだと強調し、金利分も含 め2年未満で完済したと説明した。同氏は今週、私に以前と同じ 立場だと語った。FDICは銀行業界全体の資本を利用という同 氏の発言に、私は困惑する。仮定としては事実かもしれないが、 現実的な意味で1兆3000億ドルすべてを利用可能とは疑わしい。

FDICの発表によると、預金保険基金は現在資産が債務を 104億ドル上回る状態で、これは保険対象となっている預金のわ ずか0.22%にすぎない。負債には1年以内に見込まれる金融機 関の破たんに備えた引当金320億ドルが含まれる。FDICは 08年3月末時点でも、将来の破たんに備え、引当金5億8300 万ドルを計上しているにすぎなかった。同年末までに、FDIC は引当金を240億ドルに引き上げた。

予想される損失

バランスシート上の引当金は、預金保険基金に予想される損 失を完全にカバーしてはいない。FDICは5月に、銀行破たん に伴い向こう5年間に700億ドルの損失が発生するとの予想を 発表した。破たんの多くは09-10年に起きるとみている。

FDICの問題は、損失を補う上で十分な保険料の調達を長 年にわたり怠ってきたことだ。その責任の一端は議会にもある。 06年の法律改正まで、FDICは資本が十分で経営が順調と分 類された金融機関からの保険料徴収を禁じられていた。結果とし て、大半の金融機関は預金保険基金に対し保険料を一切支払って いなかった。

もちろん現在では、FDICだろうが他のどの規制当局だろ うが「資本は十分」とのお墨付きを与えたところで、何の意味も ないことは誰もが承知している。今回の危機で倒れた金融機関の 多くは、破たん直前まで資本は十分と考えられていた。法律改正 後も、FDICは依然として十分な保険料を徴収してこなかった。

今年はこれまでに94行が破たんしており、ほぼ20年ぶり の高水準となっている。さらにFDICによると、6月末時点で 「問題あり」と判断された銀行のリストには416行が並び、そ の数は15年ぶりの多さとなっている。3カ月前は305行だった。

法律にはその義務が定められているものの、FDICが財務 省の信用枠の利用を開始した場合、金融業界からの資金を通じて 完済できる保証はない。その意味で、金融業界が短期的にいかな るコスト増も受け入れ難いと主張する中でも、FDICは安易に 公的資金の受け入れに走るべきではない。

現在のペースでいっても、FDICは選択にさほど長い時間 は残されていないかもしれない。ベアー総裁とFDICはある時 点で、同組織がいかにずさんな運営をしていたかを詳細に説明す るのが妥当と悟るだろう。われわれには説明を受ける権利がある。 (ジョナサン・ワイル)

(ジョナサン・ワイル 氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE