新政権で「官僚たちの冬」到来か、うずく古傷-霞が関復権との逆説も

「脱官僚・政治主導」を掲げる鳩山 由紀夫新政権が発足した。「議院内閣制」ならぬ「官僚内閣制」と揶揄 (やゆ)されてきた日本の政策決定の主導権を政治の側に取り戻すこ とを標榜、霞が関の中央省庁は「冬の時代」到来かと身構える。一方、 新政権の方針で官僚は政治的根回しなどの雑務から解放され、本来業 務の施策立案に回帰できるとの見方も出ている。

民主党中心の新連立政権は、予算編成など国の基本方針を決める 国家戦略局の新設や、約100人の議員を霞が関の各省庁に配置するこ となどをマニフェスト(政権公約)に明記。各省庁事務方トップによ る政策調整の場である事務次官会議の廃止や、官僚が省庁を代表して 記者会見することを禁止するなど、「脱官僚」の具体策を矢継ぎ早に実 行している。

こうした方針に対し霞が関では、丹呉泰健財務次官が「新政権が 示された方針に基づいて対応する」と発言するなど、協力姿勢を示し ている。半面、望月晴文経産次官は14日の記者会見で「官僚主導でや っているという意識は常日頃まったくなかった」との反応を見せた。

国際基督教大学の西尾隆教授はブルームバーグ・ニュースのイン タビューで、「官僚が法律づくりのイニシアチブを取ってきたというの は否定できない」と指摘。今後は、政府の核となる内閣が「官僚に足 場を置くのではなく、国民の代表者である国会に置くということが一 つの軸になる」との見方を示した。

よみがえる苦い記憶

霞が関の官庁は、1993年に自民党が下野した際、政治に翻弄(ほ んろう)された苦い記憶がある。象徴的なのが、旧通産省(現経産省) の産業政策局長で、次官候補といわれた内藤正久氏の辞任劇だ。細川 護煕首相の連立政権発足後5カ月足らずの12月中旬、熊谷弘通産相が 内藤氏に突然辞職を迫った。

内藤氏は、辞職直後の12月25日付の東京新聞とのインタビュー で経緯などを説明。通産相が退任要求の主な根拠としたのは、内藤氏 が官房長の時、通産官僚だった元次官の長男を衆院選出馬の箔(はく) 付けのため、課長補佐から企画官へ異動させたことだったと証言した。

内藤氏は同紙に対し、箔付けは社会常識からは反省すべきことだ ったとしながらも、省内では慣例的に行われていた事実も明かし、「辞 職まで求めるのはあまりに過酷」と訴えた。この間、怪文書が出回る など省内も混乱したといい、内藤氏は「政治家の好みによって人事が 左右されるのは適切ではない」と話した。

西尾教授は内藤氏の件に関連して、「閣僚の『政治的人事』による 官僚組織内の混乱で、職員の士気が下がることが多く、新政権は特に 用心しなければならない」と強調。重要政策の立案へ登用され、政権 と命運をともにする「政治任用」とは意味が異なるとしながらも、「区 別は微妙。国民にも官僚にもきちんと説明責任が果たせなければ、『単 なる政治的な人事』ということになる」と危惧(きぐ)を示した。

本来の「官僚復活」も

一方、新政権の方針は望ましい意味での「官僚復活」につながる との見方もある。政治主導が確立すれば、これまで政治的な調整作業 に追われていた官僚が施策立案などの本務に集中できるようになるた めだ。政策研究大学院大学の飯尾潤教授は「官僚主導でないというこ とは、実は官僚制が復活する可能性を秘めている」と語る。

飯尾教授は、政治家が必要な調整をしないために、「官僚の仕事の かなりの部分が調整に割かれ、政策など考えている暇がない」とし、 これが「官僚の劣化」にもつながっていると説明。今春の追加経済対 策向けの大型補正予算編成に当たり、「官僚たちが枠を埋められなかっ た」ことに、この問題が端的に示されたという。

飯尾教授は、政治家と官僚の仕事のバランスを変えなければなら ないとしながらも、状況は深刻で「政権交代しても、そう簡単ではな い」と指摘。ただ、民主は自民より族議員が少ないこともあり、官僚 の政治家対応が軽減されるとし、新政権は本来の「政官」機能の回復 に向かう可能性があるとの認識を示した。

内からの改革

一方、官僚の中からも自らの手で日本の行政を変えていこうとす る動きが生まれている。「戦略を策定し、各省庁の調整をする。首相官 邸(内閣)直結とし、閣議の支援機関となる」-。一見、民主党が新 設する国家戦略局のことかと見まがうが、実は、20、30代の若手官僚 を中心としたNPO法人「プロジェクトK」が、かねて創設を提唱し てきた「総合戦略本部」の説明だ。

同NPO法人は、「縦割り」「前例踏襲」といった官庁に巣食う旧 弊を打破しようと2003年に発足。地方自治体との勉強会などを積極的 に開いているほか、小泉純一郎政権時には官邸に提言を出すなど政権 への働き掛けも行ってきた。今月出版した「霞が関維新」(英治出版) では、「総合戦略本部」創設に加え人事制度刷新や予算行政管理局の設 置などを提言している。

代表の朝比奈一郎氏(経産省勤務)は15日、ブルームバーグ・ニ ュースに対し、「目的は霞が関改革の実現という一点に尽きる」と強調。 鳩山新政権については「国家戦略局にしても、行政刷新会議にしても まだ中身はこれから」と見守る姿勢を示したが、国家戦略局のような 組織は「中身がしっかりする形」が必要だと話す。

内藤氏のインタビューを掲載した東京新聞紙面は、「反自民」で結 集した細川政権が発足後数カ月で、看板の政治改革が暗礁に乗り上げ、 国民の支持率低下や連立政権内部の亀裂にあえぐ姿も伝えている。 鳩山政権が同じ轍(てつ)を踏まないためにも、官僚との生産的な協 働関係を構築し早期に成果を生み出していくことが求められる。

国際基督教大の西尾教授は「公務員を腐らせて、仕事がうまく動 くわけではない。むしろ皆ついていこうとか、新しい政権で混乱した 日本を建て直そうというふうにもっていけるかどうかだ」と語る。

-- 取材協力:下土井京子、坂巻幸子Editor:Hitoshi Ozawa,Masaru Aoki

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