日銀総裁発言要旨:異例の措置で対応した「急性症状」は消えつつある

【記者:日高正裕】

9月17日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は17日午 後の定例会見で、経済・物価情勢について次のように述べた。

――消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)と国内企業物価指数 は過去最大の下落率を更新している。デフレ懸念が強まっているので はないか。

「昨年秋以降の急激な景気の落ち込みを反映して、経済全体の需 給バランスが大きく悪化しているため、この面から物価の下落圧力が やや長い期間にわたって残る可能性が高いと判断している」

「過去のパターンを見ると、物価は経済活動に遅れて反応してい く性格のものだ。いずれにしても、経済にとって大事なことは、こう した物価の下落圧力が続く間に、物価下落と景気悪化の悪循環、いわ ゆるデフレスパイラルを起こさないことだ。そのためのポイントは、 金融システムが不安定化しないこと、それから企業や家計の中長期的 なインフレ予想が下振れないこと、この2つだ」

「これまでのところ、わが国の金融システムとインフレ予想はと もに安定していると判断している。従って、デフレスパイラルに陥る リスクが高まっているとは判断してないが、物価の下落圧力がしばら く続くとみられるだけに、今後の物価動向については細心の注意をも ってみていきたい」

――先般の20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議等で、B IS規制について銀行の自己資本を質、量ともに向上させる方向で議 論されている。その影響をどうみるか。

「昨日公表した金融システムリポートでも強調している通り、(金 融機関が抱える)株式リスクや信用リスクの大きさが日本の金融シス テムの頑健性の先行きに不確実性をもたらしているという面がある。 そうしたリスク削減や適切や管理と並んで、リスクに応じた資本基盤 の強化が重要な課題だ」

「現実に、大手の金融機関がこのところ相次いで普通株の発行に よる増資を実施しており、こうした経営判断は金融システムの安定に 資すると評価している」

――民主党政権が発足したが、経済への影響をどうみるか。

「発足したばかりであり、その影響をコメントするのは適切では ない。ただ、新政権におかれては、日本経済が抱えるさまざまな課題 の克服に向けて適切な政策を進めていかれることを期待している」

――亀井静香金融・郵政担当相が中小企業金融対策として、借入金の返 済猶予を行うとの意向を示しているが、どう評価するか。

「亀井大臣が就任会見で銀行借入の返済猶予措置について言及さ れてことは承知しているが、この件については、今後政府において具 体的な議論が行われていくと承知している。現時点で私からコメント するのは差し控えたい」

――円高が進んでいるが、物価への影響をどうみるか。

「円高が短期的に経済にどういう影響を与えるかという問いを立 てた場合は、確かに円高は物価を下げていく方向の要因に働くと思う。 ただ、円高の影響はもちろん輸出企業と輸入企業でも異なるし、経済 活動に与える影響も、短期的なデフレ的な圧力と、それから中長期的 には経済を押し上げていく力もある。少し長い目でみた場合、経済全 体のバランスの中で判断していく必要がある」

――藤井裕久財務相が介入に消極的な姿勢を示していることをどうみ るか。

「為替市場の介入の責任は日銀ではなく、財務大臣にある。私が コメントするのは適切ではない」

「日銀としては、為替の変動は経済、金融にさまざまな影響を与 えるので、その影響について注意深くみていく必要がある。また、為 替レートは市場においてできるだけ安定的に形成されるのが望まし い」

――日銀は本日の金融政策決定会合で、金融環境について「厳しさを残 しつつも、改善の動きが広がっている」として判断を上方修正した。 亀井大臣との見解に違いがあるが、どうみるか。

「世界経済は2000年代半ばにかけて蓄積したさまざまな不均衡 の調整過程にある。これに加え昨年秋のリーマン破たんをきっかけと して信認の崩壊と金融市場の機能不全は、世界経済に急性症状的なシ ョックをもたらした。前者の過剰の調整は今後も続くと考えられるが、 各国でとられたさまざまな対策もあり、急性症状の方は今年春ごろか ら解消してきており、内外の金融環境も改善してきている」

「国内の金融環境については、まずCP(コマーシャルペーパー)、 社債の発行環境の改善が続いている。もちろんCP、社債は大企業が 発行している資金調達手段であり、中小企業ではないが、この市場の 改善傾向が続いている」

「企業の資金繰りについても、中小企業ではなお厳しいとする先 が多いが、大企業では改善の動きが明確に広がっている。以上を踏ま えて、わが国の金融環境については、なお厳しさを残しつつも、改善 の動きが広がっていると判断した」

「先行きの下振れリスクとして、従来は国内の金融環境を挙げて いたが、今回これを落とした。ひところのように、国内の金融機関や 金融市場が原因となって景気を下押すというよりも、グローバルな経 済、金融市場が混乱する結果としてこのリスクが顕在するという性格 のものに変化している」

「こうした判断から、国際的な金融経済情勢という現在採用して いるリスク要因に加えて、国内の金融をさらに挙げることはしなかっ た。いずれにしても、こうした動きがさらに広がっていくのかどうか については、各種の指標やアンケート調査などを通じて総合的に評価 していきたい」

――今回の決定会合で、リスク要因として国内の金融環境を削除したの に加え、新興国の回復といった上振れ要因についても指摘した。先行 きのリスクは低下したと判断しているのか。

「中心的な見通しとして、われわれの判断は、非常に慎重に先行 きをみている。これは日本に限らず、世界全体としてそうだが、現在、 景気が回復してきている要因を考えた場合、政策の効果によって支え られている、あるいは在庫調整の進ちょくによって支えられている面 が強い。従って、こうした効果が出尽くした後の民間需要の持続的な 回復の強さ、あるいは期間についてまだ自信が持てない」

「そういう意味で、先行きについて慎重な見方を崩していない。 そうした中心的な見通しを前提として、上下どのようなリスクを認識 するかということで、その場合に今回の発表文にあるように、新興国 経済が回復してきていることは前回対比プラス方向の要因として加え た。あるいは国内の金融環境についても、従来は独自のリスク要因と して挙げたが、今回は先ほど申し上げたように落とした」

「リーマン破たんの時に直面したようなテールリスク(発生する 可能性は低いが、発生すると国民の損失が非常に大きくなるようなリ スク)はだいぶ小さくなってきた。ただ、テールリスクは減ってきて いるが、中心的な見通しについては慎重にみていることは変わってい ない」

――企業金融支援策の必要性は減ってきているのか。

「昨年秋以降のリーマン破たん以降の急性症状はだいぶ消えつつ ある。一方で不均衡の調整は少し時間のかかるプロセスだ。CP、社 債の買い入れ、企業金融支援特別オペはそれぞれ対象とする市場や目 的も若干異なるので、一括して議論することはなかなか難しいが、い ずれにしても中央銀行の政策としては異例の措置であり、リーマン破 たん以降の急性症状に対応するための措置として導入した」

「その取り扱いについては、企業金融や金融市場の展開を注意深 く点検し、金融環境を総合的に判断した上で、時限措置の期限である 12月末までに判断していく。その際は金融環境の改善度合いに応じて 適切に対応を決定していく」

――デフレに対して金融政策は十分に対応しており、もはや、やれるこ とはないのか。

「日銀はまず、政策金利を非常に低い水準にする、2つ目に金融 市場の安定を図る、3つ目に機能が低下した個別のクレジット市場に 適切な働き掛けとしていくという3本で対応している。基本的な考え 方として、こうした政策を粘り強く対応していく。もちろん、環境の 変化に応じて若干の修正があり得ると思うが、粘り強く続けていく。 他の中央銀行も同じように対応している」

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