【コラム】リーマン記念日のオバマ大統領演説にもの申す-J・ワイル

2008年9月15日のリーマ ン・ブラザーズ・ホールディングス破たんから1年がたった昨日の演 説で、オバマ米大統領は金融危機に対する政権の対応を1つの数字に 集約して見せた。

大統領は明るい話題から演説を始めた。政府に救済された銀行は 700億ドル余りの公的資金を既に返済し、「政府が保有株をすべて売 却したケースでは、納税者は投資に対して実に17%のリターンを稼 いだ」というのだ。

こういう算数こそ、リーマンを窮地に陥れた根源だ。これは「い いとこ取り」という計算方法だ。

はっきりさせておこう。納税者は被救済企業への投資で17%の リターンなど得ていない。現実世界の投資では利益の出た取引だけで なく、損失の出た取引や、まだ売らずに持っている投資資産の価値目 減りも計算に入るのだ。

この強がりとも受け止められる発言から数分後、オバマ大統領は 自身が提唱する金融改革案のすべての基礎となる「単純な原則」を披 露した。「透明性を高め責任の所在をはっきりさせる道筋について、 明確な規則を定める必要がある」と。大統領は正しい。われわれはこ れを実施するべきだ。その第一歩は、大統領の演説のために数字を準 備する人々の透明性向上だろう。

オバマ大統領の14日の演説を、銀行業界の抜本的改革の機会を 失ったと批判するのはたやすい。しかし実は、最良の機会は同大統領 の就任時に、同政権が「二度と大手金融機関をつぶさない」と決めた 時点で失われている。

逆戻り

オバマ大統領は昨日、「無鉄砲な行動と抑制の効かない行き過ぎ の時代には戻らない。これらは今回の危機の核心だった。余りにも多 くの人間が、目先の勝利と膨れ上がったボーナスへの欲望に駆り立て られていた」と語った。しかし、ウォール街ではボーナスの風潮がほ とんど変わっていない今、時代逆行の流れはもうかなり進んでいる。

オバマ大統領は「ウォール街はもはや、結果を考慮しないリスク テークを再開し、次に窮地に立った時も米国の納税者が安全網で支え てくれるだろうと考えることはできない」と述べた。しかしもちろん、 次回も納税者がツケを払わされることは誰もが知っている。「歴史を 繰り返させてはならない」と大統領は言う。困ったことに、われわれ は既にそれを許しつつある。

大統領はまた、「新しい時代に合わせて規則と規制構造を作り変 える建設的な取り組みに、金融業界が参加する」ことを呼び掛けた。 しかし、大統領も当然知っているはずだ。金融業界が自らに厳しい規 制を課すことに同意するわけがない。

特別扱い

既に大き過ぎてつぶせない銀行を分割するのではなく、大統領は これらの巨大銀行に「Tier1金融持ち株会社」というタイトルを 与え特別に保護し、規制しようとしている。

しかし、大き過ぎてつぶせない金融機関が容認できないリスクを 取ることを、規制当局が確実に阻止することなどできないのは証明済 みだ。巨大銀行が再び金融システムを脅かすのを防ぐ唯一の方法は、 分割してそのリスクの芽を摘んでしまうことだ。なのに、オバマ大統 領と経済顧問らはこれを望まない。

オバマ大統領は、自身の案について「金融機関破たんのコストを 株主や債権者に負わせる」という。しかし、大統領は昨年の春にシテ ィグループについてこれを実行する機会があったとき、まったくその 気を示さなかった。オバマ改革が実現しようがしまいが、政府が次回 に違う対応をするとは思えない。

できること

新たな規制を導入する前に、金融システムへの長期的信頼回復に 向けて大統領にできることは、既存の規則と法律を順守させることだ。 リーマンの破たんから1年がたった今も、株式公開金融機関の多くが 保有資産価値を実際とかけ離れた高水準で評価していることは周知の 事実だ。

簡単に合格できる「ストレステスト」などの小細工で、債務超過 気味の銀行が健全だなどと国民に思い込ませるよりも、大統領は銀行 経営陣と取締役会に、正確な価値評価を義務付け、違反には訴追で対 応するべきだ。バンカーが正直に白状した場合、もっと多くの銀行が つぶれ、市場を再び恐怖に陥れるリスクはあるが、これはわれわれが 進んで冒さなければならないリスクだ。

つぶれるべき企業が実際につぶれるまでは、市場に透明性と責任 の意識は育たない。われわれは今それを避けて、はるかに巨大な規模 のメルトダウンに向かっているのかもしれない。そのような事態にな れば、最終的に政府の資金ですら対応に十分でなくなることも考えら れる。

真実

不幸なことに、そのような壊滅的な大事件が起こらない限り、わ れわれの指導者は金融業界との蜜月を終わらせず、業界に内容のある 改革を迫ることもないというのが真実かもしれない。オバマ大統領も これを承知しているに違いない。 (ジョナサン・ワイル)

(ジョナサン・ワイル 氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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