ダイヤ業界:リーマンショックで失った輝き戻らず-世界的な不振続く

インド西部の村の玄関先で、ビラ ス・コヤニさんはオートバイのチェーンでつり下げられた木製ぶらん こを揺らしている。ぶらんこに乗っている生後7カ月の息子はビラス さんの夫が自殺した8日後に生まれた。米アリゾナ州フェニックスで ダイヤモンドの宝飾品がセールスマンのバッグに売れ残ったことが、 母子がこの2部屋の住宅にたどり着く結末にどうつながるのだろうか。

米リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが破産申請した2008 年9月15日、セールスマンのガディ・ギラディ氏はアリゾナ州で宝飾 店を訪ね歩いていた。宝飾店主らは、4年余りに及ぶダイヤ価格の高 騰を帳消しにする次々と明らかになる危機を伝えるテレビニュースを 見て、ダイヤを買うのをやめた。ギラディ氏は店主らに追い返されて しまった。

ギラディ氏は「業者らはバッグを開けさせてくれさえしなかった だろう」と振り返る。同氏は、200ドル(現行レートで約1万8200円) から4000ドル相当のブレスレットやイヤリング、ペンダント、指輪を 持参していた。多くは、インドで研磨された非常に小さなダイヤがち りばめられた製品だ。

ギラディ氏がその日、フェニックスで見た光景の影響は、2カ月 後にインドのダイヤ研磨工場の従業員でビラスさんの夫のマヘシュ・ コヤニ氏に降り掛かる。リーマン破たんをきっかけに景気低迷の津波 が押し寄せたのだ。米国の宝飾品のクリスマスシーズンの売り上げは 20%以上落ち込み、ベルギーのアントワープの取引業者の原石輸入は 半減。インドのダイヤ関連業界の労働者約40万人の生活が打撃を受け、 ボツワナでは鉱山の操業が相次いで停止された。

回復はまだ

英WWWダイヤモンド・フォーキャスツのマネジングディレクタ ー、リチャード・プラット氏は、ダイヤ業界の混乱はさらに2年間続 き、価格は少なくとも10年間、金融危機前の水準には戻らない公算が あると指摘する。ボツワナのジワネングやインドのスラト、ニューヨ ークのダイヤ店街など世界のダイヤ業界では100万人以上が働いてい る。

世界最大のダイヤ供給会社、デビアス・グループで価格予想を担 当していたプラット氏は、3月以降40%上昇している原石価格は、「小 売販売の実績に裏付けられたものではなく」、向こう1年間に下落する 可能性が高いと予想。研磨済みダイヤは4%値上がり後に価格上昇が 止まるとの見通しを示す。

これは、1-6月の売上高が毎月減少している米国の宝飾品業界 はさらに困難な状況に陥り、近い将来の回復は見込めないことを意味 する。ボツワナでは09年のダイヤ収入が50%減少すると予想されて いる。宝石・宝飾品輸出促進委員会(ムンバイ)のバサント・メータ 会長によると、インドではリセッション(景気後退)終了後も少なく とも1年半は約24万人に上る研磨やカットの業者が復職できない可 能性がある。

未亡人

「ダイヤを頼りにしていたのに、ダイヤはわたしたちを裏切った」。 ビラスさんは、2人の息子とともに住む両親宅の外で、宙を見詰めな がら言った。両親宅はムンバイの北814キロメートルに位置する。

宝石・宝飾品輸出促進委員会によると、インドから輸出される研 磨済みダイヤの評価額は昨年11月に前月比で59%低下。15歳から研 磨業に携わっていたビラスさんの夫コヤニ氏(享年29)にとってこれ は破滅的な出来事だった。残業代も含めた月給は10月に50%増加し 1万2000ルピー(現行レートで約2万2500円)になっていた。コヤ ニ氏が勤務するスラトの工場は同月28日、ヒンズー教の祭り「ディワ リ」のために休業となり、その後再開されることはなかった。

ビラスさんの兄弟で元ダイヤ研磨業者のディネシュ・ルパラリア 氏によると、コヤニ氏は、自宅の建設を依頼していた業者や、5万ル ピーを借りていたおじへの支払いを滞るようになった。

12月28日の朝、新聞を買うためにスラトの自宅を後にしたコヤ ニ氏は農薬を飲んだ。自宅に戻ったコヤニ氏は妻の両腕に倒れこみ、 病院に到着した午前10時には死亡していたという。

ビラスさんは夫が依頼した自宅の建設を中止し、残った10万ルピ ーを頼りに生活している。結婚式の日に撮影した夫の写真を持ち、「お 金は長くは続かないでしょう。わたしはただ、尊厳を持って生きたい だけです」と語った。

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