【コラム】ゴールドマンとドイツ銀が報酬制限を支持する理由-Mリン

バンカーが受け取る高額報酬は多 くの人の批判の的となっているが、最近は金融業界内からも抑制に賛 成する動きが出ている。

ドイツ銀行のヨゼフ・アッカーマン最高経営責任者(CEO)は 世界的な報酬制限ルールを呼び掛け、米ゴールドマン・サックス・グ ループのロイド・ブランクフェインCEOは、複数年の賞与保証を禁 止し、支払われた報酬の「返還」を認めるべきだとの考えを示した。

確かにこの業界は友愛とは無縁の世界だが、それにしてもバンカ ーの報酬制限に真っ先に反対してしかるべきドイツ銀とゴールドマン の経営トップがなぜ規制に賛成するのだろうか。

アッカーマン、ブランクフェイン両氏が突如、強欲と物質主義と 決別したという可能性もあるが、以下のように考えればより納得のい く説明ができる。

彼らは自社の損得勘定に基づいて動いているのだ。金融業界への 規制は、既存の大手に有利に働く一方、新興企業が伸びにくい状況を 作り出すだけだ。最も得をするのは一般市民ではなく、アッカーマン、 ブランクフェイン両氏のような金融大手のCEOだ。

この2社が報酬制限に賛成しているということは、これはわたし たちにとって良い案ではないかもしれない。

才能ある人材の争奪戦

アッカーマン氏は先週、フランクフルトで開かれた銀行関連会議 で、「才能ある人材の争奪戦」で不公平が生じないように、世界の報酬 規則の標準化が必要だと主張した。一方、同じ会議でブランクフェイ ン氏は、過剰なリスクテークを抑制するため、報酬の返還を認めるべ きだと述べた。また株式報酬の割合を増やし、経営幹部については退 社するまで大部分を保持することを義務付ける必要があるとした。

2人の発言は、例えて言うならマイクロソフトのビル・ゲイツ会 長が同社ソフトの無料・オープンソース化に賛成するとか、投資家ジ ョージ・ソロス氏が、証券取引所によるヘッジファンドの為替投機規 制の必要性を訴えるのと同じくらい驚きだった。

しかし、これらは業界の頂点に君臨する2人の社会的良心の発露 ではない。むしろ既存金融機関の権限を守るためにせざるを得なかっ た皮肉な企てなのだ。

アッカーマン氏は、世界的な報酬規則を設けなければ、各国間で 不公平が生じると説明した。つまりドイツで報酬制限が実施されて英 国で行われなければ、この措置は英銀に有利に働くというわけだ。さ らに、報酬が規制されていない地域に拠点を置く金融機関も恩恵を受 ける可能性がある。一方、世界的にルールが標準化されれば、大手銀 行に有利となるだろう。

無名の中小銀行の株

ブランクフェイン氏は、株式報酬の割合を増やすよう訴えた。公 平に見て、これはより大きな意味がある。しかし大手と中小の銀行で は大きな違いが生じる。ゴールドマン株をもらえばほとんどの人は喜 ぶだろうが、たとえゴールドマンをしのぐような優れたアイデアを持 った金融機関でも、無名な中小銀行の株ではうれしくない。これも既 存の大手銀に有利な措置だ。

つまり世界的な報酬制限ルールは、以下の3つの点から大手銀に 有利に働く。1つは、既存の大手銀の間に実質的なカルテルを生じさ せる。大手銀は、自社の花形トレーダーが競合行から高給で引き抜か れるのを恐れる必要がなくなる。それが実質的に禁止されるからだ。 その結果、トレーダーよりも経営者側が力を持つようになるだろう。

第2に、既存の大手銀の地位は揺るぎないものとなる。新規参入 した金融機関がシェアを伸ばす唯一の方法は、より高い報酬を支払い 経験豊富な人材を獲得することだ。しかし、報酬規則と規制強化が実 現すればこの方法は不可能になる。

自ら規制する方が得

最後に、これは外部による監督ではなく、自主規制になるとみら れることだ。自主的な規制は必ず、既存の参加者に有利になるよう定 められる。報酬制限が不可避であるなら、自ら規制する方が得策なの だ。

アッカーマン、ブランクフェイン両氏は、自社に有利になるよう な改革案を提唱している。賢明だ。

だが用心しなければならない。両氏にとって良いことであっても、 ほかのすべての人にとっても良いということにはならない。逆に、報 酬の自由を維持すべき最大の理由を両氏が示してくれたとも言えるだ ろう。 (マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

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