「日銀サーベイ」金利予想、経済物価情勢、金融政策の展望コメント

【記者:日高正裕】

9月15日(ブルームバーグ):ブルームバーグ・ニュースは16、 17両日開かれる日銀の金融政策決定会合を前に、有力「日銀ウオッチ ャー」16人に内外の経済・物価情勢、金融政策の展望を聞いた。質問 内容は以下の通り。アンケート回答期限は14日午前8時。エコノミス ト予想のまとめ記事は「円高が新たな脅威-株安との連鎖なら追加緩 和検討も」をご覧ください。

1)今回の会合で予想される政策、2)日銀が政策金利を「引き 下げる」時期、3)日銀が政策金利を「引き上げる」時期、4)~11) 政策金利の予想水準(氏名50音順、カッコは前回回答)、12)経済・ 物価情勢の展望、13)金融政策の展望。

●大和証券SMBCの岩下真理チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年春以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.30%(同)

12)米国では8月のISM景況指数の50超え、住宅関連指標の底入れ 感と良い材料も増えているが、8月の失業率が9.7%に上昇、家計の マインド指数の低下等、雇用と消費の弱さは続いている。実質国内総 生産(GDP)成長率が7-9月以降プラスに転じても、企業だけで なく家計のバランスシート調整にはまだ時間が必要であり、本格的な 回復軌道に乗るのは、来年半ば以降になるとみている。

国内では引き続き輸出と生産の持ち直しの動き、エコポイントの 効果は出ているが、一方で景気回復の持続力に陰りも見え始めた。具 体的には①7月の失業率が5.7%と過去最悪更新②8月の景気ウオ ッチャー指数が8カ月ぶりに低下したことである。4-6月の企業収 益は最悪期からの回復の兆しは見えても、前年比ベースではまだ大幅 減少、労働分配率の上昇は一服してもまだ水準は高い。

先行きの雇用・所得環境の厳しさは続くと見込まれる。そんな状 況下で、天候不順や新型インフルエンザの影響が加われば消費が冷え 込むのは避けられないだろう。足元の在庫復元が一巡し、世界各国の 需要促進策の効果が弱まる10-12月以降は回復力が鈍る姿が見込ま れる。生産が元の水準に戻るにはまだ遠い。年度下期の回復シナリオ は海外経済の回復が前提である以上、不確実性は大きい。

さらなる懸念は足元で値下げ競争が加速し始めていることだ。7 月の消費者物価で下落品目の割合は50.4%(6月は46.6%)と増加が 止まらない。財だけでなくサービス価格に広がっている。企業向けで 先行したサービス価格が個人向けに波及すると、デフレ圧力は強まる。 需給ギャップの大きさに対する物価感応度の低下と、10年度のGDP がプラスに転じることで、デフレスパイラルには陥らないとみている。

ただ、消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)のマイナス 幅縮小ペースが遅れる可能性はありそうだ。10年度から民主党政権に よるガソリン税の暫定税率の廃止、高速道路の無料化が実施となれば、 CPIの押し下げに寄与する。よって10月展望リポートでは、09年 度から3年連続でコアCPIはマイナス予想というのが大勢となろう。

現在、10月1日発表の日銀短観・9月調査のアンケート回収期間 である。3カ月前と比べて日経平均は1万円超えを定着しつつあり、 企業収益も最悪期を脱したとみられ、業況判断DIの改善傾向は示さ れるだろう。09年度事業計画の数字も6月調査より、明るい変化は期 待できるが、その一方で、企業は先行きに自信を持っておらず、先行 きに慎重姿勢が読み取れる数字になると思われる。

13)5日のG20財務相・中央銀行総裁会議の声明文では、先行きの経 済見通しには慎重で、景気回復が確実になるまで必要な政策措置の継 続を示した。協調の政策措置で世界経済は最悪期を脱しつつあるが、 各国の対応が規模、時期、手段が異なったように、出口戦略は方向性 と必要性を共有するのみで、やり方は異なる形にならざるを得ない。

白川総裁が8月31日の講演で「わが国の景気は回復の兆し」と発 言したことから、日銀は足元の景気判断について8月月報時の「下げ 止っている」から上方修正を検討していよう。しかし、「回復の兆し」 に過ぎず、先行きの下振れリスクを強く意識しており、G20声明文の 「回復が確実になる」までにはかなり距離感を持っていると思われる。

金利引き上げという出口戦略は11年春以降を予想。当面は10月 展望リポート作成に注力し、企業金融支援の年末までの時限措置につ いては11月会合までに判断を下すことになろう。須田委員は講演で解 除に前向きな姿勢を示したが、今後の執行部の発言(17日の総裁会見、 18日の山口副総裁講演)が慎重であれば、期間延長の可能性はまだ高 いと思われる。

民主党政権への金融政策に与える影響は、今のところは中立とみ る。年内の予算審議の過程、秋深まるころに景気の先行きに不安が強 まった場合は追加対策の可能性もある。日銀への協力要請が強まるリ スクは否定できないだろう。一方で、日銀人事では審議委員の欠員1 名と水野委員(任期12月2日)の後任選出が注目される。

●みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年7月(2011年1-3月以降) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(0.50%) 11)11年6月末 :0.10%(0.50%)

12)国内景気は「L字の横棒が小さな波を繰り返す形」のうち、最初 の小さな上向きの波が起こっている状況。しかし、最近の景気指標持 ち直しの原動力である①在庫調整進ちょくを背景にした減産緩和②各 国が行っている景気刺激策の効果による耐久消費財などの販売増加- にはいずれも時限性がある。

構造調整圧力が強く作用している上、経済政策運営には財政・金 融の両面で手詰まり感があることから、米国ひいては日本を含む世界 経済回復の動きは脆弱(ぜいじゃく)なものにとどまらざるを得ない。 さらに、「L字の縦棒」が示している世界的な需要レベルの大幅下方シ フト、およびそれに伴う需給ギャップ拡大によって、「供給サイドのダ ウンサイジング」を企業は迫られている。

物価は人口減・少子高齢化を背景に国内需要が「地盤沈下」を続 け、慢性的デフレに陥っていたところに米国発のショックが加わると いう非常に厳しい状況だ。

13)企業金融支援策の解除問題では意見が割れてきているようだが、 超低金利政策からの出口が見えないという点は日銀内でコンセンサス だろう。むしろコアCPIのマイナスが11年度も続くと予想せざるを 得ない中、追加緩和圧力をかわすためのロジック構築に日銀はきゅう きゅうとしている印象がある。民主党は日銀の政策運営への政治介入 を避けるだろう。政治的な損得勘定で言えば百害あって一利なしだ。

●東短リサーチの加藤出チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年半ば以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.10%(0.25%)

12)各国の財政刺激策・金融政策による下支えの効果で世界経済は緩 やかな回復を続けている。米国は2010年度までは大規模な財政刺激策 の執行が続くことが予定されている。当面はそういった流れの中で日 本経済も緩やかな回復を見せるだろう。しかし、民間主導の自立的回 復にバトンタッチできる時期は各国ともまだ不透明だ。

13)金融システムが機能している環境下ではデフレスパイラルは激し くならないと日銀は想定しているため、当面の金融政策は現状維持だ ろう。米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日 銀を比較した場合、バランスシート正常化はFRBの困難度が群を抜 いて高く、通貨の信認という観点で、中長期的にドル安は続きやすい と思われる。

一方、日本は03-04年にかけて実施された巨額の円売りドル安介 入の負の遺産が残っており、国庫短期証券におけるFBの市中発行額 が100兆円を超える事態が起きている。巨額介入からの出口政策がま だ終わっていないと言える。これ以上の円売り介入は先行きの短期金 融市場に不安をもたらす恐れがあり、将来の金融政策に制約をもたら す可能性もある。

効果に限りがあることもあって、大規模な円売り介入は避けるべ きと思われる。現時点の民主党政権は円売り介入に積極的ではないと 推測されるが、市場で円高の材料にされるコメントは発しないように 政権幹部は注意する必要があろう。

●JPモルガン証券の菅野雅明調査部長 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年4-6月以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.25%(同)

12)景気回復のモメンタムが失われていないことが確認できた。夏季 賞与の減額と天候不順の影響で夏場の個人消費が心配されたが、7月 の個人消費総合指数が増加したことはこうした懸念を払しょくしてく れるものだった。8月が多少下振れても、9月の大型連休で消費の増 加が期待できるので、7-9月のGDP増加基調は維持されよう。

設備投資にも下げ止まりの傾向が明確になってきた。在庫も4- 6月が下方修正されたことで7-9月以降の在庫の下方圧力が減少し たこともポジティブ材料だ。ただ、公共投資が政権交代の影響で執行 が遅れ始めた点がマイナスに作用しそうだ。もっとも、全体としては 年後半の景気が失速する懸念はかなり薄らいだ。

13)先週の須田委員の講演内容からは、日銀は足元のコアCPIの下 落をあまり深刻には受け止めていないようだ。同委員は「エネルギー・ 食料を除いたコアコア部分の下落の一部は従来からの生産性向上を反 映したものの延長線上にある」との解釈を示しているほか、需給ギャ ップと物価の関係も一義的には決まらないとの見方を示した。

もっとも、CPIの下落基調は既に10年以上続いており、人々の 間にデフレ期待が強まっているところにガソリン税暫定税率撤廃など の措置が実施されると、さらにデフレ期待が強まることとなる。今後 景気が緩やかに回復してもデフレ期待がすぐに弱まるとは期待しにく い。デフレ期待の長期化にどのように対処すべきかが問われている。

民主党の政策の中には、物価を下げて家計の実質購買力を高める 政策が組み込まれているので、デフレ傾向が弱まる可能性は少ない。 最近の円高もデフレ悪化を加速させている。少なくとも当面は、民主 党政権は従来のスタンスを維持して日銀の独立性を尊重するとみられ るので、さらなる金融緩和圧力をかけることはないだろう。

国民全体でみても、銀行預金や現金を保有する年金生活者にとっ てはデフレとは決して悪いものではないので、なかなかデフレを克服 すべきとの世論は盛り上がりにくい。また、前回の量的緩和政策の経 験からみても、単なる準備預金の増加が実体経済に及ぼす影響は限定 的だ。日銀には手詰まり感が強い。

ヘリコプター・マネーの議論は「金融危機のリスクが高まりデフ レスパイラルが高まるような非常事態に使う劇薬」との見解であるた め、日銀が追加財政支出をファイナンスするような案がすぐ検討され る可能性は低い。しかし、デフレが続き名目成長率がゼロと言う状況 が続き、一方で社会保障費が増加傾向を続けると、国家財政はいずれ 破綻しかねない。

マクロ経済的には、改めて長期化したデフレの功罪を問い直すと きなのかもしれない。一方、金融市場が正常化されつつある状況下、 日銀はむしろ企業金融支援オペ、CP・社債買い入れ措置の一部を12 月で打ち止めにすべきかどうかを検討しているようだ。実際、最近大 幅な札割れが続いているCP・社債オペを12月にいったん止めてもあ まり影響はないだろう。この問題とデフレ対策は分けて考えるべきだ。

●第一生命経済研究所の熊野英生主席エコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年1-3月(同) 4)11年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.25%(同) 11)11年6月末 :0.25%(同)

12)7-9月は夏のボーナス減、冷夏、インフルエンザなどの影響で、 個人消費などが足踏みする。日銀にとっては生産を中心とする自律的 回復が7-9月以降も続くのかが注目点。

13)物価は原油の裏が出ているので、10月くらいまでマイナス幅が大 きい。その後は前年要因がはく落するの、見掛け上デフレは解消して いく。日銀はそうしたあやをどう説明するかがポイント。シナリオと しては、白川総裁はデフレへの警戒を怠ることはないとの見方。民主 党政権になってすぐに金融政策に影響は出ないとみるが、財政再建・ 国債管理政策の要請から日銀には引き続き低金利路線が要望されよう。

●BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年7-9月以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.10%(同)

12)輸出と生産の持ち直しから、「生産増⇒所得増⇒支出増」の好循環 メカニズムの作動開始を期待する向きもある。確かにそれはいずれか の段階で生じる。しかし、現段階の製造業の生産増は在庫調整の進展 に伴う在庫復元という一時的なものだ。製造業の業績改善(所得増) も、売上増というよりも主にコストカットによるものだ。

経済全体のパイが増えない中での製造業の業績改善は、他セクタ ーからの所得の移転、つまり非製造業や家計の所得悪化の裏返しに過 ぎない。足元に関して言えば、政策効果から全体のパイは多少増えて いるが、それらは「需要の先食い」に過ぎず、持続的なものとは言え ないだろう(交易条件の改善も影響しているが、これも一時的要因)。

企業や家計の所得形成メカニズムを見る限り、自律的な回復が始 まったとは言えない。4-6月に続き7-9月も比較的高めの成長が 予想されるが、政策効果がはく落すれば、日本経済は「踊り場」に入 るのではないだろうか。よくいって「ジョブレス・リカバリー」とい うところだろう

13)最近デフレスパイラスのリスクが高まっているといわれる。デフ レスパイラルが生じるメカニズムは複数考えられるが、その一つとし て名目賃金の下方硬直性がある。物価が下落しても、一般に名目賃金 には下方硬直性があって引き下げが難しく実質賃金が上昇するため、 企業が数量調整を進めるというものだ。日本の場合、明らかに名目賃 金の下方硬直性が失われ、物価の下落以上に名目賃金は下落している。

賃金下落をあまりポジティブにとらえることにはちゅうちょする が、名目賃金の下落が生じているからこそ、現状程度の雇用の数量調 整にとどまっているとも言えなくもない。少なくとも実質賃金を通じ たデフレスパイラルのリスクが高まっているとは言い難い。それゆえ 物価下落が続いても、日銀が追加的な政策対応を行う可能性は小さい。

今回の政権交代によって、基本的には日銀にとって必要と判断す る時に利上げを行いやすい環境に変わると考えられる。自民党政権下 では、日銀が利上げを模索する際に政治的なプレッシャーにさらされ る局面が幾度か生じた。この理由の一つは、自民党の伝統的支持者が 主に既存の生産者であるため、企業のコスト増加につながる利上げに 対してのアレルギーが強いことにある。

物価下落に対し自民党内ではマクロ的な観点に加え、企業の売り 上げ減少につながるということからも否定的な見方が強く、リフレを 望む声が大きかった。一方、民主党は政策の焦点を家計部門に当てて いる。もちろん民主党も不況時に低金利やそれがもたらす円安が景気 の押し上げに有効であることは理解しているが、同時に低金利が家計 部門から金利所得を奪い続けてきたという認識を強く持っている。

このため、循環的な景気回復が明確になれば、デフレが続いてい たとしても、それが小幅であれば、早期の利上げを容認すると考えら れる。また、ねじれ国会の下、審議委員の1名空席が続いていたが、 10月中にも決定されるとみられる。メンバー構成から考えると、今回 は経済学者から選ばれると考えられる。

●モルガン・スタンレー証券の佐藤健裕チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :2009年10-12月(同) 3)利上げ時期 :2011年1-3月(2010年10-12月) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.05%(同) 6)10年3月末 :0.05%(同) 7)10年6月末 :0.05%(同) 8)10年9月末 :0.05%(同) 9)10年12月末 :0.05%(0.25%) 10)11年3月末 :0.25%(同) 11)11年6月末 :0.25%(同)

12)日本とアジアは米国に先駆けて4-6月以降回復局面入りし、7 -9月も在庫復元圧力から日本の製造業は比較的急角度の回復が見込 まれる(4-6月鉱工業生産は前期比8.3%増⇒7-9月は8%増程 度)。米国経済は1四半期遅れたものの4-6月に底入れしたもようで、 7-9月は自動車購入への財政支援拡充を背景とした在庫復元圧力か らⅤ字回復となる見通しだ 。

国内的には10-12月は在庫復元圧力が一巡するが、米国では政策 需要出尽くし後も自動車生産は底堅く推移する見通し(前期比3.0% 増程度、弊社米国経済チームの推計)で、日本の輸出部門も米国の政策 需要の余熱の恩恵を受けよう。中国経済も政策需要により好調に推移 する見通しで、弊社中国担当経済チームは09-10年の中国経済見通し をそれぞれ9%,10%と一挙に2ポイント引き上げている 。

国内的には先行きの回復モメンタムを削ぐ材料が目白押しだ。財 政面では財政支出パターンの変化から公共投資は10-12月以降は急 減速し、経済全体のパフォーマンスにも影響しよう。雇用・所得環境 も逆風が続こう。製造業ではリーマンショック後の世界経済見通しの シフトダウンに伴い、余剰となった生産力の削減や産業再編が既に重 要なテーマとなっている。

歴史的低水準にとどまる設備稼働率を背景に余剰生産設備の削減 や正規雇用の削減が進もう。家計部門も定額給付金や環境対応車の買 い替えへの補助金支給、エコポイント制度など財政刺激策による所得 移転にもかかわらず、賃金圧縮に伴う消費への悪影響は避けられない。 10-12月以降の下押しの兆候は既に指標に現われている。8月の景気 ウオッチャー調査の現状判断DIは前月差でマイナスに転じた。

同DIは景気の方向性に約3カ月先行するため10-12月以降の 踊り場局面入りを示唆している。10-12月~10年1-3月は公共事業 をはじめとする公的需要のはく落により内需が停滞する上、海外需要 もいったん天井圏でさらに生産計画を力強く積み上げる段階ではない。 海外需要が再び力強さを増し、国内経済がその恩恵にあやかれるのは 10年度下期以降となろう。

13)デフレ長期化の見通しを映じて金利政策面では09年10-12月に 政策金利水準を0-0.10% (中心値0.05%)のバンド制に改める小幅 金融緩和を引き続き見込む。その際、補完当座預金制度は維持され、 バンド制移行後の補完当座預金金利は0.05%に設定されよう。上記は コンセンサスに全く織り込まれていないが、時間軸政策の再導入もデ フレ下では比較的蓋然(がいぜん)性の高い政策オプションである。

日銀はコアCPIが前年比安定的にプラスとなるまで現行の緩和 政策継続に再びコミットする可能性がある。3月以降の株式市場の大 幅なラリーと実体経済の改善が追加緩和の可能性を損なったことは事 実だが、為替市場では足元ドル安が進んでいる。弊社通貨ストラテジ ーチームは09年末のドル円相場を85円と予想しており、為替動向は 追加的なアクション発動のカタリスト(触媒)となり得る。

非伝統的政策では、民主党の一部議員が主張するように国債の一 段の買い入れ拡大の可能性がある。長期国債の保有額上限を定めた日 銀券ルールも増額と同時に見直されよう。日銀保有の中長期国債の定 義を見直し、残存1年未満の中長期国債を中長期国債保有残高から控 除するといった対応が有力だ。もっとも、そうした対応は長期金利の 急上昇といったイベントリスクが顕在化する場合に限られよう。

出口政策執行のタイミングは11年1-3月とみている。この時期 にデフレが収束する展望はなく、市場コンセンサス(11年度以降)と の比較でも依然早めの見通しだ。しかし金融市場の機能が正常化すれ ば、市場が見込むより早い段階で正常化を図るのが中央銀行家の本能 だろう。海外中銀の出口政策行使のタイミングも重要な要素だ。弊社 米国経済チームは10年7-9月からの出口政策執行を見込んでいる。

海外中銀が実際に一斉に利上げに動いたとき、日銀のみが著しく ビハインドする状況は考え難いだろう。もっとも、11年以降もデフレ 的状況が続くと見込まれるなか、政策金利は予測期間中に0.25%まで 引き上げるのが精一杯で、追加引き締めは見込まない。

ちなみに、日銀の物価見通し(10年度:-1.0%)はこれまで市 場の見通しよりも目立って慎重だったし、次回10月末の展望リポート では、足元マイナス7%前後ある需給ギャップから物価へのマイナス のフィードバック継続を見込み、日銀は11年度についても極めて慎重、 すなわちマイナスの物価予想を出す可能性がある。

●三菱UFJ証券景気循環研究所の嶋中雄二所長 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2010年11月(2010年9月) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(0.35%) 9)10年12月末 :0.35%(同) 10)11年3月末 :0.35%(0.60%) 11)11年6月末 :0.35%(0.60%)

12)日本の景気の現状を景気動向指数(CI)一致指数で見ると、09 年3月を底にした上昇基調を少なくとも7月までは明瞭な形で示して いる。一致CIは3月には84.8(05年=100)だったが、7月(速報 値)には89.6に達しており、4月から7月まで平均前月比1.2%、つ まり年率14%を超える力強い上昇ペースで推移している。

この背景には、この間の鉱工業生産指数の堅調な増加がある。生 産(05年=100)は2月には69.5まで減少していたが、7月速報値で は82.4まで回復しており、8月、9月の生産予測指数(主要メーカー の生産計画)もそれぞれ前月比で2.4%増、3.2%増と底堅い。特に顕 著な好調を示しているのが自動車工業だ。

エコカー減税・補助に加え、輸出の拡大を追い風にして7-9月 に4-6月実績の前期比12.9%増を大幅に超える21.2%増、10-11 月平均でも7.1%増の非常に力強い生産計画(日本自動車工業会「自 動車産業ニュース」をもとに、三菱UFJ証券景気循環研究所が季節 調整)を提示している。一方、製造業のもう一つの雄である電子部品・ デバイス工業も元気な姿を見せている。

電子部品・デバイスの出荷・在庫バランスを前期比で見ると、4- 6月には50.4%ポイントのプラスへと改善したが、7-9月を7月単 月で計算するとさらに16.5%ポイントとなり、前年比10.8%ポイント のプラスだ。電子部品・デバイスは生産については前年比2けた減が 続いているとはいえ、この調子なら年内にも前年比プラスに転じる可 能性がある。

情報通信機械工業も好調で、7月のIT関連財の出荷・在庫バラ ンスは全体で前年比プラス10.7%ポイントとなっており、いまだマイ ナス14.2%ポイントにとどまっている非IT関連財の出荷・在庫バラ ンスも1、2四半期遅れながら着実に改善へ向かいそうだ。経済の根 本をなす生産活動が非常にしっかりしているにもかかわらず、依然「2 番底が近い」というエコノミストが多いのは一体なぜだろうか。

そのような人たちは「米国・欧州経済が回復しない」のに加え、 「設備投資が落ち込んでいる」「失業率が過去最悪となった」「消費者 物価の下落幅が大きく拡大している」といった論調が主流であること がわかる。しかし、これらはいずれも「これまでの」景気の悪化を後 付けるものではあっても、景気の「先行き」を予測するには使いにく い部品であることが意外に理解されていないのが困りものだ。

米国景気の停滞論は、それが中長期的なものであるのならある程 度うなずけるが、足元以降2010年にかけての動向をうまく説明できて いるとは言えないように思える。なぜなら、米国・欧州だけでなく日 本・中国・インドといった世界経済の主要なプレイヤーの景気の先行 きを予測するOECD景気先行指数(CLI)が、トレンドを除去し た水準で見て7月にかけての最近4カ月間での上昇ぶりが著しい。

OECD事務局のまとめでもOECD経済のほとんどで力強い回 復の兆候が見られると述べているほどだ。しかもCLIの水準にさら に先行する3カ月前比年率、つまり瞬間風速で見ると、これらの諸国・ 地域のほぼすべてで2けたないしほぼ2けたの猛烈な上昇率が生じて いる。新たな外的ショックがない限り、少なくとも年内あるいはその 近辺で世界景気の二番底を想定することの奇妙さがよく分かる。

次に、日本経済を例にとって設備投資と失業率と消費者物価の景 気に対する位置付けを考えてみよう。私は、景気は鳥の雁が大空を渡 るように隊列を組んで順々に飛んでいく「雁行形態的パターン」を示し ながら進行していくと考えている。その先頭をなすのは交易条件だ。 交易条件は輸出物価を輸入物価で割ったものであり、企業の粗利益の 基礎を形成するものだ。

輸入物価は基本的に原油価格によって決定されるため、交易条件 は原油価格ときれいな逆相関を描く。交易条件は前年比で見ると8月 まで上昇が続いてきたが、今後原油価格が上昇に転じる可能性が高い と見込まれるため、間もなく反転・下降に転じよう。しかし、交易条 件と景気の転換点とのタイムラグは約1年半あり、直近で交易条件が 反転しても景気への本格的な影響は2011年に入ってからになる。

2番目に飛ぶ雁は先行・一致比率、つまり先行CIと一致CIと の比率である。一般に先行CIが最初に上昇し始めるのは一致CIが 低下傾向にあるときであり、逆に低下し始めるのは一致CIが上昇傾 向にあるときであるため、先行・一致比率は先行指数よりも先に動く ことになる。次に飛ぶ雁が一致・遅行比率で、一致CIを遅行CIで 割ったものだ。

一致・遅行比率は一致CIに先行するので、実は先行CIと同格 の先行指数なのだが、過去からの経緯(コロンビア大のG・ムーアが 開発)の中で実証的には若干先行指数よりも先行するとされてきた。 一致・遅行比率の経済学的性格について触れておくと、マクロ的に企 業の売り上げ側の指標が多い一致CIを固定費的なものが多い遅行C Iで除したものなので、企業の収益環境を表すとも言われている。

そして、いよいよ先行CI(在庫率や商品市況、新規求人など)、 一致CI(生産、稼働率、有効求人倍率など)と来て、最後の遅行C I(失業率、設備投資、家計消費支出など)の番となる。今回のよう に生産など一致CIに含まれる諸指標が急落した場合、その6-9カ 月後の最後の最後で失業率が大きく上がり、設備投資が大きく減少し、 消費者物価を含んだ名目の家計消費支出が大きく落ち込むことになる。

これは当然、先行指数である一致・遅行比率を改善させることに なるため、これらの下落それ自体の最終需要への打撃があったとして も、究極には企業収益を固定費削減の面から引き上げる作用も持つの で、決して先行きネガティブな作用のみもたらすわけではないことに 注意する必要がある。以上の分析から、日本の景気は今後も当分(お そらく1年以上の間)、回復基調を持続するとみてよいと考えている。

民主党政権による公共投資削減を二番底の理由に挙げるエコノミ ストもあるが、今のところ補正予算の執行停止による影響は3兆円程 度とみられ、参議院選のある2010年度に打ち出される「子供手当て」 や「暫定税率の廃止」のプラス効果も6兆円程度あるので、少なくと も10年度の成長率へのネットでのマイナスはないとみるべきだろう。

10年は米国のオバマ政権の財政支出規模が過去最大の約4000億 ドルとなる他、バンクーバー五輪、サッカー・ワールドカップ、上海 万博、そして米中間選挙とイベントに事欠かない、いわゆる「クリス タル・サイクル」のピーク年に当たることにも注意が必要である。 一 方、日銀がコントロールしようとする短期金利も典型的な遅行指標だ という認識も必要だ。

景気の悪化の結果として物価も下がり短期金利も下がらざるを得 なくなるし、景気が拡大すれば最終的に引き上げざるを得なくなって くる。当然、日銀が注視する物価動向も景気の結果だ。これから10 月ごろにかけてはまだ下落傾向が目立つ消費者物価指数も、現在のよ うな生産の力強い拡大がある期間続いた後には、必ずと言っていいほ ど上昇してくる。

2010年度のコアCPIはわずかながらでも上昇に転ずると考え ておいたほうが良い。09年度の日本の実質成長率はマイナス3.1%だ が、4-6月以降それなりに順調な回復軌道に入ったとみられ、10年 度は1.8%成長に達しよう。コアCPIは09年度マイナス1.5%、10 年度プラス0.1%と予測できる。

13)物価はよほどの円高進行を前提としない限り、今後数年間も前年 比マイナスが続くとは考えにくい。現在のCPIの下落幅の拡大は08 年度下期の生産と原油価格の急落が主因であり、10-12月に入ると 徐々にマイナス幅の縮小が始まり、10年半ばにもプラス化して来よう。

10年度に入ると景気回復への確信と一部ではインフレへの懸念 から、中国人民銀行(5月)、ECB(7月)、FRB(9月)という 具合に次々に利上げが始まるとみており、日銀は10年11月にも利上 げを実施するとみられる。

物価上昇の可能性を否定する論理として、最近はGDPギャップ 論が幅を利かせているが、デフレギャップがすべて解消しないと物価 上昇が起こらないと考えるのは、ケインズの「真性インフレ」論の硬直 的な適用に過ぎない。実際には09年1-3月の8%程度から10年7 -9月に想定される5%程度のデフレギャップ水準に改善しただけで、 コアCPIのプラス化が起きると考えられる。

これはコアCPIの前年比騰落率を本当に動かしているのはGD Pギャップの「水準」ではなく、実は「限界ギャップ率」(GDPギャ ップの前期差)のタイムラグを持った過去の動きであるからだ。もう 今からでも10年度における消費者物価コアの急速な戻りが十分に予 想できるといえよう。

最後になったが、民主党政権の金融政策哲学は「家計の財産所得 改善のために日銀が利上げして超低金利を是正するべき」との急進的 利上げ派(仙谷由人衆院議員ら)と「財政赤字ファイナンスのために日 銀の国債引き受けも辞さない」というアコード派(大塚耕平参院議員) の2派に分かれているため、全体としてどちらが優勢になってくるか を読むしかない。

しかし、もっと重要なのは国際金融・経済情勢(為替も含めた)で あり、10年の今ごろ、世界の景気と中国・欧州・米国の中央銀行がど の方向を向いているのかを地道に判断していくしかないだろう。

●HSBC証券の白石誠司チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2012年以降(2011年度以降) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.10%(同)

12)昨年度後半における経済活動水準の著しい低下(発射台の低さ)、 景気対策の効果、在庫調整進展、これらの結果としての在庫復元需要 を背景に、多くの地域で景気底打ちが明確化している。ただ、未曾有 のデフレギャップに起因する最終需要の低迷長期化は必至で、人工 的・定義的景気回復との形容が妥当だ。こうした構図の下では、政策 効果のはく落が景気ピークアウトに直結してしまうリスクが大きい。

足元では景気ウオッチャー調査での現状・先行き判断DIのピー クアウト感示現、米製造業ISM新規受注指数のピーク圏到達なども 生じてきており、当面、市場は景気のダウンサイドリスクに敏感にな る可能性がある。先進国デフレギャップ解消は中長期的に見ても至難 であり、その間の成長期待低下・デフレ期待定着リスクは大きい。

13)基本的に現行政策をたんたんと維持。当面、具体的な数値にリン クさせる時間軸政策は採用せず、展望リポート等を通じた市場の自発 的な時間軸形成に委ねるスタンスを続ける。民主党は基本的には日銀 の独立性を尊重すると思われるが、相応規模の赤字国債発行によるマ ニフェスト実行となってしまった場合、日銀に長期国債買い切りオペ 増額を求める可能性はあろう。

●クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年4-6月以降(2011年1-3月) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(0.25%) 11)11年6月末 :0.25%(0.50%)

12)世界経済、日本経済ともに在庫調整進展、個人消費安定、企業設 備投資底打ちで回復基調に入った。この回復基調は2010年秋までは途 切れないだろう。物価は先進国ではGDPギャップの拡大、高失業率 を反映して緩やかな低下基調。他方、新興国では上昇基調が鮮明に。

13)景気は回復基調に入ったが、GDPギャップは大きく、正常化論 を展開するのは時期尚早との判断に至るだろう。2010年度いっぱい金 金利政策は様子見が続く見込み。

他方、緊急措置としての信用緩和に関しては、FRBの動向を確 認しながら早期に停止へ。もっとも日銀の信用緩和はFRBのそれと 比べて極めて消極的なものであったため、停止の市場へのインパクト は小さい。

最大の焦点はドル安対応。ドル安の基本的な背景は金融市場正常 化に伴う金融機関のリスクテーク能力復活(ドル・キャリーの拡大)。 放置しておけば、FRB利上げ期待が明確に視野に入るまでドル安基 調が続く。これに対抗するには日銀もマネープリントを加速させるし かなく、民主党政権との間で政策対応に関するコンセンサスを早期に 形成できるかが注目される。

特別会計改革に絡んでドル買い介入が困難であれば、別の手段で ドル安対応を行う(例えば、日銀による米国債直接購入)可能性も否 定できない。

●大和総研の田谷禎三特別理事 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年1-3月(2010年度後半以降) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(0.25%) 10)11年3月末 :0.25%(同) 11)11年6月末 :0.25%(0.50%)

12)外部環境がよりはっきりしてきた。欧米経済の低迷と新興諸国経 済の回復である。米国経済は景気支援策の影響や金融市場の落ち着き とともに回復過程に入ってきたが、そのペースはかなり緩慢だ。雇用 市場は改善傾向を続けているが、家計のバランスシート調整が消費を 抑制することがよりはっきりしてきた。欧州の景気回復も米国以上に 緩慢なことが明らかになりつつある。

エマージング諸国は東アジアを中心に景気支援策の影響もあって、 先進諸国に比べれば景気回復が順調で、それが日本の輸出を下支えし ている。国内の内需は自律的に回復することが期待できないため、国 内景気は輸出次第であり、欧米向け輸出の落ち込みをどれだけその他 への輸出で埋め合わせられるかが焦点だろう。

この面で当面大きな期待はできないだろう。また、短期的には政 権交代による景気対策の一部組み換えの影響が出るかもしれない。よ り長期的には、主要な増税措置をとることなしに国債増発が回避でき るかどうかの問題がある。なるべく早い時期に歳入・歳出の先行き見 通しを明らかにすべきだろう。

13)日銀を含め主要国の中央銀行は金融市場の落ち着きとともに、市 場安定化のためにとってきた異例の措置をやめていくだろうし、事実 そうした動きは既に始まっていると言っていいだろう。

問題は、伝統的な金融政策手段である政策金利の引き上げをいつ 始めるかだが、これまでの反省に立って、金融政策上考慮する要因と して信用の拡大ペースなど、より広い範囲の動向を見て決める傾向が 出てくるのではないか。とは言え、日本のように、物価変化率がマイ ナスのままでは利上げは難しいだろう。従って、少なくとも来年いっ ぱい政権とのあつれきは考えられない。

●信州大学の真壁昭夫経済学部教授 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2010年10月以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.30%(同) 10)11年3月末 :0.30%(同) 11)11年6月末 :0.30%(同)

12)米国では11日発表の米ミシガン大消費者信頼感が70.2となり、 ベージュブックの内容と併せて景気回復期待が高まっている。雇用環 境でも非農業部門雇用者数の減少幅が縮小し、新規失業保険申請者件 数に関しても増加幅が減少している。ただ、米国経済の現状を考える と右肩上がりの回復期待は低い。横ばいの低成長、あるいはW字型の 可能性もあり得よう。

背景には、これまでの成長エンジンだった米国の消費環境がまだ 弱いことがある。7月のCPIは前年比-2.1%と大きく落ち込んでお り、今後もデフレ圧力は強いだろう。米国の住宅市場を取り巻く環境 はまだ厳しく、消費者の購買意欲の弱さや住宅関連小売り、宝飾品な どの業態に目を向けても収益環境は厳しい。

4-6月の米国企業決算は株式市場からはおおむね良好な内容と して受け止められた。しかし、この業績内容が自律回復によるものな のかどうかについては議論の余地がある。減税や新車買い替え支援制 度などの政府支出がこうした業績内容の背景にはあるからだ。自律回 復はまだ先と考えるべきだ。

金融市場では大規模な流動性供給の結果としてまだ不況下のカネ 余り相場が続いている。足元の相場に目を向けると、債券市場では中 期ゾーンを中心に債券が買われるとともに、株式、商品市況も上昇す る展開となっている。こうした中、米国の金融機関の経営内容はリー マンショック以降の流れの中でその体力を大きく高めたとは言えない。

米国の商業用不動産市場では今後のローン乗り換えに対する不安 はまだ払しょくされていない。地銀の破たん件数は92に上っており、 このペースは落ちていない。足元の金融環境は流動性が回復した状況 であり、金融機関の今後のビジネスモデルの構築や本源的な収益力の 回復はまだ先になるだろう。

こう考えると、回復期待の高まりもあくまでも投資家の「期待」 に依拠したものでしかなく、自律回復ではないことに注意する必要が ある。仮に商業用不動産で大規模な破たんなどが起これば、再び投資 家のリスク許容度は低下し、金融機関の収益環境が再度悪化する可能 性も否定できない。雇用環境は厳しくかつ物価も下落基調にある中、 クリスマス商戦も厳しい内容となろう。

日本経済も消費、雇用環境ともに厳しい状況にある。4-6月G DP改定値は速報値から1.4ポイント下方修正の2.3%となった。企 業の在庫圧縮の進展が下方修正の要因になっているが、問題は企業の 操業レベルが現在抱えている製造設備をフルに活用できるだけの水準 に戻っているのかという点だ。

自動車産業では期間工の採用再開など前向きな動きもあるが、そ の活動は各国の自動車販売支援策に依存している。その他のセクター でも中国向け輸出などに依存しているところが多く、内需による業績 けん引には至っていない。完全失業率が5.7%と高い水準にあり、国 内の需給ギャップが7.4%のマイナスにあることにかんがみると、今 後も国内消費は弱含みデフレ圧力も高まらざるを得ない。

そうなると、やはり一般企業の操業レベルは現在の設備を十分に 使うことなく推移することとなり、日本企業には常に再編やリストラ の圧力が付随することになるだろう。民主党政権が誕生する中で、こ うした問題に対する打開策は今のところ議論にあがってはいない。民 主党の政策に関しては、家計に対する支援が大きな注目を集めてきた。

こうした政策に対する期待はすでに株価に織り込まれ、今後の金 融・経済政策に対する注目が高まっているが、新しい材料は出てきて いない。状況によっては、政策発表段階で株価が上昇してしまい、業 績に対する政策貢献が表れたときには利益確定で株価が売られるとい うシナリオも考えられる。自律回復が伴わない相場環境であるだけに、 投資家の期待とカネ余りに支えられた株価動向には注意が必要だ。

雇用、消費環境ともに今後も厳しい状況が続き、日本経済には常 にデフレに陥る懸念が付きまとう。企業の収益環境が厳しい中で、外 需の取り込みに加えて、いかにして内需を喚起して企業活動を支えて いくのか。量的緩和と低金利に慣れ親しんだ日本経済だけに、今後の 経済・金融政策は難しい判断を迫られよう。

13)日銀の金融政策を評価すると、金融危機に対する政策手腕は企業 金融支援のオペをはじめとする経済活動支援などを通して経済環境の 安定に大きく貢献してきた。この点は国際的な評価を得てしかるべき 成果だ。ただ、今後の政策は常に出口戦略の模索というテーマを念頭 に置きながら進めざるを得ないだろう。今このテーマを議論すること は時期尚早であることを政策担当者の多くは認識している。

ただ、市場機能を重視する日銀としては、どこかのタイミングで 市場および経済の自律的回復による景気の盛り上がりへと回復のバト ンをつないでいく必要があると考えているだろう。同時に、日本の財 源問題にかんがみると、公的資金の活用による景気刺激には限界があ る。当面の金融政策は特段の大きなイベントがない限り現状維持とな ろう。

民主党に対しては、日銀とのアコードの必要性を説く発言に批判 が集まっている。こうした発言の一つ一つが日銀の独立性と金融政策 の柔軟性を侵食しかねない。前回の日銀総裁候補をめぐる民主党の対 応を振り返ってみても、日銀には民主党に対する警戒感があるのでは ないか。大きな問題は国債管理だ。民主党政権が誕生しさまざまな家 計支援を実行していくには、どうしても財源の少なさが問題になろう。

どこまで歳出の無駄を省くことができるのかについても現段階で は不透明だ。市場には常に日本の財政バランスの悪化懸念があり、日 銀の国債買い取りに対しても今後の実施の効果とそれに対する評価は 必ずしも明るいものではないだろう。仮に国債の増発が実行され、デ フレ環境下での長期金利上昇を招く事態になれば、政府から日銀に対 する政治的要請と圧力はより強いものとなろう。

民主党からは円高を基本的に歓迎する発言が出ている。この認識 は対外資産に対する円の購買力が高まることやドルの下落圧力に鑑み ると将来的には正しい方向だろう。そのとき外需の取り込みをどうす るのか。円安によって輸出を伸ばす政策は間違いとの認識が民主党内 にある中、為替管理を含め、どのように東アジアとの経済的関係を強 化していくのか、この点に関する議論が深化することも見守りたい。

●野村証券の松沢中チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年8月(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.10%(同)

12)米国では企業部門の業績上方修正と家計部門の指標低迷から、株 価と債券市場がそれぞれ我田引水的な解釈を続けている。いわゆる「ジ ョブレス・リカバリー」であるが、そのマクロ的な帰結がどうなるの かは、企業の生産性上昇を反映して賃金がどの程度下げ渋るかにかか っている。91-92年のケースでは、失業率上昇の割に賃金が下げ渋り、 所得・消費を下支えた。

しかし、02-03年のケースでは失業率に比べ賃金の悪化が激しく、 消費を中心に景気が二番底を迎えた。現在がどちらのケースに近いの かはまだ判断が難しいが、より02-03年に近い展開を予想している。 確かに、失業率水準の割に賃金悪化の度合いはひどいものでないが、 伸び率そのものは既に02年-03年の底に近いほどに落ちている点を 重視しているためだ。

これに財政効果のはく落や家計部門でのバランスシート調整とい った要因も考え合わせると、企業部門の強さよりも、家計部門の弱さ がこれから来年前半に目立ってくるとみている。

日本では他国に先駆けてマクロ景気の弱さが市場に意識されてい る。先週発表された景気指標、景気ウオッチャー調査と機械受注が立 て続けに弱かった。両統計は、輸出主導の回復が内需回復につながる ために不可欠な要素、すなわち非製造業、中小企業部門、および設備 投資の動向を示す重要指標だ。日銀短観でもDIや設備投資計画で二 極化傾向が鮮明になろう。

13)景気の水準が低く(需給ギャップが大きく)、物価のマイナスが長 期化する見通しであることに加え、景気指標の一部でモメンタムが落 ちてきていることや円高が進んでいることから、日銀の追加緩和観測 が台頭しやすい。株価堅調が日銀の防護壁になっているが、これも崩 れてきた場合、追加緩和策が真剣に議論されるだろう。

民主党政権も当面財政ニュートラルな政策運営にコミットしてい ることから、金融緩和に景気刺激を頼りたいだろう。民主党幹部の原 口一博氏がTV番組で景気対策を問われ、一番目に金融政策を挙げて いたことが象徴的だ。

●日興シティグループ証券の村嶋帰一チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし 3)利上げ時期 :2011年下期 4)09年9月末 :0.10% 5)09年12月末 :0.10% 6)10年3月末 :0.10% 7)10年6月末 :0.10% 8)10年9月末 :0.10% 9)10年12月末 :0.10% 10)11年3月末 :0.10% 11)11年6月末 :0.10%

12)グローバルに生産・輸出関連の指標は上振れ傾向で推移している。 その代表例は米国のISM製造業・景気指数であり、直近8月は拡大・ 縮小の境目となる50を一気に上回った。ただ内外の生産・輸出の持ち 直しは在庫サイクルと政策効果(特に前者)を主たる背景としている 可能性が高い。

米ISM指数の「新規受注」と米個人消費の伸びを比較すると、 在庫サイクルに伴う短期的な変動を除けば、前者が後者の動向に強く 規定されてきたことが明らかだ。このため今後、在庫サイクル(及び 政策効果)が早晩一巡する中、米個人消費が精彩を欠く動きにとどま れば、米製造業のモメンタムは鈍化することが予想される。

また、来年は米個人消費が精彩を欠く中、世界貿易の伸びも緩や かなものにとどまるだろう。世界の生産基地である中国の輸出(8月 分)が下振れたことはこの点を先取りしたものかもしれない。国内に 目を転じると、今のところリスク要因に過ぎないが、民主党政権の下 で今年度・補正予算(特に施設費)の執行凍結が行なわれる可能性が 出始めている。

「意図せざる財政緊縮」が目先の経済活動を下押しするリスクに 注意が必要だろう。今年度・補正予算の取扱いにかかわりなく、2010 年に入れば公共事業が大幅に落ち込みことは避けられない。国内景気 は2010年入り後、「足踏み局面」を迎えると予想される。ただ、「意図 せざる財政緊縮」が現実のとなる場合、今年10-12月から足踏み感が 強まる可能性も否定できない。

デフレの長期化が不可避となっている。技術的な要因ではあるが、 2010年度には民主党政権下で揮発油税の暫定税率の廃止等が予定さ れており、コアCPIの前年比はマイナス1.5%前後にとどまると予 想される。金利市場をみると、FRBの金融政策について来年年末ま でに累計100bpの利上げ、2011年末までに同200bpの利上げが織り込 まれている。

現実にはこうしたペースで利上げを実行することは困難である可 能性が高く、その場合、一段の円高ドル安が進行、国内の景況感を追 加的に下押しする可能性が出てこよう。

13)実体経済の持ち直し基調が続いている間は日銀が追加的な緩和措 置を打ち出す可能性は低い。ただ2010年入り後、景気が足踏み局面を 迎える場合、利上げの条件を明示的に示す「時間軸」を導入し、現行 政策スタンスに対するコミットメントを強化することも考えられる。 例えば企業向け金融支援策を見直すタイミングで政策金利については 将来へのコミットメントを強化するといった選択肢が考えられよう。

とはいえ金融市場自体が現行政策の長期化を予想する中、時間軸 は象徴的な意味合いしか持たないだろう。また、政策の柔軟性を奪う 恐れがあることから、日銀は消極的な姿勢をとるかもしれない。2010 年度の新規国債発行額は民主党の新規施策を織り込んでも42兆円台 と試算され、需給面から国債利回りが急騰する事態は想定しにくい。

金融市場の機能が正常化に向かっていることも手伝い、日銀が資 金供給の円滑化を理由に、国債買切りオペを増額する可能性は低いだ ろう。ただ、2011年度以降は新規国債発行額が50兆円前後まで膨ら み、高止まりする可能性が否定できず、財政政策と金融政策の関係を めぐる議論があらためて浮上する可能性があろう。

●バークレイズ・キャピタル証券森田長太郎チーフストラテジスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :利下げなし(同) 3)利上げ時期 :2011年後半以降(同) 4)09年9月末 :0.10%(同) 5)09年12月末 :0.10%(同) 6)10年3月末 :0.10%(同) 7)10年6月末 :0.10%(同) 8)10年9月末 :0.10%(同) 9)10年12月末 :0.10%(同) 10)11年3月末 :0.10%(同) 11)11年6月末 :0.10%(同)

12)経済指標のⅤ字回復局面が終了する兆しが見えてきており、巡航 速度がどの程度なのかを見極める段階に入りつつある。需給ギャップ の縮小ペースが顕著に鈍化するようであれば、CPI底打ちの見通し も後退する可能性がある。ただし景気回復の流れ自体はすぐ途絶える ことはなく、実体経済が自律的に調整して二番底に陥る可能性は低い。

13)CPIが完全にプラスに転じるまで利上げに踏み切らないという、 前回の量的緩和期と同様な政策フレームワークではない。コアCPI の前年比がゼロに接近してくる局面に至れば、少なくとも物価を理由 に実質金利をゼロ近傍に固定しておく必然性はない。とはいえ、その 判断自体は2011年に入ってからのことであり、当面、政治との摩擦が 生じる要素は乏しい。

●ゴールドマン・サックス証券の山川哲史チーフエコノミスト 1)今回会合 :現状維持 2)利下げ時期 :なし 3)利上げ時期 : 2011年度 4)09年6月末 :0.10% 5)09年9月末 :0.10% 6)09年12月末 :0.10% 7)10年3月末 :0.10% 8)10年6月末 :0.10% 9)10年9月末 :0.10% 10)10年12月末 :0.10% 11)11年3月末 :0.10%

12)米国ではディスインフレ傾向が強まり、コアCPI上昇率は2010 年末までに0%前後まで低下する。日本ではデフレ環境が続く。

13)09-10年にかけ政策金利引き上げはむろん、量的緩和策解除も実 現しない。民主党の一部では「アコード」の可能性を示唆する声が聞か れるが、参院選後は歳入欠陥補てんのための国債増発もあり、国債買 い切りオペ増額が再浮上する。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE