【コラム】ボーナス嫌いフランス人はウォール街の救世主か-ライリー

ボーナス嫌いのフランスのラガ ルド財務相は意外にも、ウォール街の救世主になるかもしれない。

確かに、今はそうは見えない。同相は今月の20カ国・地域(G 20)首脳会議(金融サミット)で銀行報酬制限に関する合意を目指 す急先鋒だ。明確に上限を求めるフランス案は先日、米英の反対に遭 ったが、世界的な報酬規制を目指す同相の熱意はやまない。

しかしウォール街は心配しなくてもいい。ラガルド財務相の主張 が、パートナーシップ(共同経営)という形態の復活につながれば、 ウォール街にとっては利益だ。パートナーシップという構造は数十年 にわたりウォール街でうまく機能してきたし、バンカーの財布にもい たって優しいシステムだ。投資銀行はある時期に、金融の巨人となる ために相次いで株式公開に踏み切った。

パートナーシップへの移行は、政府が市場に口を出す必要性を減 らす。自分たちの金を直接賭けていれば、バンカーらがリスクについ てもっと慎重になり、借入金を使った大胆な賭けを控える可能性は高 まる。

スタンフォード大学のジョナサン・バーク教授(金融学)は今年、 「投資銀行をパートナーシップに変えることは、例えば借り入れや融 資活動を制限することに比べ、金融危機の再発防止に、はるかに有効 だろう」と論じた。

人材の流出

パートナーシップへの復帰はどのように起こるのだろう。まず、 報酬制限は銀行が心配している通り、JPモルガン・チェースやシテ ィグループ、ゴールドマン・サックス・グループ、モルガン・スタン レーなど生き残った大手からの人材流出につながる。

これは、ボーナス制限を叫ぶフランスの主張に関するG20の対 応が口先だけにとどまるという現時点で確率の高いシナリオが実現し た場合にも起こる公算大だ。ガイトナー米財務長官はバンカー報酬制 限から銀行自己資本比率引き上げに軸足を移した。この結果、先日の G20財務相・中央銀行総裁会議後の共同声明は報酬問題について、 フランスの主張からは程遠い生ぬるさだった。

しかし、世界的な大衆迎合の流れのなかでボーナス制限の議論は 立ち消えにはならない恐れがある。バンカーたちは座視して結果を見 極めるより、今のうちに行動した方が得策だ。

その場合、大手を逃げ出したバンカーやトレーダー、ファンドマ ネジャーらは小粒の投資銀行やファンドを設立するだろう。これには 幾つかの利点がある。

スリル好きバンカーは迷惑

第一に、人材流出は大き過ぎてつぶせない金融機関の規模を縮小 させる。しかも、残った人材は退屈で安全な銀行の仕事を好む人間ば かりになるだろう。これは悪くない。バンカーが銀行の仕事でスリル を楽しもうとするたびに、国民がその代価を払わされてきたのだ。

それはともかく、大手から流出して新たな会社を立ち上げたバン カーらは、事業が大成功をおさめ会社が成長すれば、逃げ出した古巣 と同じ問題に直面することが分かっている。パートナーシップ形態は、 いつか実現するかもしれない報酬規制から逃れる妙案だ。バンカーや トレーダー、ファンドマネジャーらが受け取る金の多くは「報酬」で はなく、収益の「取り分」になるからだ。

もちろん、このこと自体が、金融界で次の危機の引き金となるよ うな巨額の賭けをおのずから防ぐわけではない。株式を公開していな かったらリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが生き延びられた という保証はない。

ただ、パートナーシップ形態はウォール街の「アニマルスピリッ ト」を穏やかにするかもしれない。また、リスクに関する意識が全社 的に高まるだろう。会社は幹部の財産なので、社内で自身が担当する 以外の部門が積み上げているリスクにも、注意が行き届くかもしれな い。

力強い味方

コネティカット大学法科大学院のスティーブン・ダビドフ准教授 がニューヨーク・タイムズ紙のブログで解説していた。「パートナー シップ形態では会社の保有者と管理者が同じだ。パートナーたちは、 道徳的にも財務的にも会社に対する責任感を抱く。破たんすれば自身 の財産が失われ、利益を上げないパートナーは支払いを受けない」。

政府が民間企業の報酬に口を出すなどということなしにウォール 街が安定したパートナーシップに回帰してくれれば最善だが、そうで ないなら、ウォール街に圧力をかけ突つき回してくれるラガルド仏財 務相は力強い味方になる。(デービッド・ライリー)

(ライリー氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 コラムの内容は同氏自身の見解です)

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