日銀の「出口」に3つのハードル、市場は自ら「時間軸」導入

世界的な金融不安に対する主要国の 危機対策の継続、内外景気の先行き不透明感、日本経済に迫るデフレ圧 力という3つの難題が、日本銀行による超低金利政策の長期化観測を 呼んでいる。これらの克服には時間がかかるとの見方から償還まで2年 から5年程度の中期国債利回りが低下傾向にある。

三井住友銀行の宇野大介チーフストラテジストは、世界経済は「財 政刺激策と非伝統的な金融安定化策、超低金利政策に支えられている」 に過ぎず、異例の政策を解除する「出口」に向かうのはまだ「論外」だ と指摘。景気楽観論への警戒感が根強い債券市場が「日銀を待つまでも なく、自ら『時間軸政策』的な状況を演出している」と語った。

国債市場では、先行きの緩和継続を事実上約束する「時間軸効果」 が意識され始めたことで、5年債や金融政策に敏感とされる2年債の利 回りが低下基調にある。5年債は今月2、3日に0.58%と4年ぶりに

0.6%台を割り込んだ。8月上旬には0.2%台後半だった2年債も2日、

0.235%に低下。7月につけた約4年ぶり低水準の0.225%に迫った。

時間軸政策は、景気刺激を狙った金融緩和策の一種。中央銀行が低 金利の長期化観測を市場に浸透させることにより、操作可能な短期金利 に加え、市場で形成される中長期債の利回り低下も促進させる。

水野温氏日銀審議委員は8月20日の講演で、金融不安が和らぎ景 気悪化に歯止めがかかれば、価格変動・信用リスクを伴う民間金融資産 の購入などで金融市場の機能を支援する「非伝統的」政策の終了はあり 得ると指摘。半面、主要国の中銀には低金利に加え「いわゆる時間軸政 策」の導入例もあると述べ、日本でも景気や物価の下ぶれ懸念が強まっ た場合などには導入が選択肢になると話した。

動かぬ日銀、市場を走らす

日銀は現在、時間軸政策を採用していない。ただ、5年債利回りの 低下は、白川方明総裁が記者会見で「物価下落圧力の解消には相応の時 間がかかる」「物価上昇率が想定以上に低下する可能性がある」などと 述べた8月11日の翌日に始まった。8月下旬に発表された7月の全国 消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比マイナス

2.2%と、過去最大の下落率を記録した。

西村清彦副総裁も今月1日、ブエノスアイレスで開かれた会議で、 日本はデフレ圧力に直面しており、日銀の最も「差し迫った」課題はリ セッション(景気後退)との戦いだと強調した。

財務省が8日実施した5年債入札は、応札倍率が2007年4月以来 の4倍台に乗った。大和証券SMBCの小野木啓子シニアJGBストラ テジストは、5年債は「日銀の金融緩和策が続く限り、中長期的に買い 安心感がある」と見る。8月27日の2年債入札も無難な結果だった。

米欧でも利回り低下

中期債利回りは米欧でも低下基調にある。米国では2日、2年債が

0.9%を割り込み、約3カ月半ぶりの低さとなった。5年債も2.26%台 と7月中旬以来の水準となった。政策金利が「長期にわたり異例な低水 準」にとどまるとの見通しを示した8月11、12日の連邦公開市場委員 会(FOMC)直前に利回り低下が始まった。

米金利先物市場は来年1月までの利上げを26%前後しか織り込ん でいない。米雇用者数の減少幅縮小にもかかわらず、据え置き予想が約 74%。1カ月前の2.5に上昇した。

ドイツでは2年債が7日に1.05%と過去最低を記録。5年債も約 5カ月ぶりに2.28%台まで低下した。消費者物価指数が約22年ぶりに 前年同月を下回った8月11日の直前から低下している。

欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は4日の講演で、出口戦略 を「様々な非伝統的措置の解除の枠組み、その指針となる原則を意味す る語」と定義。伝統的な「金利政策に関する考慮は、この中に含まれな い」と言明した。ECBの政策金利は現在、過去最低の1%だ。

G20、異例の措置を継続

非伝統的金融政策の早急な解除や利上げの思惑が後退した中で開か れたロンドンでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は 財政支出・金融緩和策の解除は時期尚早との認識を強調した。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストはG20声明 について、「雇用情勢が改善して景気回復が確実視できるまで超低金利 政策が長引くことを各国が事実上容認したもの」と解釈する。国内外で 中長期金利がさらに低下すると予想。5年債は年内に0.5%、10年債は 1%に下がると見ている。

日本の完全失業率は7月に5.7%と過去最悪を記録。有効求人倍率 も過去最低の0.42倍だった。政府は9月の月例経済報告で景気の基調 判断を据え置く一方、失業率が「過去最高となるなど厳しい状況にあ る」と明記。「失業率」という文言を1998年以降で初めて、基調判断 の文章に盛り込んだ。

内閣府の西崎文平政策統括官付参事官は記者説明会で、世界的な金 融危機後の国内景気について「経済活動が極めて歴史的に低い水準に落 ち込んだのが特徴だ」と分析。林伴子参事官は、世界経済はまだ「政策 効果に支えられている構図だ」との見方を示した。

8月の銀行貸出平均残高は前年同月比1.9%増。伸び率は8カ月連 続で鈍化した。RBS証券の徐瑞雪ストラテジストらは、国内銀行は 25兆-35兆円に上る余剰資金を抱えていると推計。5年債の入札で今 後も「重要な買い手として存在感を維持する」と予想している。

--取材協力:池田祐美 Editors:Hidenori Yamanaka,Hidekiyo Sakihama

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