馬力抜群だが息切れ早い、愛好家も期待の電気自動車-その実力を探る

排気ガスが出ないなどで環境に優 しいとされる電気自動車は、三菱自動車と富士重工業が7月に相次いで 自治体や企業に納入を開始、日産自動車も2010年の販売を計画してお り、量産に向けた動きが始まった。充電設備の整備はまだ追いついてい ないが、利便性や快適性はどうなのか、実際の現場を取材した。

8月半ばの蒸し暑い日の午前9時半、国内コンビニエンスストア 2位のローソンが都内江東区に展開する店舗の駐車場。ローソンの経営 指導員である田中啓允さんは電気自動車のトランクから取り出した約5 メートルの黒い電気コードの両端を、店舗外壁と車側にそれぞれ設置さ れた差込口につないだ。ガソリン車の給油口と同じ位置にある蓋(ふ た)を開けて差込口に挿入する一連の動作は、セルフサービスのガソリ ンスタンドで給油をしているかのようだ。

ローソンは8月3日、東京に8台、大阪に2台の電気自動車を配 置した。車種は三菱自の「i-MiEV」(アイミーブ)で、今年度中 に計22台を導入の予定。軽自動車の白い車体に鮮やかなブルーで「L AWSON」のロゴのほか、後部ドアには漢字で「電気自動車」という 文字も入っている。

2000ccのガソリン車に乗っている感覚

田中さんは江東区内の半径5キロ内にある8店舗を巡回する。電 気自動車の乗り心地については「パワーがあり、馬力は2000ccに乗っ ている感覚」という。

午前10時2分、田中さんは充電をやめて店舗巡回に出発した。30 分の充電で16目盛りあるメーターのうち2目盛分が増えた。200ボル トの一般電源でフル充電するには6-7時間かかる。この日は目盛りが 10になったところでのスタートだ。「エンジンをかける」ではなく、 「始動します」と言って運転を開始した。当然ながら、エンジン音はな く、始動しているかどうかは音では分からない。店舗巡回に同乗し、幹 線道路に出た。

摂氏31度。田中さんは気を利かせて「エアコン・マックス」のボ タンを押した。心地よい冷気が車内に流れ込む。電池の消耗は問題ない のか。「充電の残りが少なくなると、エアコンは入れない」という。1 日の移動は30キロメートル程度。週2回のデスクワークの日にまとめ て充電する。

電池がない!

「一度、電池残量がなくなり冷や冷やしたことがある」。電気自 動車を使い始めて7日目、忙しくて充電を後回しにしていると、運転中 に警告ランプが点灯した。走行距離は120キロメートル。あと数店の 巡回が必要だったが、急いで充電器のある事務所に向った。「無事たど りつけるか」と肝を冷やしながら、何とか5キロ先の事務所に戻った。

アイミーブが1回の充電で走行可能な距離は160キロメートル。 富士重の「プラグインステラ」は90キロメートル。運転方法や道路の 混雑状況、エアコンの使い方などによっては、走行距離が短くても電池 切れになる可能性がある。

問題はガソリン車と違い、短時間ではフル充電できないことだ。 充電で6-7時間も仕事を中断することができないため、その日は他の 営業車に乗り換えて仕事に出たという。こんな話を聞いているうちに、 1目盛分の充電量が減った。運転開始から10分後、田中さんは笑顔で 「エアコン・マックス」をオフにした。

これまで、田中さんが使う1カ月のガソリン代は平均で8000円程 度だった。電気自動車の充電費用は、事務所の他の電気代と区別してい ないので明確な数字はないが、ローソン広報担当の杉原弥生さんは「フ ル充電で100円程度」という。車両本体のリース販売価格は、アイミ ーブを5年リースして約6万円で、ガソリン車に比べ割高だが、杉原さ んは「エコへの取り組みを見てもらえるという点を考えれば十分なコス トパフォーマンス」と強調する。

充電設備に課題

「雨の中、充電器を差し込むと感電しないだろうか」。安全対策 はとってあるはずだが、田中さんは不安を感じるときがある。また、あ まりにも音が静かなため、停車していると勘違いした歩行者が突然飛び 出してきたこともあったという。それでも、最も対処してほしい課題は 「1回の充電で走れる距離を伸ばすこと、そして充電設備の確保」と指 摘する。「いまの値段と走行距離を考えたら、まだ個人的に買う気はあ まりない」というのが本音だ。

三菱自のアイミーブの価格は459万9000円、富士重のプラグイ ンステラは472万5000円で、政府の補助があるとしても安くはない。

家庭用電源以外では、急速充電器なら20分程度でフル充電ができ る。急速充電器は1台約350万円で、経済産業省の外郭団体「次世代 自動車新興センター」から上限175万円の補助金が出る。しかし、8 月24日現在の補助金申請は139件にとどまっており、手軽に充電でき るレベルにまだ普及していない。

室内空間の確保

業務用の利用形態では別の課題も出てきた。日本郵便は今年度、 三菱自と富士重から20台ずつ電気自動車を購入する。現在「ゆうパッ ク」など小包運搬用の軽貨物自動車を順次、電気自動車に切り換える予 定だ。保有車両全体の6割は、1日の走行距離が50キロメートル未満 のため、電池切れの心配が少なく、また住宅街でもエンジン音がなく、 電気自動車の特性を生かせる使い方だ。

しかし、現在の軽自動車をベースとした電気自動車では荷物積載 スペースが十分でない。集荷や配達では一つで40キログラム程度の郵 便容器を揚げ降ろしする必要があるため、車高の低い軽貨物の形が好ま れる。さらに、この容器15個を積み込んだとき、重量による電気の消 費がどの程度か見極める必要もある。

日本郵便・経営企画部の山田春樹室長は、こうした課題がクリア できれば、「電気自動車を屋内の集配施設に直接乗り入れるシステムを つくりたい」と考えている。排気ガスのない電気自動車ならではの使い 方で、作業の大幅な効率化につながるという。日本郵便が配達に使って いる軽貨物自動車は現在2万2000台。

愛好家の期待

車の愛好家たちは電気自動車をどう見ているのだろうか。自動車 評論家で、09、10年の日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める 萩原秀輝さんは、認知度について「充電施設も含めて、まだ実験段階で あり、個人のライフスタイルに結び付けて考えられる段階ではない」と 言うが、走行性能については実際に運転してみて「十分な実力がある」 と感じたという。

電気自動車は電池が床下にあるため、重心の低い造りが可能だ。 現時点では軽自動車の車体を使っている。萩原さんは、低い重心を生か した専用車両ができれば「今までにないバランスが生まれ、ボディーに 無駄な動きのないスポーティーな車が開発されるのでは」と期待する。

電気自動車をめぐる産業界の動きは急だ。8月24日には総合商社 の丸紅などが電気自動車の新技術を提供する会社を設立。13年に10万 台を量産する計画を掲げた。経産省の電気自動車普及環境整備実証事業 では、日産自、新日本石油、NTTデータなどの17企業(10委託グル ープ)がガソリンスタンドで充電サービス実証実験に取り組む。一連の 実証事業が終わる10年3月以後は、充電設備が一気に拡充する可能性 がある。

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