【映画】「これが資本主義だ」ームーア監督がウォール街風刺作品を披露

映画のマイケル・ムーア監督 (55)が、政府救済を受けた銀行の本部へ空の布袋を持ち込もうと しながら「米国民の金を取り返しに来た」と言う。

風刺の効いた作風で知られる同監督の「キャピタリズム:ア・ラ ブ・ストーリー(原題)」が週末、ベネチア映画祭で披露された。 2008年9月のリーマン・ブラザーズ・ホールディングス破たんとそ れに続いた7000億ドルの銀行救済の顛末(てんまつ)を描いた2時 間のドキュメンタリーだ。

ムーア監督が描こうとするのは、同監督が「金融クーデター」と 呼ぶウォール街の危機だけではない。作品は、さらに広範な資本主義 そのものを糾弾する。

最後のナレーションでは「資本主義は悪だ。悪を規制することは できない」と同監督の声が響く。悪は「排除し、別の何かで置き換え なければならない。すべての人にとって望ましい、『民主主義』と呼 ばれる何かと」と監督は説く。

6日ベニスで記者会見したムーア監督は、ウォール街が「われわ れに映画を作らせてくれる最後のチャンスだと思え」とスタッフに告 げていたと語った。「言わなければならないことを言い、提起しなけ ればならない問題を提起する」のがこの作品の目的だったと強調した。

「ロジャー&ミー」(1989)や「華氏911」(2004)、「シッ コ」(2007)など他の名作を彷彿(ほうふつ)とさせる同監督らしい 作品となっている。

行き過ぎの最悪の例

「キャピタリズム」は、痛ましい差し押さえのシーンから始まる。 若い黒人が、生まれたときから住んでいた家のドアに板が打ち付けら れるのを見ている。白人女性が、立ち退き通告を持って現れた半袖シ ャツの保安官を見て泣き出す。

ムーア監督の声が「これが資本主義だ」と解説する。「ギブ・ア ンド・テークのシステムだが、テークする方がほとんどだ」。

次に、「コンド・バルチャーズ(コンドミニアムのハゲタカ)」 という名前の会社で働くフロリダ州の男性が登場する。この会社は差 し押さえられた住宅を買い取って転売することで利益を上げる投資家 向けにサービスを提供している。本物のハゲタカとの違いを聞かれた 男性は「おれは自分の姿を見ても吐きそうになったりしないね」とう そぶく。

作品はその後、資本主義の悪のさまざまな面を描くために金融危 機から離れてズームアウトする。戦後資本主義のおさらいとして、ム ーア監督は1950年代の自動車会社労働者の息子としての自身の子供 時代を描く。これは80年のレーガン大統領の選出で終わる。「この 国は今後、企業によって経営されることになる」とムーア監督の声。

次に、資本主義の行き過ぎの最悪の例が描かれる。少年鑑別所を 経営する会社が利益を上げるために、繁華街での小競り合いやウェブ サイトへの書き込みなどささいな違反行為で少年たちを収容する。従 業員に掛けていた生命保険で高い死亡保険金を受け取る会社や、給料 が安過ぎて生活できないため血液を売ったり夜中に犬の散歩のアルバ イトをするパイロットなども出てくる。

デリバティブの定義

ウォール街への風刺が始まるのは後半に入ってからだ。この部分 には、前半には見られなかった緊迫感がある。ウォール街を酷評し、 効果的な風刺が散りばめられ爆笑を誘うほど面白い。

ウォール街のバンカーを道で呼びとめ、デリバティブ(金融派生 商品)の定義を尋ねる。誰も答えない。ただ1人のバンカーが「これ 以上映画を作るな」と言い返すだけだ。リーマンの元幹部も、ハーバ ード大学の専門家も、この金融商品をうまく説明できない。

ムーア監督は銀行救済を1つ1つ批判する。ポールソン前米財務 長官が就任前にゴールドマン・サックス・グループの最高経営責任者 (CEO)だったことが、「ゴールドマンなどお気に入りの金融機関 を救済すると政権が決めた理由だ」と監督は言う(ゴールドマンの広 報担当者は電子メールでの取材に対し、この部分に関するコメントを 控えた)。

作品の中では、事実と数字がすべてを伝える。ムーア監督は喜々 としてこれを次々と出してくる。最後のシーンでは監督がウォール街 で黄色いテープを張っている。テープには「犯罪現場、立ち入り禁 止」の文字が見える。

「キャピタリズム:ア・ラブ・ストーリー」は論者として、また 米民主主義の代弁者としてのムーア監督の手腕をあらためて示した。 少し長過ぎ、多くを盛り込み過ぎているのが難点だ。傑作の「シッ コ」のように焦点を1つに絞り、ウォール街を唯一のテーマとした方 が良かった。(ファラ・ネイエリ)

(ファラ・ネイエリ氏はブルームバーグ・ニュースのライターで す。この評論の内容は同氏自身の見解です)

--* 参考画面: 翻訳記事に関する翻訳者への問い合わせ先: アムステルダム 木下 晶代 Akiyo Kinoshita +31-20-589-8544 akinoshita2@bloomberg.net Editor:Masami Kakuta、 Keiko Kambara 記事に関する記者への問い合わせ先: Farah Nayeri in Venice on +44-788-400-30-86 or farahn@bloomberg.net. 記事に関するエディターへの問い合わせ先: Mark Beech at +44-20-7330-7593 or

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE