【テレビ評】リーマン破たんの一部始終を再現、BBCの1時間ドラマ

2008年9月・・。米証券大手リー マン・ブラザーズ・ホールディングスのリチャード・ファルド最高経 営責任者(CEO、当時)は考えられない行動を取っていた。リーマ ンの破産申請に備えた書類の準備を弁護士に依頼していたのだ。

「政府がリーマンをつぶすはずはありませんよ」、信じられない 面持ちのハービー・ミラー弁護士は、マンハッタンを見下ろす31階の ファルド氏のオフィスに足を踏み入れながら答える。「アメリカ合衆 国政府がつぶれるようなものです。ローマ市がバチカン市国を日本に 売ってホテルを建てさせ、法王様をポーターに雇うようなものです」。

その数日後、ミラー氏はリーマンの従業員らが私物を段ボールに 詰めて、次々とオフィスを去っていく姿を痛ましげに眺めていた。

これらは英テレビ局BBC2の1時間ドラマ「ザ・ラスト・デー ズ・オブ・リーマン・ブラザーズ(仮訳:リーマン・ブラザーズの最 後の日々)」からのシーンだ。昨年9月15日に米史上最大規模の破た ん劇を演じたリーマンの最後の日々を描くこのドラマは、9月9日午 後9時(英時間)から放送される。

番組の初めのクレジット表示の後に「2008年9月12日からの週 末に、こんなことが起こった」という文字が浮かび出る。

リーマン破たんに始まり米納税者の金7000億ドルを飲み込んだ 金融システム救済劇は、映画やテレビドラマの格好の題材だ。マイケ ル・ムーア監督の「キャピタリズム:ア・ラブ・ストーリー」は、2 日に開幕したベネチア映画祭で週末に上映される。

100人中102人

BBCドラマの狂言回しは語り手のザック(マイケル・ランデ ス)だ。テネシー州出身の若手バンカー、ザックはファルドCEOの 使い走りを務めている。最初のシーンでザックは、ウォール街への 人々の評価について哲学的な感慨を述べている。「100人中102人が、 バンカーなんか大嫌いだと言う」。そこで携帯電話の画面にファルド CEOの名前が表示され、ザックはエレベーターに飛び乗る。

髪が薄くなり始め顔はむくみ気味のファルドCEOは電話に向か ってうなり声を上げている。「どいつもこいつもわが社の株を売って いる。まだ気が済まないのか」。立て続けに別の電話に出ながらファ ルド氏は今度はザックに向かってデスクの上の皿を指して怒鳴りつけ る。「このスペアリブは冷たいぞ」。

コリー・ジョンソンが演じるファルド氏はシーンによって本物ら しくもあれば道化風でもある。過呼吸気味になるほど興奮する、部下 を怒鳴り散らす、そしてスペアリブに目がない。オフィスにゴリラの 縫いぐるみを置き、物事がうまくいかないと殴りつける。

ニューヨーク連銀

だがドラマは同氏のオフィスとは別のところで展開している。ニ ューヨーク連銀の役員室だ。そこではガイトナー総裁(現米財務長官、 アレックス・ジェニングス)がウォール街のCEOらを集め、リーマ ン救済を打診している。初回の会合にはポールソン財務長官(ジェー ムズ・クロムウェル)も出席している。

杓子定規なタフガイとして描かれるこの長官は、リーマン救済を 断固拒否。「リーマンを救済するための公的資金はない」と宣告する。

ファルドCEOは生き残りをかけてあらゆる手を尽くす。米銀バ ンク・オブ・アメリカ(BOA)に身売りを持ちかけ、英銀バークレ イズにも必死で助けを求める。ポールソン長官に電話をかけると、 「提案はあったのに、価格が安過ぎるといって君が断った」と言われ る。

1年前のこの事件は、シェークスピア劇並みのドラマだ。エグゼ クティブプロデューサーのルース・カレブは真実味を持たせるための 努力を惜しまない。荘重な役員室、間仕切りのない広々としたオフィ ス、テーラーメードのスーツ、米国風のアクセントは、いたってリア ルだ。各登場人物には本物に似た俳優を当てている。ポールソン長官 とガイトナー総裁にバンカーらがとる偉そうな態度だけは解せないが。

語り手ザックの視点は物語を面白おかしく伝える。サブプライム (信用力の低い個人向け)住宅ローンで買った家を差し押さえられた ザックの妹も登場し、自分が返せない住宅ローンが債務担保証券(C DO)になって売りさばかれ巨額の利益を生んでいる皮肉を強調する。

ドラマはザックの独白で終わる。「彼らの前も、彼らの後も、彼 ら以外は全員が救済された」。

ストーリーの展開に重要な役割を演じるでもなく、語り手に徹す るでもないザックの位置付けはこのドラマの弱点だが、これほど最近 の事件を題材にしたテレビドラマとしては「ザ・ラスト・デーズ・オ ブ・リーマン・ブラザーズ」はよくできた娯楽作品だ。海外のテレビ 局も購入して放映するだろう。業界用語だらけのオープニングシーン はちょっと難しいが、動きはたっぷりある。何と言ってもこれは、視 聴者から遠くないところで、ある投資銀行に実際に起こったことなの だ。(ファラ・ネイエリ)

(ファラ・ネイエリ氏はブルームバーグ・ニュースのライターで す。 この評論の内容は同氏自身の見解です)

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