【経済コラム】忍び寄る「ハウスプア」逆資産効果の現実-Wワシック

【コラムニスト:John F. Wasik】

9月2日(ブルームバーグ):全米の家計から7兆ドル(約645兆 円)もの資産が消えている状況は、払拭(ふっしょく)できない景気 の不安材料だ。このマイナス効果が、景気の力強い回復の勢いを打ち 消そうとしている。

ホームエクイティ(住宅担保)による借り入れ余地がほとんどな いか、住宅ローン残高がホームエクイティを上回る状況に陥っている 数百万の人々は、売るに売れない住宅と前進を妨げる債務負担に縛り 付けられている。彼らは何としても現金の蓄えを増やす必要に迫られ ているが、貯蓄することもできない。

友人や近所の人から住宅が売れないとか、適当な価格で買い手が 見つからないという話を聞かない週はない。彼らは老後の生活資金や 何とか暮らしていく費用として住宅売却代金を当てにしているだけで、 船や大型テレビの購入、旅行を予定しているわけではない。米国人の 大半が逆資産効果に苦しんでおり、貧困のにおいが忍び寄っている。

経済ブログ http://www.newobservations.net に掲載された連邦 準備制度理事会(FRB)のデータに基づく試算では、7兆ドルの資 産喪失を全米1億3000万世帯で平均すると、世帯当たり約5万4000 ドル(約500万円)となる計算だ。失業率の上昇や賃金の低迷、ホー ムエクイティの価値減少は、住宅の差し押さえが見込まれる人々にさ らに重くのしかかっている。米国の住宅ローン返済の延滞率は今年1 -6月(上期)に過去最高を更新した。

「ハウスプア」という現実

ホームエクイティの価値が失われたことは、資産の目減りを意味 するだけではない。将来の信頼感にも打撃を与える。

いわゆるハウスプア(住宅貧民)と呼ばれる人々は、ホームエク イティを使い切ったか、担保価値が十分でないため、住宅を担保に借 り入れを行うことができない。大半は借り換えさえもままならない状 況だ。これは、彼らがこれから家電の新製品を買うために店舗に押し 寄せたり、大学の学費を賄ったり、老後のための十分な貯蓄をするこ とができないことを意味している。

最近になって住宅関連や景気に関する前向きな統計が発表されて いるにもかかわらず、伝統的な富の創出に対する態度が変わったとし ても驚きではない。今や住宅購入は貯蓄と投資の保証された手段では ない。クレジット・カウンセリング財団の調査では、約半数が「住宅 所有というアメリカンドリームが、富を築くための現実的な方法だと はもはや信じていない」と回答している。

カード負債の鎖につながれて

全米抵当貸付銀行協会(MBA)の調べでは、プライム固定金利 住宅ローンの借り手のデフォルト(債務不履行)が最も速いペースで 増えており、さらに憂慮すべき傾向だといえる。これは信用履歴や所 得に問題のある人々を対象とするサブプライム(信用力の低い個人向 け)ローンではない。プライムローンの借り手は、業界で最も信用力 の高い顧客と見なされてきた。

失業率が上昇し、主要産業の活動縮小が続けば、ハウスプアが全 米の家計を荒廃させることになるだろう。担保価値を上回る額のロー ンから逃れられれば、最大2500万人の住宅所有者の暮らし向きも良く なるかもしれない。

クレジットカードの請求書が状況をさらに悲惨にする。総額2兆 5000億ドルを超える消費者信用負債という鎖につながれながら、米国 民は1930年代に匹敵する逆資産効果が招く苦しみの中で働き続けて いる。

非課税貯蓄の推進を

だが、クレジットカードの信用履歴が良くないことはそれほど悪 いことでもない。今回の危機のおかげで、人々は多少の貯蓄を行い、 際限のない消費や負債を抑制しないわけにはいかなくなった。われわ れは危機の転換点に到達した。

クレジットを嫌う米国人は政府が保証する譲渡性預金(CD)や マネー・マーケット・ファンド(MMF)、格付けの高い短期の社債 や地方債に資金を投じている。しかし、米政府は大きな全体像をつか んでおらず、貯蓄や地方債以外の債券の金利に高い税率を課すなど、 暗に貯蓄を抑制する方向に動いている。貯蓄が貸し出しやインフラ(社 会資本)整備、中小企業向けに回る資金プールを最終的に生み出す可 能性があるにもかかわらずだ。

資産効果なくして健全な経済はあり得ない。手元資金や雇用がな ければ、人々が自由に支出することはないだろう。デレバレッジ(借 り入れ依存の解消)時代には特にそうだが、われわれはもはや富の創 出手段として不動産に頼ることができない。意味のある景気回復を望 むなら、非課税貯蓄やホームエクイティの価値の向上を議会は推進す る必要がある。さもなければ、ハウスプアの貧困効果が景気回復を今 後も台無しにすることだろう。 (ジョン・ワシック)

(ジョン・ワシック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニ ストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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