国債買入増額に「相応な一時的効果」と野田日銀委員-時間軸も選択肢

日本銀行の野田忠男審議委員は30 日、長野県松本市で会見し、長期国債買い入れ増額には「実施直後の 一時的なアナウンスメント効果は相応に認められる」との見方を示し た。同委員はこうした考え方に立って長期国債買い入れを増額する考 えは「私にはない」と強調したが、市場では日銀の次の一手はやはり 長期国債の買い入れ増額になるとの見方が根強い。

折しも31日、日銀は1999年上期の金融政策決定会合の議事録を 公開した。99年2月にゼロ金利に突入したのは、長期金利の急騰が引 き金だった。日銀は当時、長期金利への直接的な介入を避け、ゼロ金 利とその継続を約束する時間軸の導入で危機を乗り切った。野田委員 は会見で、時間軸は今も「選択肢の1つ」と述べた。

日興シティグループ証券の佐野一彦チーフストラテジストは「消 費者物価が過去最大のマイナス幅を拡大する中、各界の圧力により、 日銀が長期国債の買い入れを増額する可能性は絶えずある」と指摘。 時間軸の再導入も「可能性はあり得る」としながらも、その前に「長 期国債買い入れ増額の方が先ではないか」とみる。

野田委員は30日、松本市での講演で、「実体経済の回復と乖離(か いり)した長期金利の上昇は、ただでさえ弱い実体経済の回復力をさ らに弱めることにもなり、警戒を怠れない」と述べた。その際、講演 録の脚注に記載したのが、次の部分だ。

「少なくとも私には全くない」

「中央銀行による国債の買い入れが長期金利へ与える影響に関す るこれまでの実証研究や海外の事例をみると、実施直後の一時的なア ナウンスメント効果は相応に認められるが、価格を一定水準に誘導す るといった長期的な効果は認められないというのがコンセンサスのよ うだ」。その後に行われた会見で、同氏はこうした見方に「私も同意し ている」と明言した。

ただ、「一時的な効果を狙って長期国債を買い増す可能性はあるの か」という質問に対しては、「短期的な効果は日にちが経てば消えてし まう」とした上で、「短期的なアナウンスメント効果があるので直ちに これをもって政策うんぬんという考えは、少なくも私には全くない」 と発言。長期金利に対して「私どもが政策として直接的に働き掛ける ような手段は持ち合わせていない」と語った。

代わりに同委員が選択肢の1つと指摘したのが時間軸。日銀は 2001年3月に量的緩和政策を導入した際、「消費者物価(除く生鮮食 品、コアCPI)前年比が安定的に0%以上になるまで続ける」と約 束した。もっとも初代の時間軸は、99年2月のゼロ金利導入後、速水 優総裁(当時)が同年4月に「デフレ懸念の払しょくが展望できるよ うな情勢になるまで続ける」と表明したときにさかのぼる。

99年2月との類似点

当時を振り返ると、大蔵省(現財務省)資金運用部が98年12月 22日、長期国債の買い入れ停止を公表。宮沢喜一蔵相がその影響を「大 したことない」と述べたことを受け、長期金利が急騰。同年9月に

0.7%だった長期金利は99年2月に2.3%台に上昇した。

景気は既に底を打ち、日銀は情勢判断を上方修正しつつあった。 しかし、ゼロ金利に踏み切った2月12日の金融政策決定会合では、村 山昇作調査統計局長(当時)が「経済が本年前半にある程度のプラス 成長を確保したとしても、既に需給ギャップが戦後最大規模に達して おり、需給ギャップの目立った縮小は展望できない」と述べている。 現在の日本経済が置かれている状況も当時と似ている。

日銀は当時、結果としてゼロ金利政策と時間軸という組み合わせ を選択した。しかし、99年1月19日の金融政策決定会合では、長期 国債の買い入れ増額についても議論が行われている。植田和男審議委 員(当時)は「私の第六感では、長期国債の買いオペを積極化すれば 量を増やせる気がするし、物価も上昇させるような影響が長期的には 出てくる可能性があるかと思う」と述べている。

予防線を張る日銀

31日発表された6月のコアCPIは前年同月比1.7%低下と過去 最大の下落率を更新した。山口広秀副総裁は22日、函館市で会見し、 日銀の考える物価安定の範囲である0-2%に戻るには「それなりに 時間がかかる可能性が高い」と発言。その上で、物価の安定と考えら れる範囲にいつか収まる方向に進むと判断できる限り、「追加緩和が必 要だとは認識していない」と語った。

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「山口副 総裁はCPIがマイナスを続ける場合でも、デフレリスク対応で追加 緩和に動くべきだといった圧力を受けることのないよう一種の予防線 を張っていた」とみる。しかし、長期金利急騰という鬼門に再び直面 したとき、その予防線が効果を発揮するかどうは不透明だ。

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