ゼロ金利は「アリスの不思議の国」-日銀が99年上期議事録公開(上)

日本銀行は31日、1999年上期の 金融政策決定会合の議事録を公表した。日銀が前人未到のゼロ金利政 策に突入したこの時期。政策委員の間から「アリスの不思議の国に踏 み込む」との声が出るなど、未知の世界に対する不安が強かったこと がうかがわれる。2回に分けて当時を振り返る。

日銀は金融政策決定会合の約1カ月後に簡略な議事要旨を公表し ているが、発言者の名前と、個別企業に言及した発言などを除くすべ ての発言を記録した議事録を会合の10年後に公開している。当時の政 策委員会メンバーは、今年5月に他界した速水優総裁、それに山口泰 副総裁、藤原作弥副総裁、中原伸之審議委員、植田和男審議委員、篠 塚英子審議委員ら9人(肩書きはいずれも当時)。

日銀をゼロ金利に追い込んだ最大のきっかけは長期金利の上昇だ った。大蔵省(現財務省)資金運用部が98年12月22日、長期国債の 買い入れ停止を公表。宮沢喜一蔵相がその影響について「大したこと ない」と述べたことを受けて、長期金利が急騰。同年9月に0.7%だ った長期金利は99年2月初めには2.3%台まで上昇した。

日本経済は当時、長期金利上昇、円高、株安に直面。日銀は内外 の政治家から長期国債の買い入れ増額、あるいは国債引き受けを行う よう圧力を受けた。速水総裁は99年1月19日の会合で次のように述 べている。「最近は日銀による国債引受論といったものがみられる。今 朝も経済閣僚会議の席上、ある大臣から日銀はなぜ引き受けを行った り、大量に買いオペを実行しないのか質問された」。

堺屋大臣も出席

そして、日銀がゼロ金利に突入した99年2月12日の会合。新日 鉄の元副社長だった三木利夫審議委員は「長期金利の上昇が最たる問 題」と指摘。「景気回復に向けた政府の財政政策を可能な限りサポート する必要がある。日銀としては、効果は小さくても、さらなる金融緩 和措置をとるべきではないか」と述べた。

会合には堺屋太一経済企画庁(現内閣府)長官も出席した。篠塚 氏は退任後のブルームバーグ・ニュースのインタビューで、「やはり私 は圧力を感じた。政策委員との間で丁々発止の議論が行われたわけで はないが、大臣が出席するというだけで無言の圧力になった」と当時 の雰囲気を振り返っている。堺屋大臣はその後、ゼロ金利の実現に向 けて根回しを行ったと発言して物議を醸している。

政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標は当時、

0.25%。長期国債の買入額は月4000億円。速水総裁は「国債の買い切 りオペは長い目で見て銀行券の増発におおむね見合わせている。この 考えを当面変えるべきではない」と言明。長期国債の買入増額を断固 拒否する姿勢を示した。

金利か量か

残された手段は金利の引き下げか、量的緩和か。植田委員は「短 期金利が既に低い水準にあるため、多少下げてもあまり効かないとい う気がする」と指摘。「大きく下げる政策があるかとなると、限りなく ゼロに近づけるという政策か、あるいは視点を変えてハイパワードマ ネー(日銀券と日銀当座預金)のようなものについて目標を設定し、 それを着実に伸ばしていく努力をする政策か」と述べた。

山口副総裁は「一応金利の面で打つべき手がわずかながら残って いる以上、それを打ち尽くしてみることが1つの選択として考えられ るのではないか」と一段の利下げを支持した。中原委員は「金利の手 段が尽きてきた以上、少なくとも量的な緩和を図るということを明確 に言うべきである」と述べたが、大勢はゼロ金利に傾いた。

篠塚氏はインタビューで「0.25%に引き下げた98年9月の会合と 比べても、緊張度は今回の方が大きかったし、1人1人がピリピリし ていた」と語った。元農水事務次官の後藤康夫審議委員は胸中をこう 吐露している。「いわば童話の世界のアリスの国のようなワンダーラン ド(不思議の国)へ本行が足を踏み込むことになる」。

最後まで悩んだ委員も

情勢判断とのギャップから最後までゼロ金利に踏み切るべきか迷 った委員もいた。元日本興業銀行(現みずほグループ)エコノミスト の武富将審議委員は「少なくとも今の金融経済月報等における景気の 評価は、悪化テンポが幾分和らいでいるということであり、その認識 と緩和とがどう整合するのか」と疑問を投げ掛けた。

これに対し、植田委員は「基本的見解については、悪化テンポは 緩やかになっているという判断に続き、しかし足元円高、長期金利上 昇をみると、先行きに関するリスクは懸念される等と付け加えざるを 得ないのではないか」と発言。速水総裁が「それでは、その線で考え ることとしたい」とこれを後押しし、大勢が決した。政策判断、つま り結論まず先にありきのゼロ金利政策が決まった瞬間だった。

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