クールビズの冷房28度で経済成長阻害も、暑過ぎて生産性低下-研究者

エコノミストの門倉貴史さんは東 京・有楽町にある民間シンクタンクに勤務していたころ、夏場に就業 時間が終わると同僚とともにシャツとズボンを脱ぎ、下着に近い格好 で残業することがよくあった。会社のルールでエアコンの設定温度を 28度以下に下げられず、「暑過ぎて仕事にならなかった」からだ。

門倉さんは現在37歳。政府が夏のオフィスの冷房設定温度を高め に設定し、ノーネクタイなどの軽装化を進める「クールビズ」キャン ペーンを始めた2005年に会社を辞め、独立した。「ワーキングプア」 「貧困ビジネス」などの著書でも知られる門倉さんは、クールビズの 導入によりオフィスの生産性が低下していると指摘する。「クールビズ 関連商品の売り上げ増などの経済効果があると言われるが、全体で言 えば、マイナスになるのではないか」と話す。

 早稲田大学創造理工学部の田辺新一教授(建築環境工学)の実験 結果では、オフィスの温度が25度から1度上がるごとに生産性が

1.9%ずつ下がるという。門倉さんは、この研究成果のほか、クールビ ズを導入した企業の割合や日本のオフィス面積のデータを基に、生産 性の低下がマクロ経済に及ぼす影響を試算したところ、昨年夏だけで 約6531億円の経済損失が生じた計算になるという。

この金額は08年度の日本の国内総生産(GDP、497兆4221億 円)の約0.13%に当たる。クールビズは、小泉純一郎政権の時に小池 百合子環境相の主導の下で導入された。その後国内では官公庁や民間 企業で広く採用され、国連でも昨年からクールビズにならい、夏場の 冷房設定温度を引き上げるキャンペーン「クールUN」を始めた。た だ、エアコンの設定温度は約22度から約25度に上げただけだった。

頭がぼうっと

門倉さんは「金融危機以降、世界中の政府が景気下支えのための 努力を続けているなか、生産性低下が経済にもたらすマイナス効果に ついても考えるべきではないか」と考える。

名古屋市内のコンサルタント会社で勤務する中野さん(32)のオ フィスは、真夏でもエアコンは28度に保たれている。「一番暑くなる 午後2時ごろには、頭がぼうっとしてくる。汗も出てきて不快になり、 仕事に集中するのが難しくなる。みんな陰では不満を言うが、会社に 意見する人はおらず、我慢しているだけだ」と明かす。

「もともと寒がりなのだが、さすがに暑過ぎて耐えられなくなり、 自分でこっそり24度に下げた。今のところ、ばれていないので助かっ ているが、本当は22度ぐらいがちょうどいいと思う」。中野さんは名 前を明らかにしていない。

28度はオフィス室温の上限

クールビズで推奨される28度の設定温度はオフィスで快適に働 くには高過ぎる、と神戸女子大学家政学部の平田耕造教授(被服環境 生理学)は指摘する。平田教授によると、裸の状態で人間が快適と感 じる温度が28~30度。「28度では服を着て少し動くと、汗をかく。汗 は熱を帯びた体を冷やすために人間の体が取る調節機能。いったん汗 をかくと、快適とはほど遠い状態になる」と説明する。

政府はエアコンの設定温度を上げる代わりにノーネクタイや半そ でなどの軽装を提唱しているが、「ネクタイを外したぐらいではどうし ようもない。Tシャツや短パンならなんとか耐えられるが、日本の会 社でその格好が許されると思えない。結局、快適に過ごすためにはエ アコンの温度を下げるしかない」とも話す。

28度は日本の建築物衛生法で定められたオフィス室温の上限。早 大の田辺教授は、「エアコンの設定温度が28度でもオフィスにはパソ コンやコピー機などから放出される熱で30度を超える場所も出てく るため、衛生的にも問題がある」。「クールビズのコンセプトは支持で きるが、28度にこだわるのはばかげている」と設定温度の見直しを提 唱している。

日本は1997年に批准された京都議定書で、二酸化炭素(CO2) など6種類の温室効果ガスについて、2012年までに1990年の年間排 出量(約12億6000万トン)から6%削減することを目標に掲げた。 しかし、温室効果ガスインベントリオフィスのウェブサイトによると、 その後も排出量は増え続け、2007年は約13億7000万トンに達した。

強制ではなくお願い

当初の目標を達成するためには、今後3年間で07年の水準からさ らに年間約1億8600万トンを削減しなければならない計算だ。環境省 のウェブサイトによると、日本のすべてのオフィスでクールビズを導 入し、夏の冷房の設定温度を26.2度から28度に上げることで削減で きるCO2の量は約160万-290万トン。京都議定書の目標達成のため に必要な削減量の1%前後にしかならない。

環境省地球温暖化対策課の国民生活対策室長補佐、杉山徹氏によ ると、クールビズ導入以降の5年間でエアコンの推奨設定温度が高過 ぎるという苦情は1件も寄せられていない。「クールビズのお陰で日本 人の環境意識が高まったのは事実」と、そのメリットを強調。28度の 設定温度についても「強制ではなく、建築物衛生法の枠内であくまで もお願いしているだけなので、問題はない。設定温度を変える必要は ないと思う」という。

独立後に「BRICs経済研究所」を設立してフリーのエコノミ ストとなった門倉さんは、人口減少時代に突入した日本が今後も経済 成長を続けるには、企業の生産性の向上が欠かせないと指摘する。

「電気代削減の口実としてクールビズを導入する企業も多いと思 われるが、オフィス温度を高く設定し過ぎて生産性が落ちては元も子 もない。人口が減るなか、GDPの規模を膨らませるには生産性の向 上が不可欠なのにクールビズで国全体の生産性が下がり、日本の衰退 に向かうのではないか」と懸念している。

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