日銀総裁発言要旨:不確実要因なので厳しいと判断した以上早めに決定

【記者:日高正裕】

7月15日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は15日午 後の定例会見で、経済・物価情勢について次のように述べた。

――本日の決定の背景について説明いただきたい。

「先月は、わが国の景気は大幅に悪化した後、下げ止まりつつあ ると申し上げたが、本日は景気は下げ止まっていると判断した。公共 投資が増加しているほか、輸出や生産は持ち直しており、企業の業況 感は、製造業大企業を中心に悪化に歯止めが掛かっている。一方、厳 しい収益状況などを背景に、設備投資は大幅に減少している」

「また、個人消費は各種対策の効果などから一部に持ち直しの動 きがうかがわれるが、雇用・所得環境が厳しさを増す中で、全体とし ては弱めの動きとなっている。この間、金融環境をみると、なお厳し い状態にあるが、コマーシャルペーパー(CP)、社債の発行環境など を中心に改善の動きが続いている」

「物価面では、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、経済全 体の需給が緩和した状態が続く中、前年における石油製品価格高騰の 反動などから、マイナスとなっている。先行きのわが国の景気は、内 外の在庫調整が進ちょくした下で、最終需要の動向に大きく依存する と考えている」

「本年度後半以降の見通しとしては、海外経済や国際金融資本市 場の回復に加え、金融システム面での対策や財政・金融政策の効果も あって、わが国経済は持ち直していく姿が想定される。物価面では、 消費者物価の前年比は当面、下落幅を拡大していくが、石油製品価格 などの影響が薄れていくため、本年度後半以降は、下落幅を縮小して いくと考えられる」

「以上の判断を4月末の経済・物価情勢の展望(展望リポート) で示した見通しと比べると、成長率はおおむね見通しに沿って推移す ると予想される。物価は国内企業物価・消費者物価とも、原油価格上 昇の影響などから、本年度は見通しに比べてやや上振れるが、来年度 はおおむね見通しに沿って推移すると見込まれる」

「次にリスク要因について述べると、4月の展望リポートとおお むね同様の動きとなっている。景気面では国際的な金融経済情勢、企 業の中長期的な成長期待の動向、わが国の金融環境など、景気の下振 れリスクが挙げられる。物価面では、景気の下振れリスクの顕在化、 中長期的なインフレ予想の下振れに注意が必要だ」

「日銀としては当面、景気・物価の下振れリスクを意識しつつ、 わが国経済が物価安定の下での持続的成長経路へ復帰していくため、 中央銀行として最大限の貢献を行っていく方針である」

――市場機能はどこまで改善しているとみているのか。

「今回、私どもの判断として、なお厳しいという評価と、方向と して改善しているという、2つのことを言っている。下位格付け先の 社債発行は低い水準にとどまっているなど、格付け面での二極化は依 然解消されていない。資金繰りや金融機関の貸出態度に関するアンケ ート調査をみても、最近では改善していると言え、中小企業を中心に なお厳しいとする先が多いとみている」

「企業からみると、厳しい収益環境が続く中で、在庫調整が一巡 した後の景気回復の足取りなどについて、なお不確定な要因が大きく、 今後の資金調達環境に対する不安感を払しょくできない状況にあるの だろうと推測している。こうした情勢判断を踏まえて、今回、企業金 融の円滑化を引き続き図っていく観点から、各種の措置を延長した」

「一方、改善をしたという方の動きを申し上げると、昨年末に比 べ、足元の金融環境は明らかに改善の動きが続いているとみている。 いくつか例を挙げると、CPの発行スプレッドはリーマン破たん直後 に急激に拡大したが、年明け以降縮小し、足元では高い格付けを中心 にリーマン破たん以前の水準まで低下している」

「日銀によるCPの買い入れについても、3月以降、大幅な札割 れの状態が続いている。社債については、6月の発行金額が月間とし ては過去最高になったほか、発行銘柄も拡大した。この面は、CP、 社債市場の機能が着実に回復しつつあるということになる」

「銀行貸し出しも大企業向けを中心に高めの伸びが続いているほ か、資金繰りや金融機関の貸出態度は大企業、中小企業とも方向とし ては改善している。そういう意味で、現状の評価としてなお厳しいと いうことと、しかし、明らかに改善の方向に向かっているという両方 の動きが現在の状況だ」

――一部で副作用も指摘されているが、この点をどう考えるか。

「企業金融支援特別オペを含む一連の企業金融支援措置は、昨年 秋以降、CP、社債の発行が困難になるなど、金融市場の緊張度が極 めて高い中で、企業金融の円滑化を支援するために実施してきた。そ の後の動きをみると、方向として改善してきていることは先ほど申し 上げた通りだ」

「それから、最近では格付けの高いCPの発行金利が短期国債の 発行金利を下回るなど、一部でやや行き過ぎた動きがあることも認識 している。こうした状態が続けば、投資家の投資意欲が後退し、市場 機能を阻害してしまい、かえって金融市場の発展のために望ましくな いことになる可能性があることは確かだ」

「こうした行き過ぎの要因として、市場では企業金融支援特別オ ペの効果が大きいのではないかという議論があることも承知している。 ただ、われわれとしては今申し上げたことは一方で十分認識している が、他方で、今の企業金融の状況を考えると、二極化現象がまだ解消 されていないし、足元改善はしているが、先々の資金調達環境につい て不確実性が払しょくできないという状況がある」

「企業金融全体の姿を見た場合に、部分的な影響、あるいは副作 用だけでなくて、金融市場、企業金融全体の状況、あるいはこれに与 える影響を踏まえて、しっかり判断していく必要があると考えた」

――延長期間を6カ月でなく3カ月にした理由は何か。

「金融環境は方向としては改善しているが、なお厳しいと判断し たことが、今回、こうした措置を延長した方が良いという判断につな がった。一方、今回6カ月でなく3カ月に延長したことは、足元で改 善傾向が続いており、この後もこういう傾向が続くだろうと判断して いることによって、3カ月後、もう一回、経済、金融情勢をしっかり 点検していこうというふうにした」

「今後、情勢が一段と改善していけば、新たな期限である年末に は各種時限措置の終了、または見直しを行うことが適当と考えている。 一方で、先行きの金融、経済情勢には不確実性が高いと判断しており、 情勢が十分改善せず、必要と判断する場合には、時限措置を再延長す ることになる。結論が先にあるわけではなく、今後の企業金融や金融 市場の展開を注意深く点検して判断していく」

――延長の判断を来月にしなかったのはなぜか。

「先ほど申し上げたように、企業金融環境は改善の方向にあるが、 なお厳しいという評価をしている。なお厳しいという判断をしている 以上、われわれとしてはできるだけ早く、市場からみた不確実要因で ある、各種の措置をどのように運営するか、その方針を早めにした方 が良いという結論に至った」

――今回、異例の政策の出口に言及したり、出口の必要性を主張する声 もあったのか。

「金融政策決定会合での個々の委員の意見は、議事要旨を見てほ しい。先ほども申し上げた通り、われわれの方は、出口それ自体を議 論している、意識するということではない。あくまでも経済、金融情 勢を毎回丹念に点検して、その結果、適切なタイミングで政策措置を 変更する必要があれば変更する。変更する必要がなければ継続する」

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