日航:年金減額で難題に直面、OBの反発拡大-失敗なら赤字倍増も

「現社長の責任をもって実現は必ず してもらう。これは一つの条件です」-金子一義国土交通相は6日、 日本航空の年金減額と政府支援の関係をめぐる質問に会見で語気を強 めた。その上で、日航が経営改善計画で年金問題をまとめられなかっ た場合、「ご本人が一番覚悟しているでしょう」と短い言葉で突き放し た。

日航が現在策定中の経営改革、なかでも年金減額は経営陣にとっ て難題となりそうだ。日航は6月、日本政策投資銀行やみずほ銀行な どのメガバンクから総額1000億円規模の資金獲得にめどをつけた。そ の際に、国交省が日航の経営改善計画の策定・実施を指導・監督する ことになった。日航はさらに今年度に必要とする資金を金融機関から 受けるため、今夏までに経営改善計画を発表する方針だ。

2006年就任の西松遥社長は約3年目で大きな山場を迎えた。西松 社長は1000億円規模の融資実現の直後の7月2日、国交相を表敬訪問 した後、記者団に対し「自主再建にこだわりたい」と強調。再建に向 けた融資獲得のため、不採算路線の減便や廃止にも踏み込んだ聖域な き経営改善計画を策定するとの考えを示した。

国交省の篠原康弘航空事業課長はインタビューで「目を光らせる のは経営改善計画の策定と実施。われわれは3年間の計画を指示して いる」とし、「今後は意見交換を積極的に行い、改善計画には、わたし たちの意見も反映してほしいが、最終的には日航が判断することだ」 と説明する。

日航は5月12日の決算発表で、今期(10年3月期)連結業績に 年金削減を特別利益として880億円を計上すると表明。それでも最終 損失は630億円と2期連続の赤字見通し。計上できなければ1500億円 規模に最終損失が拡大する。新生証券の松本康宏シニアアナリストは、 年金改定が成功しなければ1500億円超の最終赤字になるはずと指摘 する。その上で、日航にはコスト削減余地もそう残されていないので はないかと付け加えた。

今後の融資実現には抜本的なコスト削減が求められており、主力 取引銀行や国交省など政府側に納得してもらうため、年金改革は避け て通れそうもない。一般論として、資金繰りに行き詰まって破たんし た企業では、年金基金も解散することになる。

企業年金5割超の減額案にOB反発

日航OBの年金受給者は社長名の手紙を受け取った。内容は「退 職給付債務を1600億円規模で削減するため」に、「給付額の減額をお 願いせざるを得ない」とし、「給付額の減額規模は5割超となる可能性 もある」との厳しいものだった。

減額対象は年金受給者の約7000人と待機者を含む計約9000人、 それと現役社員の加入者約1万6000人の2タイプに分かれる。JAL 企業年金は確定企業年金法に基づき運営されており、給付減額の手続 きは法律で厳格に定められている。規約変更は、加入者と受給者のそ れぞれ3分の2の同意が必要。加入者はさらに、社員の3分の1以上 で組織する組合の同意が要る。現役職員は組合を通じて反対運動を展 開する方針だ。

知らせに衝撃を受けた一部OBは、直ちにホームページ上に「J AL企業年金の改定について考える会」を立ち上げ、経営側に詳しい 理由の説明を求めると同時に、年金削減反対署名集めをウェブ上で開 始した。HP上の署名は7月14日現在、目標3000人まであと90人と、 今週中にも不同意が3分の1に達する可能性がある。あくまでバーチ ャル空間の意思表明だが、経営陣に一定の圧力となるのは間違いない。

日航OBの一人で考える会の世話人を務める元客室乗務員の福島 隆宏氏は、ブルームバーグ・ニュースの取材に対し、「長い放漫経営の 歴史に起因する今回の経営難とわれわれの年金とは一切関係ない」と 強調する。その上で「かりに会社の状況が好調に戻ったとしても、退 職者は恒久的に減額されることなり、今回の措置は到底納得できない」 という。

OBで元地上職の平山浩氏は「今回協力すれば本当に会社は存続 できるのか」と語った。「抜本的再建には営業力の強化、不採算路線の 見直し、燃油・機材の調達など航空会社として当然の改善に力を注ぐ べきだ」とし、組織として難局に対応できる力を保持しているのかと 懸念を示す。そして「今期は年金削減効果があるとして、来期以降は 大丈夫なのか」との疑問を呈している。

考える会の今後の対応として福島氏は「不当性が明らかになった ときは、当然裁判も考えなければいけないだろう」と指摘する。そし て「手厚い年金が出るからと早期退職した人の怒りは、受給者より大 きいはずだ」と付け加えた。年金減額問題では、NTTと退職者が対 立し、司法の場に持ち込まれ、地裁と高裁がそれぞれ減額を認めない との判断を下し、NTTは現在、最高裁に上告している。

ただ、西松社長は2日時点で、年金減額問題について「実際にど の程度か額を提示してからのこと。いまは会社の財務状況を理解して もらうためにキャラバンしている。まあ、これからだ」と述べるにと どめた。日航側は今後、対象者への具体的な説明を実施し、同意を得 た上で年末をめどに厚生労働省に許可申請し、今期内に改定を終える 計画。

米国の二の舞は回避

自民党航空対策特別委員長を務める泉信也参院議員は8日、ブル ームバーグ・ニュースとのインタビューで、もしも年金支給額削減が 不同意で日航の最終損失が1500億円を超えることになれば「ただ事で はない」とし、「当面はなんとか乗り越えても、需要の回復に過度に依 存しない経営構造にしなければ、今後の日航の経営は大変厳しいこと になる」と懸念を示す。その上で「万一経営改革が進まなければ、年 金減額の同意も不同意もなくなる、そのことをOBの方々も考えてほ しい」という。一方、「将来設計を描いて積み立てた年金が減額される 痛みはよく理解できるのも事実」と述べ、「私の立場で、それ以上は口 出しするべきではないだろう」と語った。

また、泉参院議員は、日航に対する1000億円規模の融資実現につ いて「米自動車産業で起きたことを回避するための適切な対応」と評 価し、「昨年以降の金融危機の影響など主に外部要因による日航の経営 危機を救う措置はわが国の航空ネットワークの維持には必要なもの」 と指摘。さらに「今後は採算の取れない地方便の減便や廃止を復活さ せるためには景気の回復が急務だと認識している」と語った。

日航の竹中哲也副社長は9日、経営改善計画について「9月末ま でに出す方針だが、なるべく早い段階で銀行や国交省と相談しながら まとめたい」との方針を示した。だが、そこには大きな落とし穴が待 ち受けている可能性もある。

衆院解散・総選挙で民主党主導の政権が誕生した場合、日航への 政府支援措置が引き継がれるのか、現時点では未知数だ。金子国交相 も6日時点で「支援をやめるという話だって政権が変わったら出てく るかもしれない」という。「今の段階で縛るようなことはできない」と し、日航問題も「緊急経済対策の一環ですから、新政権が仮にできた として何をするかは、私がする話ではない」と述べている。

株価も02年の統合来の安値水準

日航の株価は13日まで7営業日続落。株価はじりじりと下げ、13 日終値は、日航が02年10月に旧日本エアシステムと統合して以来の 安値水準となる終値ベースで163円を付けた。

髙木証券投資調査部の勇崎聡次長は、7月に入り株価が下落して いる要因の一つとして「マスコミが年金問題を連日取り上げているこ とによる信用不安の表れとも解釈できる」との見方を示している。

三菱UFJ証券の姫野良太アナリストは、残り約1000億円を何と か調達しようと努力する中で、年金の改定ができずに最終赤字が膨ら むような事態に陥れば、「マーケットの見方は厳しくならざるを得ない だろう」とみている。

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