【経済コラム】具体化しつつあるヘッジファンド業界2.0-M・リン

ヘッジファンド業界が息を吹き返す 兆しがみられる。運用資産が拡大している上、新たなファンドが誕生 しており、一部には利益を上げているものもある。

もちろん、ロンドンのメイフェア地区のレストランが値上げした り、ニューヨーク市近郊の高級住宅地ハンプトンで内装ビジネスに参 入すべき時が来たと言うのは時期尚早だが、「ヘッジファンド崩壊」と の報道は行き過ぎだろう。ヘッジファンド業界は今後も金融界の重要 な地位を占め続ける。

2008年の相場急落以前の状態に戻ると想像するのはばかげてい る。テクノロジー用語を使って「ヘッジファンド業界2.0」とも呼べ る業界の新たな姿は、従来の「ヘッジファンド業界1.0」とは大きく 異なるものになるだろう。

ヘッジファンドは、これまでより神秘性が弱まり、投資家による 制御が効き、投資銀行の撤退により残されたビジネス機会をとらえる ものとなる。その数は減り、その規模は以前よりずっと大きくなるだ ろう。

投資家の資金がヘッドファンドに再び戻っていることを裏付ける 証拠は豊富だ。調査会社ヘッジファンド・リサーチの集計によると、 今年1-3月には約150のファンドが誕生した。その一部は規模がか なり大きい。ドイツ銀行でグローバル裁定取引責任者を務めていたア ルビンド・ラグナタン氏が設立したヘッジファンド「ロック・キャピ タル・マネジメント」は、10億ドルの投資資金を集めた。

運用資産も拡大している。英バークレイズはリポートで、ヘッジ ファンドの運用資産は今年8%超増加すると予想した。08年の市場崩 壊に伴い現金に逃げていた資金の多くが市場に戻ってきている。

自信回復

ヘッジファンドは利益も上げている。ヘッジファンド・リサーチ によると、全種類のファンドの5月の平均リターンは5.2%だった。 こうした好リターンを後ろ盾に、ファンドは投資商品を売り込む自信 を回復している。

とはいえ、市場崩壊後のヘッジファンド業界はこれまでとは非常 に異なったものになる。大きく変わるのは次の4つの点だ。

1つ目は、これまでより神秘性が弱まる点。

ヘッジファンドを米史上最悪の詐欺事件で禁固150年の判決を 受けたバーナード・マドフ被告と同列に扱うのは不公平かもしれない。 ただ「ビジネスは公平だ」などという話を聞いたことがないのもまた 事実だ。ヘッジファンドのマーケティング手法には「マドフまがい」 のものも存在した。簡単に言えば「この極めて頭脳明晰(せき)で時 流に乗った男にあなたのカネを預ければ、彼があなたを大金持ちにし てくれる」といった売り文句だ。「ヘッジファンドに投資するだけであ なたの社会的地位が高まる」というメッセージをほのめかすことも忘 れない。

魅力的な神秘性

多くのヘッジファンドがまさにこの手法を採用し、魅力的な神秘 性の雰囲気を演出して投資資金を集めた。「マドフ後」の時代には、そ ううまくはいかない。ヘッジファンドは投資対象や投資戦略そして投 資リターンに関する情報を公開しなければならなくなる。ヘッジファ ンド業界は、これまでのように投資家の感情に訴えることなく自らを 売り込むまったく新しい方法を見つけなければならない。

2つ目は、投資家による制御が効くようになる点だ。各国の金融 当局はヘッジファンド業界に適用する新たな規則を数多く作ることに なろうが、そうした規則は恐らく回避可能だ。規制回避の機会を提供 するオフショアの島国は今後も存在し続けるだろう。

しかしヘッジファンドが当局の規制を避けられたとしても、好況 時の詐欺の手口を熟知している投資家の目を逃れることはできない。 不況に転じた途端に、多くのファンドが解約に応じなくなったことも 記憶に新しい。投資家は自らの裁量の拡大を要求するだろう。投資家 が資金を運用責任者に託し、裁量を一任する日々は過去のものだ。

市場の空白地帯

3つ目は、かつて投資銀行が占めていた場所にヘッジファンドが 侵入しようとしている点だ。

リーマン・ブラザーズ・ホールディングスの破たん後、投資銀行 の数は減った。生き残った投資銀行は資金力が低下しており、これま でより慎重な経営を迫られることになる。だからといってリスク資本 に対する需要が縮小してしまうことはない。新興市場であれ、新興産 業であれ、新種の金融商品であれ、資金を求める人は多い。伝統的な 投資銀行がビジネス規模を縮小するなか、市場にはヘッジファンドが 占拠可能な空白地帯が生まれている。

最後は、ファンドの数が減る点だ。

ロンドンやニューヨークで数年の勤務経験を持つ30代のトレー ダーなら誰でもヘッジファンドを設立し、数百万ドルの資金を集めら れるような時代は終わった。

ステート・ストリートは先月のリポートで「ヘッジファンド業界 は金融危機を経てファンドの数を減らすだろうが、運用資産の規模で はこれまでより大きくなる」と予測した。

その通りだろう。当局による監視体制の強化や投資家の要求、よ り洗練された投資戦略の必要性を背景に、ヘッジファンドは高コスト の経営を強いられることになる。「従業員2人とブラックベリー」だけ で経営可能なビジネス機会はほとんどなくなるだろう。残るのは経営 のしっかりした少数のヘッジファンドだ。

インターネットは、ドット・コム・ブームの崩壊を乗り切り、巨 大な産業になった。それでも「Web1.0」と「Web2.0」の違い は大きかった。ヘッジファンドも同じ芸当をやってのけるだろうが、 「ヘッジファンド業界2.0」はまったく新しい生き物になる。

(マシュー・リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストで す。記事の内容は本人自身の見解です)

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