【米経済コラム】危機終息と言えるのはまだ遠い先のこと-J・ワイル

投資家は金融機関のバランスシー トを見て数カ月前よりも気を楽にしているが、これは大きな信頼を寄 せているという意味ではない。

例えば米地銀のリージョンズ・ファイナンシャルの株式時価総額 と報告済みの純資産を比較してみるといい。同行の1日の終値は3.97 ドルと2月の安値から69%上昇した水準で、株式時価総額は45億ドル (約4313億円)だ。ただそれでも3月末時点の純資産135億ドルの3 分の1にすぎない。つまり市場は、同行の資産価値がまだ大いに過大 評価されているとみているのだ。

同様のことが金融サービス業界全般に言える。S&P500種株価指 数採用の金融株は4-6月(第2四半期)に35%急伸し、S&P500 種の四半期上昇率が1998年以来最大を記録した原動力となった。だが、 数百に上る米国の銀行や保険会社はまだ、こうした信頼の大きなギャ ップに直面している。

6月末時点で株式時価総額が純資産の6割未満にとどまっていた 米国上場の金融機関はシティグループやサントラスト・バンクスなど 336社に上った。これらの金融機関の株式時価総額の合計は2331億ド ルで、純資産(普通株式資本合計)の合計は4631億ドルだ。

昨年の同じ時期にコラムを執筆するために同じスクリーニングを かけたところ、該当したのは168社で時価総額の合計は1203億ドル、 純資産合計は2703億ドルだった。信用収縮の進行や株価下落を受けて 評価損が計上され、それが一段の株安と評価損につながるという悪循 環はようやく断ち切られたようだが、今後どうなるのかは誰も分から ない。

経営陣への圧力

株価が1株当たりの純資産価値よりも大幅に割安であるときに は、企業経営者は特に過去の活発な企業買収で残ったのれんなどの無 形資産などについて、大幅な評価損を計上する圧力を受けることだろ う。

だが時代が変なのだろうか。ブルームバーグ・データによると、 米金融機関の評価損と信用損失は2008年10-12月(第4四半期)に ピークを付けた後、09年1-3月(第1四半期)は半分未満に減少し 1018億ドルとなった。金融株が全般的に過去最安値付近で推移した時 期にもかかわらずだ。

銀行経営者は以前ほど財務健全化に意欲的ではなくなったのかも しれない。世界的な金融危機に拍車を掛けた住宅ローン担保証券(M BS)の多くは価格と流動性が改善し、ローンは会計ルールの下で一 般に時価まで評価を引き下げる必要がなくなった。

金融株の反騰で懸念されるのは、政府が誘導した上昇であること だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は今年に入り、大量の資金供給 を行うとともに、ストレステスト(健全性審査)を実施して財務面で 大きな問題を抱えた大手銀行はほとんどないと大々的に宣伝。シティ グループなどの大手金融機関を破たんさせない姿勢を打ち出した。

「新芽」

米財務省は銀行の不良資産の買い手に補助すると約束した。銀行 と保険会社は議会を使い、利益や規制上の自己資本の増加につながる ルール変更を米財務会計基準審議会に強要した。さらに、バーナンキ FRB議長が3月に「新芽(グリーンシュート)」という一言を発し たことで、メディアがこぞって事実であるかのようにはやし立てた。

こうした状況下でも、数百の金融機関の株価は最悪期が来るのは これからというような水準で取引されている。米政府が全力を尽くし ていなかったら、これらの金融機関は一体どうなっていたことか。

隠れた損失

住宅価格は下落が続いている。銀行監督当局は今週、リスクの低 いプライム住宅ローンの返済遅延率が第1四半期に2.9%と、前年同期 の1.1%の2倍以上に高まったと発表した。クレディ・スイス・グルー プのアナリストらによると、変動金利型住宅ローンの金利変更のピー クは2011年以降になる見通しだ。さらに、商業用不動産の価格は急落 しているものの、関連する信用損失は金融機関の財務諸表にはまだほ とんど反映されていない。

多くの大手銀行や保険会社は、是が非でも必要な普通株式資本を 調達するため株価上昇の好機を利用しているけれども、経営難にあえ ぐ金融機関の大半は資本市場から締め出され、買収の標的になりかね ない状況に置かれている。

実のところ、米経済が峠を越えたかどうか、第2四半期の相場上 昇が持続可能かどうかは確かめようがない。ただ、これほど多くの銀 行がバランスシートの信用を否定されていることを考えれば、金融業 界は投資家と信頼関係を再構築できていないのだろう。

信頼関係こそ金融システムの最も貴重な資産だ。その点から言え ば、今回の金融危機が終息したと言えるのはまだ遠い先の話だろう。 (ジョナサン・ワイル)

(ジョナサン・ワイル氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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