【コラム】銀行の「電撃婚」は次の危機のリスク高めるだけ-ギルバート

政府が仲人役のお見合いや弱肉 強食の結果の「電撃的結婚」によって銀行の数は減ったが、1行1行 は危機前よりもさらに肥大化している。これが銀行危機の後に出現す る世界の姿であるなら、懸念すべきことだ。しかし、われわれはまさ にこの方向に向かっている。

金融機関トップらは「健康的で安全な振る舞い」を強制する新た な規制によってがんじがらめにされる見通しを嘆いている。しかし、 政府は彼らの身勝手な抗議を無視しなければならない。たとえ、投資 銀行が利益を生む新手の技術や商品を開発するのが規制によって難し くなるとしてもだ。

金融業界の脅し文句を要約するとこうなる。-銀行をあまり厳格 に規制すると、業界の革新が止まり、世界の成長率が低下しますよ。 自由奔放・規制無し姿勢が経済を大不況に陥れたことは忘れましょう -。銀行業界は自らの行いを悔い改めるどころか、「従来通り」こそ が将来に向けて前進する唯一の道だと主張する。

英スタンダード・チャータード銀行のピーター・サンズ最高経営 責任者(CEO)に言わせると「複雑過ぎて価格設定が不透明」な金 融商品が銀行を苦境に陥れたのだから、「複雑過ぎて不透明」な規制 が問題解決の答えではあり得ない。

信用危機の根源についての形容詞を、規制についての形容詞とし て流用することで、同CEOは金融業界に対するより厳密な監視が必 要だという概念を否定することに成功している。このような尊大な発 言は、業界が何一つ教訓を学んでいないことを如実に示している。

声も大きい

大きい銀行ほど、大きな声で抗議する。欧州最大の銀行である英 HSBCホールディングスのスティーブン・グリーン会長は今週、よ り小規模で「幅の狭い」銀行が金融の安定を高めるとの考えは「幻 想」だと発言した。「企業、個人ともに、顧客はより幅広いサービス を求めている」のであり、商業銀行と投資銀行の間に垣根を設けた 「グラススティーガル法型のモデルで、別のサービスを求めて別の銀 行に行かなければならないという状況は全く現実的でない」という。

ご冗談を!「全く現実的でない」のはバンカーが預金者の金を使 って、お好みのデリバティブ(金融派生商品)カジノでギャンブルす ることを許した欠陥モデルだ。失敗しても罰せられることもなく納税 者の金で救済されるということが学習されてしまっただけになお始末 が悪い。

米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、 先週の米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、規制が厳し くなり過ぎてはならないと主張した。金融機関は「資金を最も有望な 革新的分野に振り向ける」ことができなければならないという。何と いっても、同CEOのボーナスは、できる限り多くの資金を許される 範囲で最も収益性の高い、つまりリスクの大きい冒険的商品に送り込 むことにかかっているのだから無理もないが。

BISの声を聞け

金融界の将来についてしっかりした考えを持っているのは国際決 済銀行(BIS)だけだ。BISは言わば中央銀行の中銀という存在 だが、信用バブル期にかなり大きな声でリスクを警告してきた経緯か ら、その発言には特に重みがある。

BISは今週公表した年次報告で、「銀行は融資を再開しなけれ ばならないが同時に、小さく分かりやすく安全な存在に変わらなけれ ばならない」と指摘。「これまでに実施された政府による救済は、必 要なこの変革をむしろ妨げているとみられる。債券と株式による銀行 の資金調達を助けることで、政府の救済策は、行うべき厳しい選択を 回避することを銀行経営陣に許している」と分析した。

銀行システムに開いた穴は、選挙で選ばれた政治家たちの太っ腹 のおかげで、私たち納税者の金でしっかりと埋められている。この結 果、銀行は総資産を圧縮しリスク資産を処分する必要性を無視するこ とができる。BISはさらに、つぶれかけた金融機関同士の電撃婚を 取り持つことは「大き過ぎ複雑過ぎる金融機関を創り出し、経営陣で すら自行のリスクエクスポージャーを把握できない恐れがある」と警 告した。

怖いシナリオ

これは怖いシナリオだ。世界を危機に陥れたような行き過ぎを抑 えるという責任に正面から立ち向かえない規制当局のあり方を考える となお怖い。

英金融サービス機構(FSA)のターナー長官は今週、「成し遂 げられる事柄について、現実的になる必要がある」とし、「G20や その他の会議で政治家が出す立派な声明と、現実にわれわれが達成で きることとの間にずれがあるような気がして時に不安になる」と語っ た。

安全な銀行業界を求めるのは政治家だけではないし別に立派なこ とでもない。政治家が業界により高い標準を求めることと、普通の人 が自分たちの預金の安全が守られ税金が銀行救済よりも有効なことに 使われることを求めることの間に、何のずれもない。

そして、近年の放逸ぶりを抑えようとする政府から逃れようとし て金融業界が駆使する希代のマジシャン、フーディーニばりの奇術は、 賢さを示すものでは全くない。 (マーク・ギルバート)

(マーク・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのロン ドン支局長でコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解 で す)

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