【経済コラム】中国が米国に代わって「悪役」を演じる-A・マリニス

過去50年間、中南米諸国は米国 に対し強い愛憎を抱いてきた。中南米の人々は米国発の娯楽は愛した が、外交政策は憎んだ。特に、米国が1960年代、70年代に示した中南 米の独裁者への対応や、反キューバ政策、最も近いところではブッシ ュ前米大統領に関連するすべてのことを軽蔑(けいべつ)してきた。

しかし幸運にも、中南米諸国の反米感情は、現在起きている大き な変化に伴って弱まりつつある。米国を「C-3PO」で考えればよ い。米SF映画「スター・ウォーズ」に登場する兵士ドロイド「C- 3PC」のことではない。危機(crisis)、キューバ(Cuba)、中国 (China)、保護主義(protectionism)、オバマ(Obama)の頭文字を つないだ造語だ。これら5つの要素について順に見てみよう。

危機

米ウォール街発で世界中に広がった今回の経済危機は、米国に関 する幾つかのことを万人に知らしめた。すなわち、米国の経済政策と 金融商品はリスクがゼロではなく、他国が闇雲に受け入れるべきでは ないということだ。

逆説的だが、世界規模のリセッション(景気後退)は米国と中南 米諸国の関係改善に貢献するとみられる。経済危機とイラク戦争とい う逆境にもまれ、現在の米国は以前ほど横柄ではない。何十年もの間、 超大国アメリカに虐げられてきている中南米にとっては特に、このこ とは感慨深い。

世界経済の低迷をきっかけに、中南米諸国は国内問題への対処能 力について自信と誇りを強めた。長い歴史の中で初めて、世界的な金 融危機の発生にもかかわらず、中南米ではデフォルト(債務不履行) と通貨切り下げ、ハイパーインフレがいずれも起きなかったのだ。

キューバ

世界経済の観点からすると取るに足らないが、キューバは政治的 象徴としては重要だ。いかに状況が変わったか、考えてみてほしい。 キューバのフィデル・カストロ前国家評議会議長は引退。米州機構(O AS)はキューバの除名決議を47年ぶりに無効とすることで合意した。 また米国は近い将来、対キューバ禁輸措置を撤回する可能性が高い。 実現すれば、キューバは自国経済の遅れを米国の政策のせいにするこ とはできなくなる。

こうした展開はやがて、共産主義体制は米国中心の世界に取って 代わり得ると信じて1960年代、70年代に政治的キャリアを築いた中南 米の左派指導者に、一区切りと心理的な安らぎをもたらすだろう。

同時に、中南米の指導者は、自国の不運を米国の政策に責任転嫁 することがこれまでよりも困難になる。分かりやすく言えば、ワシン トン・コンセンサスの崩壊だ。ワシントン・コンセンサスは、途上国 に必要な経済対策に関する米政府と国際機関との間の「意見の一致(コ ンセンサス)」を指す。1980年代後半に始まったもので、米国の政治 家はそれが自由市場の恩恵を促進すると指摘。一方、中南米側は経済 を一層不安定にすると反論していた。

中国

中南米諸国は、域内の社会的不均衡と経済発展の立ち遅れは先進 国による大規模な天然資源の搾取が大きく影響しているという根深い 信念を共有している。まず欧州諸国が、そして第二次世界大戦後は米 国が利己的に略奪に走ったというものだ。

ベネズエラのチャベス大統領が4月のOAS首脳会議(米州サミ ット)でオバマ米大統領に、ウルグアイの作家エドゥアルド・ガレア ーノ氏の著作「収奪された大地-ラテンアメリカ500年」をプレゼン トしたのも合点がいく。

だが、チャベス大統領が米大統領ではなく中国の国家主席に同じ 本を贈呈したら目も当てられない。中国は、中南米にとって最大にし て最も恐れられる投資家、かつ貿易相手国に浮上しつつある。中国は 既に米国を抜き、ブラジルにとって最大の輸出市場だ。世界的な信用 収縮の機会をとらえて、中国は中南米企業への出資を拡大するととも に、自国の持続的な経済成長に必要な石油や鉄鉱石などの原材料供給 の確保と引き換えに中南米諸国に融資を提供している。

保護主義

中南米諸国は、いつ中国が原材料を略奪する経済大国として米国 に取って代わるかを既に自問している。鉄鉱石生産最大手、ブラジル のヴァーレは輸出の7割が中国向けで、中国の顧客企業からの値下げ 要請にさらされている。

中国は中南米地域が生産する原材料と商品の最大の買い手となる 一方、低価格の製品を同地域に大量に輸出している。中南米地域では、 域内の靴と繊維、玩具メーカーが安価な中国製品との競争で市場から の撤退を余儀なくされており、政府当局に中国に対し不当廉売(ダン ピング)提訴を強く働き掛けている。

オバマ大統領

現在、反米姿勢を取っているチャベス大統領やボリビアのモラレ ス大統領などが急に態度を軟化させても驚くには当たらない。そうし た首脳が、発展途上国に対し環境や雇用慣行でより良い政策を採用す ることを促すとしたオバマ大統領の発言を繰り返すことさえあり得る。

オバマ大統領は既に多くの中南米の首脳に、自分はこれまでの米 国指導者とは完全にタイプが違うことを印象付けている。ブラジルの ルラ大統領は「オバマ大統領は長い年月の中で初めて登場したわれわ れに近い大統領だ」と語った。

オバマ大統領が対キューバ禁輸措置を解除し、中南米との通商上 の結び付きを再び強化して中国が新たな略奪者となることを阻止すれ ば、同地域の左派指導者たちはすぐにでも同大統領を敵ではなく味方 と見なすだろう。 (アレシャンドレ・マリニス)

(アレシャンドレ・マリニス氏はブルームバーグ・ニュースのコ ラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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