「ミセス・ワタナベ」撤退も、FXレバレッジ規制で流動性低下の恐れ

外国為替証拠金取引(FX取引) の「証拠金倍率」(レバレッジ比率)を制限する規制案は、かつて 「ミセス・ワタナベ」と呼ばれ、海外からも注目された日本の主婦投資 家など個人投資家のFX取引からの撤退につながる可能性がある。アナ リストらからは、外国為替市場全体の流動性を低下させかねないと懸念 する声も出ている。

FX取引は、レバレッジ比率に応じて、預けた証拠金の何倍もの外 貨を取引することができる。特に金融危機以降は、世界的な景気後退で 内外金利差が縮小し、スワップポイント(金利差から生じる収益)を稼 ぐことが難しくなったという事情もあり、高レバレッジ化が進行。約 120のFX会社が乱立するなか、顧客獲得のため、最大400倍の取引 を提供する業者も登場した。

金融庁は、こうしたFX取引の高レバレッジ化について、ロスカッ トルール(損失を一定の範囲内に限定するための強制的決済)が十分に 機能せずに顧客が不測の損害を被る恐れがあるほか、顧客の損失拡大が FX業者の財務体質に悪影響を及ぼすリスクがあると判断。顧客保護や 過当投機の観点から問題があるとし、5月29日にレバレッジの上限を 2010年夏に50倍、11年夏をめどに25倍まで段階的に引き下げる方 針を発表した。6月29日まで意見を募り、今夏にも公布する予定。

主婦トレーダーは困惑

主婦トレーダーで、「FXで月100万円儲ける私の方法」の著者 である鳥居万友美さん(42)は、「主婦にとってFX取引の最大の魅 力は、何といっても『ここぞ』という時に高レバレッジで勝負ができる ことで、20-30万円程度での少額投資が可能なこと。仮に規制がかか れば、高いレバレッジを認めている海外へ資金が流れる可能性もあるの ではないか」と語る。

FX会社は最低取引単位を1万通貨などと決めているため、レバレ ッジが低ければ、投資家はより多額の証拠金を預けなければならない。 例えば1ドル=100円の時に5万ドル(=500万円)の取引をする場 合、レバレッジ100倍なら必要証拠金は5万円だが、レバレッジ10倍 では50万円の証拠金が必要になる。

鳥居さんは、「なかにはFX投資で生活費を捻出している人もいる ので、規制強化は本当に気の毒。要するに貧乏人にはFX取引をやめ ろということと同じだと思う」と指摘する。

2割超が「FX取引から撤退」

矢野経済研究所が5月にFX投資家2665人を対象に行った調査で は、レバレッジを20-30倍に規制することに対し、90.5%の投資家 が反対。21.7%がFX取引をやめると回答した。

同研究所の白倉和弘上級研究員は、レバレッジ規制が導入されれ ば、「取引量の低下や経営企業での収益性の低下、口座開設の海外流失 などの影響が懸念される」と指摘。「投資家にとってありがたいことは ない」と語る。

日本銀行によると、日本の家計が持つ金融資産残高は09年3月末 で1410兆4430億円。矢野経済研究所の調べでは、08年3月期のF X取引の預り証拠金残高は6964億円で、口座数は前年比91.9%増の 123万口座に達した。

一方、東京外国為替市場委員会の調査では、08年4月中の東京外 国為替市場の1営業日平均取引高は3025億ドルと、07年4月から

25.8%増加した。

市場不安定化も

日本銀行の西村清彦副総裁は、審議委員だった07年7月、ワシン トンでの講演で、「日本の家計が存在感のある投資家として誕生したこ とが外国為替市場にも影響している」と指摘し、かつて「チューリヒの 小鬼たちといわれたスイスの投機家」が為替市場を不安定化させたと批 判されたのとは対照的に、プロの投資家と反対売買(逆張り)する「東 京の主婦たちが市場を安定化させる役回りを果たしているのは明白だ」 と語った。

98年の外為法(外国為替及び外国貿易管理法)改正で登場したF X取引は、国内の超低金利や05年のペイオフ解禁を背景に急拡大した。 特に07年半ばまでの円安局面では、かつてバブル期に巨大な資金運用 で世界市場を席巻し「ザ・セイホ」と呼ばれた日本の生命保険会社のよ うに、FX取引を行う「ミセス・ワタナベ」が主要な円の売り手として 存在感を示した。

JPモルガン・チェース銀行為替資金本部の棚瀬順哉シニアFXス トラテジストは、「FX取引は東京市場の売買高の2-3割を占めると も言われているが、『押し目買い・戻り売り』を典型的なトレードパタ ーンとするFXの参加者が減少すれば、相場の上下動が誇張される可能 性がある」と指摘。「経常黒字国である日本では、経常収支からくるフ ローは常に円買い超。FXはそれに売り向かう有力なフローの1つだ ったが、それがなくなるということは円買い方向に需給が傾きやすくな る」と、為替相場への影響を分析する。

共通のルール

佐藤隆文金融庁長官は6月1日の会見で、レバレッジ規制に対し業 界から異論が出ていることについて、登録制など相対的に緩い規制の下 でFX事業が行われている状況の中、高レバレッジ化が進むことは顧 客保護の観点から問題があり、「市場の公正性・透明性の確保」のため にも「不特定多数の市場参加者に共通するルール・ベースの対応」が必 要であると説明した。

ソシエテ・ジェネラル銀行外国為替本部長の斉藤裕司氏は、「レバ レッジ規制により個人投資家が減少すれば、市場の流動性という点でマ イナスであり、流動性低下で相場が乱高下しやすくなれば、結果的に輸 出企業のヘッジコストが上がる可能性もある」と指摘する。また、流動 性低下で市場のボラティリティ(変動性)が高まると予想されれば、 「レバレッジをあまり掛けない大口の投資家も参加しにくくなる」と主 張。「東京市場の空洞化がますます心配される」と語る。

国際決済銀行(BIS)が3年ごとに行っている「外国為替および デリバティブに関する中央銀行サーベイ」によると、07年の外国為替 市場の全世界の取引高(4月中の1営業日平均)における東京市場のシ ェアは6%と前回調査04年の8.2%から低下した。スイス(6.1%) に抜かれ、第4位に転落。トップは英国(34.1%)で、米国 (16.6%)が続いた。

--取材協力:野原良明 Editor:Tetsuzo Ushiroyama,

Saburo Funabiki

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