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トヨタ100年の計、巨大テストコース建設へ-環境に懸念も

「100年に1度の経済危機」の先 を見据え、トヨタ自動車はハイブリッド車などの開発拠点となる新テス トコースを愛知県豊田市の本社近くに建設する計画だ。創業家出身者と して14年ぶりに就任する豊田章男次期社長(53)の指揮の下、トヨタ は今後どんな車を世に送り出すのか。

「現場にすべての答がある。現場に一番近い社長でいたい」。章男 氏は社長就任が内定した1月の会見でこう話した。5月にドイツで開か れた24時間レースにドライバーとして出場するなど車好きとして知ら れる。新テストコースでは、自らハンドルを握り開発車の性能を試す姿 が見られるかもしれない。

建設予定地は豊田、岡崎両市にまたがる下山地区。山林の合間に水 田や湿地が点在し、ウグイスの鳴き声が響き渡るのどかな里山だ。トヨ タ本社からは車で30分ほどの距離。ここで買収した660万平方メート ル(東京ドーム141個分)の土地にコースを建設する。

県企業庁の角田高行主幹によると、全長6キロの高速周回路や研究 棟などが建設され、将来的には5000人が働くトヨタの研究開発の中核 施設になるという。県内の開発事業としては中部国際空港に次ぐ過去2 番目の規模でトヨタは土地代として約320億円を既に県に支払い、造 成費などを含めた総投資額は「1000億円は下らないだろう」と話す。

KBC証券の自動車担当アナリスト、アンドリュー・フィリップス 氏は「トヨタの財務体質はいまだに強固でキャッシュも豊富なため設備 投資に継続的に資金を投入できる」とトヨタの強みを指摘した。

トヨタ広報担当のポール・ノラスコ氏は、施設の具体的な計画につ いてコメントを控えているが、トヨタが県に提出したテストコースの事 業計画では10年度中に着工することになっている。

環境に悪影響も

不安要素も残る。建設予定地では環境省のレッドデータブックで絶 滅危惧種に指定されるタカ科のサシバやハチクマなどが営巣しているこ とが、地元の環境保護団体「21世紀の巨大開発を考える会」の指摘で 判明した。このため、昨年9月には土地に手を加える改変面積を410 万平方メートルから280万平方メートルに縮小した。

工事が周辺環境に与える影響を調べる愛知県環境影響評価審査会委 員で三重大学人文学部の朴恵淑教授(地理学)は、「今後、反対運動が 強くなる可能性もある。まれにみる巨大開発なのに世間にあまり知られ ていないのはトヨタの情報発信が足りないからではないか」と指摘。 「環境に優しい車の開発のために施設が必要なのは分かるが、企業とし て工事が環境に与える負荷についての説明責任がある」と話す。

トヨタは、豊田市の堤工場周辺に5万本を植樹したり、静岡県湖西 市の大森工場では野生生物が生息できる環境を保つ緑や池の区域を設置 したりするなど、独自の環境保護活動にも取り組んでいる。

ハイブリッド戦争

ハイブリッド車ではホンダも「インサイト」の売れ行きが好調。同 社は昨年9月、栃木県内で新テストコースの建設に着手。総投資額は 480億円にのぼる見込みで、一部施設は今年度中に完成する。「フィッ ト」のハイブリッド版も当初の予定を前倒しして10年度中の発売を計 画している。

トヨタが5月に発売した新型プリウスは開発に4年半を要したが、 チーフエンジニアの大塚明彦氏は4日のインタビューで「市場は常に変 化している」と話し、コスト削減や顧客ニーズに迅速に対応するため、 開発期間の短縮に取り組んでいると説明。今後の新型ハイブリッド車は、 通常の車種と同じくらいの期間(約3年半)で出せると語った。

フィリップス氏は「トヨタの系列部品メーカーの多くは本社周辺に あることから、本社の近くにテストコースができると開発期間を短縮で きるだろう」とみている。

100年先見据え

「時代が悪いから、開発をやめると言うことではなく、将来を見据 え、こういう時代でも技術や技能の伝承を続けることは、とても大切な こと」。経営者としての手腕は未知数ながら、章男氏のブログの記述か らはクルマ作りにかける情熱がうかがえる。

章男氏は「クルマは単なる移動手段ではない。ワクワク感を大切に したクルマ作りが必要」とも書き、「次の100年も、クルマが必要と される乗り物であってほしいと思いますし、そうさせなければならない と思います」と訴えている。

KBC証券のフィリップス氏は話す。「トヨタはどうすれば自社の 競争力を高めることができるかということを長期的な視点でとらえ、そ れに真剣に取り組もうとしている。テストコースはその証だ」

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