【米経済コラム】米国のトリプルA時代は終わりか-M・ギルバート

ドルや米国債、そして米政府に対 する「AAA」の最高格付け。これらが消えてしまいそうな様相を呈 している。

為替相場の予測など素人にはかなわないゲームだし、債券の利回 りはデフレが予想されれば低下し、インフレ期待ならば上昇するとは 限らない。しかし格付けを考えるときは、映画「マトリックス」で登 場人物のスミスが「必然の音」と名付けたものが常に聞こえる。

米政府が犯した幾つかの政策ミスが、米政府を信用したり、資金 を提供するのをやめるべきだということを投資家に示唆している。例 えば、政府がバンク・オブ・アメリカ(BOA)に対し、メリルリン チの買収を押し付けたり、クライスラーの経営破たんで有担保の債権 者よりも労働組合が優先されたり、一部の銀行は公的資金を使って幹 部報酬を極大化させる自由を得たりすることが挙げられる。

通貨市場はここ数カ月、均衡状態とも言えそうな奇妙な状態にあ った。現実に起きているのは綱引きゲームに似たようなもので、綱の 中央に結ばれた赤いリボンはぴくりとも動かず、バランスが取れてい るような印象を与える。だが、実際には強力な力同士がどちらかが勝 つまで静かな戦いを繰り広げているのだ。

QBアセット・マネジメントのリー・クエインタンス氏とポール・ ブロドスキー氏は今月の調査リポートで、「あらゆる通貨が各中央銀行 によって、異常な速度で劇的な品質低下を引き起こされている。この ため、相対的には通貨をめぐる問題が存在しないかのように見える」 と指摘。「しかし、実際には紙幣は当局の影響力に対して非常に弱く、 単なる蒸発するカネなのだと認識するようになる」と記述した。

教科書通りにはならず

それにしても、なぜドルばかりが問題になるのか。米経済がユー ロ圏や英国、日本よりも悪化しているというのが理由だとばかりは言 い切れない。最大の問題は、海外の投資家、とりわけ中国はユーロや 円、ポンドなどよりもドルへの投資がずっと大きいということだ。政 府財政に関する信用危機が起きると、犠牲になる可能性が最も高いの はドルということになる。

中国の外貨準備は2兆ドル(約188兆4000億円)で、このうち米 国債は約7440億ドルを占める。ただ、輸出額は世界的な不況の影響で 減少しており、中国は米国への投資に懸念を表明している。この種の 懸念は米国債市場にも表れており、10年物や30年物の利回りが上昇 し、イールドカーブがスティープ(傾斜)化している。

PFPウエルス・マネジメントのティム・プライス氏は「数兆ド ルにも上る公的救済策は公的部門に多大な赤字をもたらすばかりでな く、あらゆる産業や市場に政府が手を伸ばすことになる。経済学の教 科書がデフレに関して(国債相場を押し上げると)教えるほどには、 国債相場の先行きは芳しくない」と予想する。

膨大な財政赤字

米議会予算局(CBO)は、今会計年度(2008年10月-09年9 月)の財政赤字は過去最大の1兆7500億ドルに上るとの見通しを公表 した。これは前年度の赤字(4548億ドル)の約4倍に上り、国内総生 産(GDP)の約13%に相当する。欧州でユーロ導入を望む国に求め られている目標値は、財政赤字の対GDP比率が3%を上回らないこ とであることに留意したい。

米政府監査院(GAO)院長を務めたデービッド・ウォーカー氏 は12日付の英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、米国の最高格付 けは、11兆ドル超の「累積赤字」や45兆ドル相当の「追加的な簿外 債務」と矛盾しているように見えると指摘。さらに「現在の金融の状 態や構造的な財政不均衡、政治の手詰まり感などを考えると、米国は トリプルAの格付けには値しないと言えるだろう」と指摘した。

財政赤字が膨れ上がるにつれ、米政府の資金借り入れ能力が低下 してきたのは否定できない。だからといって、米国がトリプルAから 格下げされたら、債務不履行(デフォルト)寸前に陥るというわけで はない。また、現在のような金融環境では、いかなる国も最高級格付 けを享受できないという議論も有力だ。

スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)による定義を当ては めると、「AAA」から一段階格付けを引き下げると、米国の信用力は、 債務返済の約束を履行する能力が「極めて高い」から「非常に高い」 に弱まる程度であり、ニュアンス上の制裁とでも言えるだろう。もっ とも、格付け会社に格下げを断行する勇気はないかもしれないが。 (マーク・ギルバート)

(マーク・ギルバート 氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラム ニストです。このコラムの内容は彼自身の見解です)