トヨタ城下町、系列下請けに異変-破たん増えると生産体制に影響も

2009年3月期連結決算で59年 ぶりに最終赤字に転落する見通しとなったトヨタ自動車。本社のある 愛知県豊田市では、トヨタ減産の影響が下請けメーカーにも広がり、 経営破たんする会社も出始めている。トヨタの強みだった強固なサプ ライチェーンにほころびが生じ、景気回復後の生産能力に影響が残る 可能性もある。

「取引先が不渡りを出したようだ」-。東京商工リサーチ(T SR)名古屋支社情報部の嶺澤博徳課長は、最近こんな電話が顧客か ら増えているという。TSRは民間信用調査会社で、中部経済の屋台 骨を支えるトヨタの経営悪化が表面化して以来、約50人の調査員を 総動員して破たん懸念が高い企業の洗い出しを進めている。

TSRによると、愛知県内の3月の倒産件数は132件で前年同 月比22%増。前月比でも31%の大幅増となった。3月としては 1962年の統計開始以来、3番目に悪い数字で、サービス業や運送業 など幅広い業種にわたっているという。

トヨタ減産が直接の引き金になった下請けの破たんは日本高周 波(豊田市、負債総額10億8000万円)などまだ数件だが、嶺澤氏 は「減産が続く中、一時帰休などあらゆる対策を取って持ちこたえて いる状態」とし、「今後、体力の限界を迎える系列企業の倒産が本格 的に増えるだろう」とみている。

ベールに包まれた系列

嶺澤氏の仕事は、非上場も含め企業の決算書の分析や経営者へ のインタビューを通じ、倒産の兆候をいち早くキャッチすることだ。 しかし、トヨタの系列企業は情報管理が徹底しており、経営の実態が 外から見えにくいという。

特に有力1次下請けなど217社で構成する協豊会の会員企業は 別格で、「トヨタの経営悪化が表面化して以降は関係者に会って話を 聞くことは難しい」とし、「トヨタに遠慮して自由にモノを言いにく い空気があると感じる」と指摘する。ブルームバーグ・ニュースも今 回、協豊会会員を含む系列部品メーカー5社に個別取材を申し込んだ が、断られた。

嶺澤氏は現時点でトヨタの下請け倒産が少ないことについて 「トヨタがグループを挙げて支援しているからだ」とみる。実際、1 月に仕入先支援室を設置したデンソーの広報担当、兼益五郎氏は「仕 入先と一緒に生産工程の改善に取り組む。場合によっては財務面の相 談にも乗る」と話している。

ブルームバーグ・データによると、アナリスト予想の中央値で、 トヨタの10年3月期の連結営業損失は5000億円と、2期連続の赤 字の見通し。トヨタの支援がどこまで続くのか不透明で、嶺澤氏は 「2次下請け以下では破たん懸念が高い会社もある」とし、「協豊会 メンバーはトヨタのメンツにかけて絶対につぶさないだろうが、万一、 ここから破たんする会社が出てきたときはトヨタの経営を根本から見 直す必要が出てくる」と指摘する。

1カ月の売上高5万円

豊田市に本社がある生産設備メーカー、コムコグループは約20 年前にトヨタの下請けから脱却した会社だ。1981年に父が経営する コムコに入社した際、「あまりの利益率の低さにショックを受け、脱 下請けを決意した」という川端一司社長にトヨタと系列下請け会社の 関係を聞いた。

「納期は非常に厳しく、1日も徹夜操業しなくて済む月はなか ったほど。商品を納入後に価格を決める『後値決め』という発注側に 有利な商習慣があり、営業利益率は1%前後。元請けは1社に限定さ れ、下請けが自立しにくい体制ができあがっていた」

デンソーなどトヨタ関係会社の仕事も請け負う名古屋市のデザ イン会社「コボ」のデザイナー、ボブ・スリーバ氏は「トヨタが成功 してきた一因には、下請け部品メーカーから利益を搾り取ってきたこ とも寄与している」とみている。

コムコは外部から人材を積極的に採用。年商約70億円の独立 系熱交換器生産設備メーカーに成長した現在、トヨタグループ向けの 売り上げ比率は約20%まで低下。営業利益率は最高で10%程度まで 伸びた。

川端社長は「下請けのころは、支払いは現金でもらっていたた めキャッシュフローは逆に安定していた」とし、「薄利でも仕事を優 先的にもらえるなどトヨタ系列のピラミッドの中で守られている面も あり、この地域の下請けメーカーがつぶれるケースはこれまで少なか った」と話す。

「3月の売上高は5万円しかなかった」-。豊田市内で父の代 から続くトヨタの下請け工場を経営する男性(46)は匿名を条件に 足元の苦しさを打ち明ける。通常なら月250万-300万円の売り上 げがあるが、今は仕事の注文がゼロに近く、貯金を取り崩して生活し ているという。

この男性は「他も同じような状況。うちは家族経営で借金がな いからまだいいが、従業員や借金を抱えている下請けは大変だろう。 トヨタと下請けは一心同体。トヨタの業績が回復しなければつぶれる ところも出てくるのではないか」と不安を募らせている。

トヨタ広報部では、ポール・ノラスコ氏が「トヨタは下請け部品 メーカーをグループ内に束縛せず、他社へも供給することは拒まな い」とコメントした。また、竹内利理子氏は値決めに関して「個々の サプライヤーとの交渉に関してはコメントを控える」と述べた。

リケンの悪夢

日本自動車部品工業会中部支部の伊藤義弘事務長は、ピストン リング大手、リケンが07年の新潟県中越沖地震で一時操業停止した 際の被害を例に挙げ、一部の下請けメーカーの破たんが自動車産業全 体の損失につながる可能性があると指摘する。

リケンが製造する部品には国内シェア約7割を占める商品もあ り、国内自動車メーカーの大半が国内生産ラインを休止、トヨタも約 4日間、国内生産を一部ストップせざるを得なくなった。

伊藤氏は「独自技術を持った部品メーカーが資金繰りで倒れる と、景気が回復して増産するときに対応ができなくなる」とし、「自 動車産業がつぶれたら日本という国は成り立たない。政府に思い切っ た対策を取ってもらわないと困る」と訴える。

自動車市場調査を手掛けるシーエスエム・アジア・コーポレー ションの宮尾健アナリストは、系列サプライヤーの破たんでトヨタが 外部からの部品調達を増やした場合、製造コストの増大につながる可 能性があると指摘。

宮尾氏は「どの自動車メーカーでも定期的に下請けへの厳しい コスト削減要求は行われているが、トヨタグループは他社と比べても、 系列下請けとの結びつきが特に強い」とし、「系列外から部品を購入 するとなると価格交渉の際の力関係がこれまでと変わり、その影響が 調達コストにも出てくるだろう」と話している。

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