日銀総裁発言要旨:景気・物価の下振れリスク意識し政策運営(2)

(発言を追加します)

【記者:日高正裕】

4月30日(ブルームバーグ):日本銀行の白川方明総裁は30日 午後の定例会見で、経済・物価情勢について次のように述べた。

――本日の決定の背景について説明いただきたい。

「前回の展望リポートを公表して以降、世界経済は同時かつ急速 に悪化したが、最近に至り、世界的に景気の下げ止まりに向けた動き が見られ始めている。今回の展望リポートでは、こうした動きが世界 経済の順調な回復につながっていくかどうか、という点を中心に、さ まざまな角度から点検を行った」

「グローバル化が進展した下で、各国の経済の相互連関がもと もと強まっている上、今回は昨年秋以降、世界経済が同時かつ急速に 悪化するという大きなショックに見舞われている。従って、わが国経 済の先行きについても、各国と同様、海外経済や国際金融資本市場の 動向に大きく依存した展開になる可能性が高いことに留意する必要が ある」

「特に米欧の金融システムの立て直しがどのように進むのか、ま た、新興国を含めた世界の需要がどのような展開をたどるのか、とい った点については、なお不確実性が高い状態にある。今回の展望リポ ートでも、こうした不確実性を十分念頭に置いて、中心シナリオとリ スク要因の双方を注意深く点検した」

「また、新型インフルエンザの広がりと経済活動等への影響につ いては、今後注意深く見ていく必要があることを確認した」

「今回の見通しについては、どうしても数字に関心が集まるが、 08年度後半のGDPの前期比成長率が大幅に低下したことが、09年 度のGDP成長率に与える影響に注意が必要だ。09年度は極めて低 いGDPの水準から始まるため、今年度中に日本経済が下げ止まる場 合でも、前年度対比の成長率自体は大幅なマイナスになる」

「このように、経済の変動が極めて大きい場合には、各時点にお ける成長率、すなわち前期比で見た成長率と、年度平均の成長率が大 きく異なる。このため、経済・物価の中心的な見通しを示していくた めには、参考計数として示した数字だけでなく、その背後にある経 済・物価のメカニズムに関する定性的な見方が従来以上に重要になっ てくる。ここまでが前置だ」

「そう申し上げた上で、中心的な見通しを述べる。景気面では、 09年度前半は、国内民間需要は引き続き弱まっていく一方で、内外 の在庫調整の進ちょくを背景に、悪化のテンポが徐々に和らぎ、次第 に下げ止まりに向かうとみられる」

「09年度後半以降は、各国における各種政策が効果を表すとと もに、金融や実体経済におけるさまざまな過剰の調整も徐々に進ちょ くするとみられるため、国際金融資本市場が落ち着きを取り戻し、海 外経済も持ち直していくと考えられる」

「わが国経済も、こうした海外経済や国際金融資本市場の回復に 加え、金融システム面での対策や財政・金融政策の効果もあって、緩 やかに持ち直し、見通し期間の後半には、潜在成長率を上回る成長に 復帰していく姿が想定される」

「物価面では、石油製品価格の下落や食料品価格の落ち着きに 加え、経済全体の需給バランスの悪化などを反映して、09年度半ば にかけて下落幅が拡大していく可能性が高い。その後、中長期的なイ ンフレ予想が安定的に推移するとの想定の下、石油製品価格や食料品 価格の影響が薄れていくため、下落幅は縮小していくと考えられる」

「こうした中心的なシナリオに対する実体経済面での上振れ、下 振れ要因としては、以下の点を挙げた。すなわち、第1に、国際的な 金融と実体経済の負の相乗作用の帰すう。第2に、世界各国で取り組 んでいる各種政策の影響。第3に、企業の中長期的な成長期待の動向。 第4に、国内の金融環境の動向だ」

「また、物価面での上振れ、下振れ要因としては、実体経済の変 動に伴う物価の変動に加え、物価に固有のリスク要因としては、第1 に、家計の中長期的なインフレ予想や企業の価格設定行動。第2に、 輸入物価の動向を挙げている」

「以上を2つの柱に基づいて整理すると、以下の通りとなる。ま ず、第1の柱に則してみると、わが国経済は09年度後半以降、成長 率が緩やかに持ち直すとともに、物価の下落幅も縮小していくとみら れる。従って、やや長い目でみれば、物価安定の下での持続的成長経 路へ復していく展望が開けると考えられる」

「第2の柱に基づくリスク要因を点検すると、国際的な金融経 済情勢、中長期的な成長期待の動向、わが国の金融環境など、景気の 下振れリスクが高い状況が続いていることに注意する必要がある。物 価面では、景気の下振れリスクの顕現化、中長期的なインフレ予想の 下振れなど、物価上昇率が想定以上に低下する可能性がある」

「一方、中長期的には、世界経済が回復する過程で、現在の極 めて景気刺激的な政策が維持された場合、一次産品価格が予想以上に 上振れることなどにより、物価上昇率が想定以上に上昇する可能性も ある。以上を踏まえ、日銀としては当面、景気・物価の下振れリスク を意識しつつ、わが国経済が物価安定の下での持続的成長経路へ復帰 していくため、中央銀行として最大限の貢献を行っていく方針だ」

――今回の実質GDP成長率の見通しに、政府の追加経済対策は織り 込まれているのか。

「いつもそうだが、展望リポートについては各委員がその時点 で利用可能な情報を基に作成している。従って、政府の経済対策につ いては既に公表されており、各委員はその効果を考慮に入れた上で見 通しを作っている。もっとも、具体的にどの程度の効果を織り込むか は、各政策委員の判断に委ねられている」

――新型インフルエンザの影響をどのようにみているか。

「新型インフルエンザの経済、金融市場への影響については注 意深く見ていく。ただ、現時点で、そのマクロ経済への影響を評価で きるわけではない。とりあえず、影響が把握しやすい金融市場への影 響をみると、グローバルな金融市場は警戒感を持って事態の推移を追 っているが、今のところ直接的な影響は限定的なものにとどまってい るように見受けられる」

「感染が最も拡大しているメキシコの通貨や株価の下落といっ た動きは見られるが、その他感染が確認されている国や新興諸国の通 貨等はおおむね横ばい圏内で推移している」

「また、わが国を含む主要市場の動きを見ると、その間、米国 の大手金融機関の経営状況に対する見方が、各地域の実体経済指標で の評価に応じて上下する部分が大きく、これまでのところ、新型イン フルエンザへの不安心理が相場の基調を形作る展開とはなっていない。 これはあくまでもここ数時間の市場の動きだ」

「ただ、新型インフルエンザがもっと大きな広がりを持つと、 当然、人の移動、それから生産活動、経済活動に影響を与え得るので、 われわれとしては潜在的なリスク要因として注意深くみている、とい うことに現時点では尽きる」

――銀行券ルールについて、あらためて説明して欲しい。

「日銀がなぜ長期国債を買い入れるかというと、物価安定を通 じて持続的な成長を実現していくという金融政策の目的を達成するた めに、長期国債のオペレーションを行っている。資金供給を行うとき、 例えば共通担保資金供給オペのように、相対的に短期の資金供給オペ レーションと、長期国債のように長期のオペレーションと、その両方 を使って金融調節を行っているのが現在の姿だ」

「銀行券という長期安定的な負債に見合った資金を供給するた めに、長期安定的なオペレーション手段である長期国債の買い入れを 使った方が円滑な資金供給を行える。要は、長期国債の買い入れは、 金融政策の運営のため、つまり物価安定の下での持続的な成長の実現 のために行っている。そうした観点から、どの程度のオペレーション が適当かを判断して、今の水準になっている」

「もし、長期国債の買い入れの目的を金融政策上の目的から離 れて、例えば財政のファイナンスをもっぱら目的として国債オペを行 うというふうにしたり、あるいは、そういうふうに市場に受け止めら れると、金融政策の運営に対する信認が失われていくので、結局その 場合には、長期金利それ自体にも実は悪影響が出てくる」

――09年度後半以降に緩やかな成長率の持ち直しを想定しながら、 成長率はマイナス3.1%と大幅なマイナスになっているのはなぜか。

「先ほど数字をみる上で、年度平均とみると多少、ミスリーデ ィングな面があるという趣旨の発言をした。今回の場合、08年度の 第3四半期と第4四半期の成長率が急激に落ち込んだ結果、仮に09 年度がずっとゼロ成長でいった場合でも、年度平均で見るとマイナス になる」

「これはいわゆる統計上のゲタと呼んでいるが、計算するとだ いたいマイナス5%ある。それとの比較で見たとき、先ほどの数字は、 09年度の中の動きとしてはプラスの成長を意味している」

――追加的な金融政策がなくても、展望リポートで描いたシナリオに なると理解してよいのか。

「日銀は1月の中間評価の後、毎回の会合で経済情勢の厳しさ に関する認識を深める中で、さまざまな金融政策、金融システムの表 面で措置を講じてきた。今回の展望リポートでは、こうしたさまざま な施策が、政府の対策とともに次第に効果を発揮し、今年度の後半以 降は景気が緩やかに持ち直す中で、物価のマイナス幅も縮小していく ことを想定している」

「結論として言うと、こうした動きが続けば、わが国経済はや や長い目でみれば、物価安定の下での持続的成長経路に復していく展 望が開けるということだ」

「今回の経済の状況をみると、昨年秋以降の世界経済を襲った ショックが非常に大きかったために、望ましい経済、金融の姿に復帰 するにはやはり時間がかかる。いろいろな国で見通しを公表している が、米国、欧州、英国も彼らが想定する望ましい姿に、通常の金融政 策のタイムラグである例えば2年程度で戻っていくかというと、残念 ながらそういう姿に戻っていない」

「それだけ大きなショックが加わった。さらに、危機に先立つ 期間に蓄積された過剰、不均衡が大きかった。そうなると、重要なこ とは、今、実行している措置の結果、最終的に時間はかかるが、望ま しい姿に向かっていくか、ということだ。その点の判断が非常に重要 であり、今回の展望リポートでは、そうした方向に時間はかかるが、 向かっているということだ」

――デフレスパイラルに陥るリスクについてはどうみるか。

「デフレを物価の持続的な下落と定義すると、われわれはデフ レを心配するのは、これがデフレスパイラルに陥ることを心配するわ けだ。デフレスパイラルに陥るかどうかは幾つかの要因に依存するが、 一番大事なのは、中長期的な予想インフレ率がどのようになっている かということだ。加えて、今後の経済情勢の展開、あるいは金融シス テムの状況などに依存する」

「今回の展望リポートでは、結論的にインフレ予想が安定的に 推移するという想定の下で、わが国は海外経済や国際金融資本市場の 回復に加えて、金融システム面での対策や、財政、金融政策の効果も あって、消費者物価の下落幅も09年度後半以降、縮小していくとい うことを予想している」

「繰り返しになるが、中長期の予想インフレ率がどうか、金融 システムがどうなるかが非常に重要な要因となる。この点については もちろん、毎回毎回の金融政策決定会合で注意深く点検していくが、 現状ではこのリスクが高いとは考えていない」

――銀行券ルールについて、原則は維持しながらも、残存期間が1年 に満たない長期国債は短期国債として扱うといった柔軟な対応を行う 可能性はないのか。

「いつも申し上げているが、金融政策の運営に当たって、経 済・物価情勢を予断を持たずに丹念に点検するということだし、金融 政策についても、あらかじめ特定の政策を排除するとか、あるいはこ の政策は必ず採用するというふうに考えることはすべきではない。こ れは私の考えだし、政策委員会メンバーもそういうふうに考えている と思う。これは一般論として申し上げている」

「国債の買い入れは金融政策の一環として行っているので、金 融政策の目的遂行に照らして考えていく。日銀が金融政策上の判断を 離れて自らが決めたルールに従って機械的に政策を運営しているとい うニュアンスがそこに込められているように感じるので、あえてルー ルという言葉を使わない」

「要は、金融政策の運営上、長期国債の買い入れをどの程度に するのが円滑にできるのか、という問題だ。繰り返しになるが、現状 では今の買い入れが最適であると考えている」

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