【経済コラム】アジアの嘆きを聞け!世界は米国の手に-W・ペセック

マニラの旅行代理店で私が米国人 だと分かった途端に投げ掛けられた言葉は、「そう、あなたはあの悪名 高いAIGの国の人なの!どうしてそんなことが起こったの?」とい うものだった。

AIG、つまり米保険大手アメリカン・インターナショナル・グ ループの恥ずべきスキャンダルの渦中にあっては、別に驚くことでは ない。海外に住む米国人ならあまりにもありふれた経験だ。

1440億ドル(約14兆円)と1830億ドルという2つの数字がその 理由を説明してくれる。前者はフィリピンの経済規模で、後者はAI Gが受けた救済措置の額だ。保険会社1社を生き残らせることが、フ ィリピンの国内総生産(GDP)より高くつくのだ。

膨大な貯蓄で米国が発行する巨額の国債を買い入れると見込まれ るアジアで、そのことがどのように受け止められているか考えてほし い。米当局者が忘れてはいけないのは、米国債の最大の顧客が米国を 注視しており、終わりない借り入れもいずれはなんらかの結末をもた らすということだ。

こうした状況で、中国の温家宝首相が中国の保有する米国債の安 全性について懸念を表明したことは劇的だ。中国人民銀行の周小川総 裁は、新たな国際的な準備通貨の創設を訴えて波紋を広げている。

格下げ懸念

米国はこうした発言を無視すべきではない。特に米国債の最大の 保有国である中国の声はそうだ。ロンドンで来月開催される主要20 カ国・地域(G20)首脳会合、いわゆる金融サミットを前に中国はド ルに代わる基軸通貨についての議題を持ち出した。同様の不満はロシ アからも聞こえてくる。

確かにアジアには選択肢がほとんどない。ドルを売り、ユーロか 円を買い入れることもできるが、2年あるいは5年、10年とたったと き、ドルよりもよい投資先だったということになるかどうかは不明だ。

米国は、ムーディーズ・インベスターズ・サービスやスタンダー ド・アンド・プアーズ(S&P)といった格付け会社が米国の信用格 付けを最上級の「AAA」から引き下げる日が来るかもしれないとい うことを考える必要がある。米ドル保有に伴う巨額の損失をアジアが いつまでも我慢することはないことも認識すべきだ。

企業1社を救うのにフィリピンやチェコ、チリといった国のGD Pより多額の資金を投じる米国に、アジアの人々はまゆをひそめてい る。多くが懸念するのは、AIGがさらに資金を必要とし米政府に打 撃を与え続け、米国の借り入れに抑制が効かなくなることだ。

FRB議長

ワシントンから見ると地球の裏側にあるアジアでも、あらゆる中 央銀行当局者がバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長につ いて語ることができる。だが、これも驚くことではない。

事実上のゼロ金利政策や米国債3000億ドル買い入れ、住宅ローン 担保証券(MBS)購入拡大といった最近のFRBの政策は、アジア にとって数少ないグッドニュースだ。フィリピン中銀のテタンコ総裁 は、「新興市場を落ち着かすことになるかもしれない」と言う。

世界の命運を握っているのは、バーナンキ議長のようだ。ガイト ナー米財務長官もそうかもしれない。「バイ・アメリカン」条項や巨額 の借り入れの実現を目指す政治家は、海外では人気がない。

善かれあしかれ、バーナンキ議場は信用市場の凍結を解くために 世界中が自分を頼っているということを理解しているように見受けら れる。議長はまた、極めて重要な地域で米国のイメージアップを担う リーダーでもある。

FRBが昨年11月、ブラジルとメキシコ、シンガポール、韓国と それぞれ300億ドルの通貨スワップ協定を結んだことは画期的だ。よ り最近実施した日本のような「量的緩和」は、もっと重要かもしれな い。金利低下と貸し出しを促すため米国債やMBSを買い入れること は、アジア最大の輸出市場である米国に命を吹き込むことになるはず だからだ。

そう、1440億ドルと1830億ドル。これは本当に問題だ。無責任 な企業に米国が考えられないほどの膨大な資金を投じていることを端 的に表している。世界一の経済大国である米国は、ドルの崩壊を招く ことなく多額の国債発行が可能であることを世界に納得させる必要が ある。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 コラムの内容は同氏自身の見解です)

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