【経済コラム】温首相の対米批判、天につば吐く行為-Jベリー

【コラムニスト:John M. Berry】

3月19日(ブルームバーグ):中国の温家宝首相が米国債投資の安 全性を懸念するなら、資金を他に移すよう指示することも可能だ。

しかし、もちろん実際にそれを行えば、米ドルの価値下落と米国 の金利上昇を招き、中国が投資ポートフォリオの一部として抱える 7000億ドル(約67兆2300億円)相当の米国債に莫大(ばくだい)な 評価損が発生する公算が大きい。

温首相も中国も身動きがとれないのが実情だ。中国が巨額の貿易 黒字の結果として、莫大な外貨準備を蓄積し続ける限り、同国には他 に実行可能な投資の選択肢はない。

ガイトナー米財務長官は1月に上院の指名承認を受ける際、オバ マ新政権が中国を為替操作国と判断していると述べ、中国当局はこれ に反発したが、温首相が米国資産に関して行った不正確で、いわれの ない発言もまた、同様に腹立たしいものだった。

温首相は3月13日の記者会見で、「わが国は米国に巨額の資本を 貸し出しており、われわれの資産の安全性についてもちろん懸念して いる」と語った。米国は政府債務について、すぐにデフォルト(債務 不履行)に陥る状況にはなく、温首相もそれを承知しているにもかか わらずだ。

8%成長には貿易黒字が極めて重要

中国による米国債の購入が米国にとって重要であるとすれば、巨 額の貿易黒字を維持することは、中国にとってもっと重大な意味を持 つ。温首相はそれを都合よく忘れているようだ。同首相が今年の成長 率目標として掲げる8%の達成に近づくには、貿易黒字の確保は決定 的に重要だ。

温首相は1月、米国には世界的な経済・金融危機を招いた責任が あると発言した。そうした非難の一部には多くの真実が含まれている。 同首相は「盲目的な利益の追求」「金融監督の不備」「低い貯蓄率と 大量の消費」を特色とする「持続不可能な経済発展モデル」に米国が 従った結果だと批判した。

だが、同首相は実のところ、中国の輸出を吸収する米国という存 在がなければ、高水準の貯蓄と低水準の消費、為替相場の低め誘導と いう経済発展アプローチによって何が達成できただろう、と立ち止ま って自問していたかもしれない。

米国の赤字縮小、中国の黒字減少の裏返し

債権国からの的外れの議論はもちろん、決して目新しいものでは ない。ドルを基軸通貨とするブレトンウッズ体制の下では、建前上は 貿易黒字国にも赤字国と同様、不均衡の調整を図るため経済政策を変 更する責任があるとされた。しかし、そのように物事が進んだためし はない。もっと最近では、欧州などの黒字国は、米国の貿易赤字が縮 小すれば、自国の貿易黒字も減るという現実を無視してきた。

それこそまさに今起きている現象であり、世界規模の経済危機拡 大の重要な側面だ。米国の経済成長が昨秋になって急激に落ち込んだ ため、米国の非石油製品輸入も急減し、今年1月は1110億ドルと前年 同月を240億ドル下回る水準にとどまった。

両刃の剣(つるぎ)

原油価格下落のおかげもあって、米国の月間の貿易赤字額全体は 1年前と比べて200億ドル前後減っており、これは中国や他の諸国か らの借入必要額が同程度少なくて済むことを意味する。

米国には他国からの借り入れで賄う必要がある巨額の赤字がなお 存在し、米国と中国との経済、財政両面での結びつきは今後も続くだ ろう。温首相はそれを心得ておく必要がある。しかし、首相と中国の 他の当局者が米国の信用力やドルの価値に疑問を投げ掛ければ、いず れ自分たちに跳ね返りかねないことを、彼自身認めていないようだ。 (ジョン・ベリー)

(ジョン・ベリー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストで す。コラムの内容は同氏自身の見解です)

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