【経済コラム】AIG問題を決着させるのは法か倫理か-Aウルナー

法律にはたくさんの技術的な抜け 道があり、そのおかげで何百万人もの弁護士が仕事にありつけるのだ が、契約法の本質に関してはいたってシンプルだ。雇用者は被雇用者 との間で、報酬を支払う代わりに一定の仕事をしてもらうことで合意 するのだ。

例えば、あなたの会社で働き続ければ、300万ドルのボーナスを 支給すると約束してくれたとしよう。わたしはほかの誰にも理解でき ないようなことをやって、会社に何千万ドルもの収入をもたらす。そ こで会社と契約を結び、わたしの能力を買ってくれる同業他社からの お誘いを断るわけだ。

ところが、わたしの仕事の考え方に致命的な不備があって、ボー ナスを手にするころには会社に打撃を与える事態に陥ってしまった。 会社にとってはいい迷惑だが、わたしにとって契約は契約だ。さらに、 会社はわたしにしか理解できない仕事を解除する必要に迫られたら、 わたしを雇用し続ける理由がかえって増えてしまう。

会社のトップが入れ替わって、「自発的に」ボーナスを返上するよ うに圧力を掛けてくることでもない限り、会社はボーナスを支給しな ければならない。

これが、米政府の公的管理下にある保険大手アメリカン・インタ ーナショナル・グループ(AIG)の実態だ。AIGは近年、誤った 経営判断をし続け、企業存続のために1730億ドル(約17兆円)もの 公的資金を得ている。

AIGは金融商品部門で損失を出した人材にボーナスを支給する ことで合意しているが、これは同社の過ちの中で最もカネがかかる類 の問題ではない。しかし、米国民の怒りに火を付けてしまった。

訴訟は一長一短

雇用契約があろうとなかろうと、米政府はボーナス支給に回るカ ネを取り返せという大合唱が起きているが、当然だ。ウォール街の連 中が嫌がるなら、罰金を科せ、訴えを起こせと言う。こうすれば確か に胸のすく思いはするが、同時に無責任でもある。

仮に雇用契約が一部のすきもない内容だとしたら、契約破棄は逆 に訴訟を起こされ、米政府が敗訴するのは必至だ。これでもいい考え だといえるだろうか。

訴訟になれば、政府は税金をつぎ込んで底なし沼の訴訟費用を払 い続け、揚げ句の果てにボーナス支給を認めなければならなくなる。 政府は実害を被ることになるし、政府が契約という言葉を使っても信 用されなくなる。

あなたが望んでいることをわたしに実行させ、わたしは対価を得 られると確信できるようにするのが契約の目的だ。この契約が当事者 の一方にとってひどい取引だとしたら、良くない。

検事が黒幕の情報を得るために麻薬の売人と司法取引した場合、 得られた情報が後になって無益だと分かったとしても、取引は成立す ることに変わりはない。

これと同様に、ある銀行と数百万ドルのクレジット・デフォルト スワップ(CDS)契約を結んだ保険会社にとって、債務保証先企業 の担保が回収不能なサブプライム(信用力が低い個人向け)住宅ロー ンであるがゆえに過大評価されていたと後で分かったとしても、契約 に基づき銀行への支払い義務は残る。

クオモ司法長官の意欲

ニューヨーク州のクオモ司法長官は、「単に契約があるというだけ では、契約破棄できないことにはならない」と述べ、契約破棄正当化 の法的理論が存在する可能性を明らかにしている。しかし、不正を働 いた者を特定する必要があり、今のところ理論を補強する材料はない。

クオモ長官は、ボーナスを得ていたAIG金融商品部門の従業員 の名前や業務内容、業績を調べ、彼らの役割を突き止めようとしてい る。これは素晴らしいことだ。捜査を進めて、氏名や所業を明らかに してほしい。

そこまでいかない場合は、従業員がボーナスの少なくとも一部を 返上するという機会もある。実際、AIG幹部の一部が既に実施して いる。クオモ司法長官やホワイトハウスがボーナス支給を阻止するか、 あるいはその原資を政府に返済させる方法を模索しているなかで、A IG関係者に対する圧力は相当、大きい。

報酬調査会社エクイラーのアレクサンダー・ゴディッキ氏は「契 約自体は変更できないかもしれないが、幹部たちは自発的にボーナス を返上せざるを得なくなるかもしれない」と指摘する。国民の怒りが 増し、クオモ司法長官の追及の手が厳しくなればなるほど、そうなる 可能性は高くなるだろう。

そうなった場合には、AIG救済資金のおかげで救われた銀行の ボーナスもぜひ見てみたいものだ。 (アン・ウルナー)

(ウルナー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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