【コラム】ヘッジファンド、値引きは起死回生の妙薬にならず-M・リ

屋台なら、値引きをすれば売れ行 きは良くなる。航空会社でも小売店でも自動車メーカーでも、この手 は有効だ。しかし、ヘッジファンドはどうだろう。

金融の世界を次から次へと災難が襲うなかで、一部のヘッジファ ンド会社は値引きしか生き残る道はないと考え始めた。

ケンタウルス・キャピタルやハービンジャー・キャピタル・パー トナーズなどが、投資家から徴収する手数料を引き下げた。新規の投 資家が減り、既存投資家の償還請求が増えるなかで、これに追随する ファンド会社が出てもおかしくない。

しかし、値引きは奏功しない。ヘッジファンドは値段で売れ行き が変わる商品ではない。今までも違ったし今後もそうはならない。こ の業界を見ると、モニターを眺めながら数字をいじる能力と、商売の 能力は別のものだと分かる。

ヘッジファンド業界の爆発的な成長の時代を通して、業界は2つ の数字に牛耳られていた。2と20だ。2%は運用資産に応じて課され る運用手数料の率。20%は投資収益に応じて徴収される運用報酬の率 だ。最近はこの2つの数字から誕生した大金持ちも多い。

しかし運用成績急低下と資金流出で、ヘッジファンドは新たな戦 略を練ることを迫られている。ロンドンのケンタウルス・キャピタル は今週、手数料1.5%、運用報酬15%の新ファンドを設定すると発表 した。ハービンジャーは今月、投資家が1年ではなく2年間、資金を 引き揚げないと約束するなら手数料と運用報酬を安くすると提案した。

値引きに前向き

今後数カ月、このようなヘッジファンドの値引きがほかにも見ら れるだろう。コンサルティング会社マーサーが2月に発表した調査結 果によれば、代替投資運用会社3400社の間には値引きに前向きな姿勢 が見られた。

その理由は簡単だ。ヘッジファンドは値段の高い商品だ。投資収 益がさえないとなれば、料金がじっくりと検証されることになる。多 くの投資家が、ほぼ最低の成績に対してほぼ最高の値段を払っていた。 もちろん、満足しているはずはなく、投資家が値引きを求めればヘッ ジファンド会社は断りにくい。

危機に対するヘッジファンドの最初の対応は、顧客が逃げ出すの を防ぐために門を閉ざすことだったが、これが長期的な戦略にはなら ないことに気付いたファンド側は値引きに転じた。しかし、この対応 も間違いだ。

戦略

物を作って売る商売なら、事業を始める前にまず低コスト・大量 生産の製品で「お買い得感」を提供するのか、高コストのニッチ(す きま)商品で「質の高さ」や「ほかでは手に入らない」を売りにする かを考える。

航空会社なら、ブリティッシュ・エアウェイズになってビジネス クラスの席を売るのか、ライアンエアー・ホールディングスになって 最小限のサービスの格安席を売るのか、という選択だ。どちらの戦略 でももうかる勝算はある。

同じフォルクスワーゲン社の下で、大衆車の「シュコダ」と高級 車の「アウディ」の両ブランドを運営することすらできる。しかし、 どちらかに決めなければだめだし、途中で変えるのは無理だ。少なく とも、計画を練ることもせずに一晩で変身しようとしてもうまくいか ない。ある日突然アウディが低価格のシティーカーを売り出したり、 シュコダが高級スポーツカーを売り出したりしても消費者は戸惑う ばかりだろう。

値引きはいただけない

同様に、ヘッジファンドの値引きもいただけない。資産運用の世 界では、投資家の選択肢は明瞭だ。低コストの指数連動型投信を買う のか、市場平均を上回る収益を約束してくれるヘッジファンド会社に 任せるのか。後者を選んだ場合、価格は問題ではない。

必ず市場平均並みを超える成績を上げてくれるなら、利益の20% を運用報酬として支払ってもほとんどの投資家は気にしないだろう。 ファンドマネジャーが金持ちになっても別にかまわない。

しかし市場全体よりも良い成績をもたらしてくれないなら、運用 報酬を10%にしたからといってヘッジファンドの魅力が高まるはず もない。手数料0.5%の指数連動型投信を買った方がましだ。

過去1年ではっきりしたのは、ヘッジファンド業界の人々が自分 たちで考えていたほど投資について分かってなどいなかったというこ とだ。今ではそれに加えて、彼らが商売というものについても分かっ ていないことが判明した。 (マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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