デリバティブが「異例」の動き-チャートが示す東京市場の流動性低下

東京金融市場のデリバティブ(金 融派生商品)取引が過去に例のない動きをしている。取引の主体であ る欧米金融機関が金融危機の影響でリスクのある売買を敬遠。市場の 流動性が低下する中で、相場の動きが一方向へオーバーシュート(行 き過ぎ)しやすくなっている。

金利デリバティブの一つである、3カ月物の円建てLIBOR (ロンドン銀行間貸出金利)とドル建てLIBORを交換するベーシ ス・スワップは、借り入れた資金の利払いを円金利からドル金利に変 換できる。将来の金利変動は為替相場が織り込むため、本来はゼロ (等価)付近で推移するはずだ。

ところが、昨年以降、金融不安に伴うドル調達難を受け、海外の 金融機関がサムライ債(円建て外債)を積極的に発行し、調達した円 の利払いをドル金利に交換する需要が急増。交換して受け取る円金利 を大幅に差し引いても、ドル金利に交換する動きになり、チャートが 異例の形状となっている。

RBS証券シニアストラテジストの市川達夫氏は、金融市場が依 然として不安定で、流動性が極めて低いことをチャートは示している と指摘。「通常の取引需要が入っただけでも相場はオーバーシュート する可能性があり、それを修正する力も今の市場にはない」という。

リーマンショック以降

「異例」な動きを示す2つ目のチャートは、円建て6カ月物のT IBOR(東京銀行間貸出金利)とLIBORを交換するT-Lスプ レッド。企業によるTIBOR基準の借り入れが増加する中、その変 動利払いを銀行とのスワップ取引で固定化する需要がある。銀行には TIBORの変動利払いリスクが移転するため、銀行は金利を上乗せ したLIBORを払っても、TIBORを受け取ってリスクヘッジす る需要が生じている。

2つのデリバティブは、サムライ債の発行ラッシュやTIBOR 借り入れの増加など、一方向に需要が偏りやすい要因はある。ただ、 ベーシス・スワップでドルを調達したい需要や、T-Lスプレッドで TIBORを受け取りたい需要はこれまでも存在していた。

2つのチャートは、過去10年間の相場を振り返っても例のない急 激な変動を示しており、昨年9月のリーマンショック以降、金融市場 自体の機能が低下している影響を指摘する声が多い。

海外勢の撤退

今回のチャートが示す急激な変動は、5年など中期ゾーンから10 年超の超長期ゾーンにわたっており、「一部外資系金融機関の仕組み 債デスクの閉鎖に伴う強制的な持ち高解消」(市川氏)など、市場に 大きなショックがかかった可能性も高いという。

いずれにしても、相場が行き過ぎれば、反対方向に取引すること で収益を得る機会も生まれ、通常は相場を正常に戻す力が働く。しか し、こういった裁定取引を行っていたヘッジファンドは、業界自体か ら運用資金が引き揚げられており、リスクを取りづらくなっている。 正常な価格を提示できる欧米金融機関も減り、デリバティブ市場の厚 みが失われている。

三井住友海上火災保険投資部の高野徳義金融デリバティブグルー プ長は、「相場の動きがおかしいことは確か。でも、それに対抗する ためにリスクを取れる金融機関がいなくなっている」と話す。

金融市場の正常化

「おかしい」動きは他にもある。3つ目のチャートは、国債利回 りとスワップレートの格差を示すスワップ・スプレッドだ。民間金融 機関の信用リスクを反映するはずのスワップレートが国債利回りを下 回る「逆転現象」が生じ、そのまま戻らなくなっている。

超長期物の日本国債を買い、スワップ金利を固定払い(債券の売 りに相当)するアセットスワップは、海外投資家の得意な取引だった が、流動性危機をきっかけに持ち高解消の反対売買を強いられた。そ の後、為替や株価に連動する10-30年物の仕組み債に損失が生じ、デ ィーラーのリスクヘッジで超長期のスワップレートに過度の低下圧力 がかかっている。

JPモルガン証券の徳勝礼子シニア債券ストラテジストは、20年 物のスワップ・スプレッドについて、逆転幅が10ベーシスポイントま で縮小したら、再び拡大方向に取引することを推奨する。一見、落ち 着いてきたように見える市場の流動性も、中央銀行の助けあってのも の。「完全に正常化するだけの実力はない」と指摘する。市場関係者 は、金融不安の衝撃を受けた東京金融市場が元の状態に戻るには時間 がかかると口をそろえる。

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