【書評】米シティCEOが市場の「アニマル・スピリット」を解放

先週のある日、「ミスター・マー ケット」はベッドから飛び出し、通常の2倍の濃さのエスプレッソ を飲み干した。米銀シティグループのビクラム・パンディット最高 経営責任者(CEO)は、今四半期が2007年以来で最良になって いると発言した。

「よしよし」ミスター・マーケットはつぶやき、マットレスの 下に手を突っ込んだ。「株の買い時が来た」。

そしてミスター・マーケットは買いまくった。シティ株ばかり ではないし、買いたたかれていた銀行株だけでもない。たっぷりの アドレナリンのおかげで自信満々となったミスター・マーケットは 通信大手のAT&Tから事務用品小売りのオフィス・デポまで幅広 い銘柄を買い、S&P500種株価指数は10日、6.4%高と昨年11月 以来で最大の上昇を演じた。

この突然の自信回復は先週いっぱい続いた。これは英経済学者 ジョン・メイナード・ケインズが言うところの「アニマル・スピリ ット」の好例だ。ちなみに「アニマル・スピリット」はジョージ・ A・アカロフ、ロバート・J・シラー両氏が金融危機を扱った最新 共著のタイトルでもある。

ケインズは人間の意思決定が「行動したいという自然な欲求」 を反映するとし、これをアニマル・スピリットと呼んだ。

アカロフ氏とシラー氏はこの概念を今日の危機に当てはめ、好 不況の繰り返しは人間の心理のなせる業だと分析する。住宅価格が 上昇を続けるという妄信が、価格下落と同時にパニックに転じたこ とを指摘する。著者の2人は簡潔な文体で、意思決定(つまり経済) が自信や公平感、人生観に左右されることを示していく。

「評判」

著者は紹介の必要もないほど有名人だ。カリフォルニア大学バ ークリー校のアカロフ教授は情報の非対称性についての研究でノー ベル経済学賞を受賞。エール大学のシラー教授はインターネット株 バブルや米住宅バブルの崩壊を予測したことで知られる。

両氏が尊敬する経済学者はケインズ。ケインズの「評判」はこ のところ、株価下落と同じくらいのスピードで上昇している。

ケインズは大恐慌についての著作でアニマル・スピリットにつ いて論じた。アカロフ、シラー両氏は、ケインズは「経済活動の多 くが経済的に合理的な動機に基づく一方で、その大きな部分がアニ マル・スピリットに左右されることを認めていた」と論じる。「人間 は非経済的な動機を持っている」という。

例えば、賃金や価格には公平性についての配慮が影響する。店 主は客の怒りを恐れ、吹雪が来たからといって雪かきシャベルの値 段を倍にすることはできない。雇用主は従業員の士気低下の恐れか ら賃金カットを控える。

米ゼネラル・エレクトリック(GE)のトップだったジャック・ ウェルチ氏によれば、子供を持つべきか、グーグルを買収するべき かなど、多くの意思決定は直感に基づいている。そして経済全体は 自信によって動く。

この本で著者は「人々は自信があれば買いに出るし、自信がな いときは撤退し売る」と書いている。

これらの議論は聞き飽きているという行動経済学専攻の学生な ら、第2章から読んでもいい。ここから著者は、恐慌がなぜ起こる のか、今日の危機に対して何ができるかを論じる。そして後者への 著者の答えは、利下げと財政支出、減税という通常の処方せんでは だめだというものだ。

著者によれば、現在は卵のように脆弱(ぜいじゃく)な金融シ ステムが塀から落ちて割れてしまった状態。これとともに、自信も 失われた。「マクロ経済政策の役割に関するケインズの説に賛成だ。 マクロ経済にすき間があるときは、政府がこれを埋める必要がある」 と著者は書いている。というわけで、政府はわれわれ納税者の金を 使って卵を元に戻そうとしているわけだ。 (ジェームズ・プレスリー)

(ジェームズ・プレスリー氏はブルームバーグ・ニュースの書 評家です。この評論の内容は同氏自身の見解です)

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