【コラム】「自分像」見直せないバンカーは現実逃避に向かう-Mリン

金融サービス業界に働く者にとっ て、長く厳しい冬が続く。市場は冷え込み解雇者は毎日増える。おま けに新聞を開くたびに、世界の終わりはお前たちのせいだと責める記 事が目に入る。

しかし、何人かのバンカーは少しも揺るがず、組織が犯した行き 過ぎについて責任を負うことを拒んでいる。例えば英銀ロイヤル・バ ンク・オブ・スコットランド・グループ(RBS)前最高経営責任者 (CEO)のフレッド・グッドウィン氏。同行を破滅の淵(ふち)に 追いやった同氏だが、企業年金の権利放棄を求める強い世論に断固と して抵抗している。

ドイツの証券会社ドレスナー・クラインオートの従業員たちは、 同社が納税者によって救われた後でも、ボーナス支払いを求め法廷で 争うつもりだ。

当然の権利だと考えているカネを受け取るために闘うバンカーは これからも出るだろう。しかし、彼らはたいへんな間違いを犯してい る。法的な権利がどうあれ、自分の未来を考えるならば、自分たちが 失敗した組織の一員だったこと、従って責任の一端を負わなければな らないことを認めるべきだ。闘いは、この真実を受け入れて未来へと 歩み出す瞬間を遅らせるだけだ。

グッドウィン氏には70万3000ポンド(約9500万円)の年金を生 涯にわたって受け取る権利がある。ブラウン英首相は同氏に年金の減 額を求めたが、同氏はこれを拒否した。与党・労働党のハリエット・ ハーマン副党首は、グッドウィン氏の権利は「法廷では認められるか もしれないが、世論という法廷では認められない」と述べた。

「会社」

ドレスナーのバンカーらもグッドウィン氏同様、世論に無頓着だ。 約250人の従業員は、ドレスナー銀行買収を通して同社の親会社とな ったコメルツ銀行を相手取り、減額されたボーナスの回復を求めて争 う構えでいる。コメルツ銀がドイツ政府から注入を受けた182億ユー ロ(約2兆2700億円)の公的資金のうち40億ユーロはドレスナー銀 向けとなったため、ボーナスを払うのはドイツの納税者ということに なるのだが。

ある従業員はウェブサイトに掲載した公開書簡で、「われわれはド レスナー・クラインオートで働いているが、損失に対して責任はない。 損失につながったポジションについて承知していなかったし、知るす べもなく、ポジションを変更する手段も持たなかった」と書いている。

法的に誰が正しいかは法廷での論争に任せるとして、既に十分な 老後資金のあるグッドウィン氏にとって、余生を社会の鼻つまみ者と して生きてまで、この年金に固執する必要があるだろうか。英国の社 会は寛容だが、評判回復にはやはり、慈善事業に寄付するなど何らか の贖罪(しょくざい)の行動が必要だろう。

現実逃避

ドレスナーの従業員も、自分たちは金を稼ぎ、損失を出したのは 社内の別の人間だとしても、だからと言ってボーナスを受け取れると いうのはおかしい。彼らは気付いていないようだが、従業員は「会社」 というものに属し、会社というのは総合体として存在する。利益を出 したトレーディングも、他人が会社に出資してくれたからできたもの だ。責任の一端を負う気がないのなら、組織に属さなければいい。

誰もが分かるこのような理屈を、なぜグッドウィン氏とドレスナ ーのバンカーらは理解できないのか。それは、「自分像」を変えること が嫌だからだ。グッドウィン氏が年金の権利を放棄すれば、RBSで の自身の行動が間違っていたと認めることになる。ドレスナーのバン カーも、ボーナスをあきらめれば、自分がどこにいても巨額の利益を 生み出せる金融の天才などではなく、たまたま金融機関に勤めていた 組織の歯車の1つにすぎないことを認めることになる。

要するに現実逃避だ。しかし、信用危機に自分たちが演じた役割 を真摯(しんし)に、尊厳をもって受け入れるまでは、彼らが先に進 むことはできない。 (マシュー・リン)

(リン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。 このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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