【経済コラム】ロシア元石油王追起訴、試される法制度-ボーレン

追起訴されたロシアの元石油王、 ミハイル・ホドルコフスキー氏の裁判で被告席に座っている人物が人 違いであるとすれば、その人物は同国のメドベージェフ大統領かもし れない。

メドベージェフ大統領が犯した罪とは何か? 助言者であるプー チン首相による執念深い支配を打破することができないでいることだ。 プーチン首相がロシアにおける政治的悪習や汚職のシンボルとなって いればの話だが。

ジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤ氏殺害の容疑者を発 見できていないなど驚くべき失態の数々で知られ、警戒心の強いロシ ア検察当局が問題なのではない。プーチン政権を批判したポリトコフ スカヤ氏は、2006年のプーチン氏の誕生日に殺害された。

ホドルコフスキー氏に対する訴訟は、メドベージェフ大統領が改 革を誓ったロシアにおける「法的ニヒリズム(虚無主義)」に基づく起 訴の顕著な一例だ。

かつてロシア首位の富豪だった人物が、容赦なく屈辱を味わわさ れている様は、今回の裁判が復讐(ふくしゅう)心に満ちたものであ ることを表している。

始まりはホドルコフスキー氏が逮捕された03年10月にさかのぼ る。同氏は覆面をした男たちに銃を突きつけられ、逮捕された。05年 に詐欺と脱税の容疑で有罪を宣告され、シベリアの収容所で8年間収 監される判決を受けた。同氏が経営していた石油会社ユコスの資産は 没収され、税金の支払いのため安値で売却された。

対中国国境にある収容所でもホドルコフスキー氏は日常的に冷遇 されている。裁縫教室に出席しなかったことを理由に仮釈放を拒否さ れ、インタビューに応じたとして独房に監禁された。

追起訴

ホドルコフスキー氏が回避できている唯一の容疑はセクハラ(性 的嫌がらせ)だ。露検察当局は執拗(しつよう)に同氏を追い詰める。 現在は、ユコスから246億ドル(約2兆4000億円)を横領し、さらに 利益75億ドルを資金洗浄した疑いで追起訴されている。ホドルコフス キー氏の代理人らはこれらの容疑を「ばかげている」として否認して いるが、同氏の刑期は22年延長される可能性があり、そうなる確率は 高い。

なぜこのような事態になるのか? その理由は、ロシアは依然、プ ーチン首相が支配しているからだ。同首相が支配するロシアでは、ビ ジネスでも政治でも最も重要なのは政府への忠誠と従属だ。ロシアが 懸命に欧米諸国の融資を必要としているこの時期にホドルコフスキー 氏が再び裁かれるのは、このシステムが依然、仕組まれている証拠で ある。

今月の公判で問題となっているのはホドルコフスキー氏が有罪か 無罪かではない。ロシアの資産家たちがいかにして富を蓄え、それが 合法だったかどうかということだ。それについては不透明で議論の余 地がある。

問題は、今回の裁判が、多数の人々が犯した罪に関して、たった 1人の被告人が見せしめとなっている限られた正義を求めるものだと いう点だ。ロシアにおける脱税と横領? 同国でだれがショックを受け るだろう? プーチン首相の取り巻きの一部である新興財閥でないの は確かだ。これらの資産家たちはいま、企業の負債を返済するため、 フランスの別荘やヨットを急いで売却している。

政治的標的

石油王であり、プーチン氏のライバルとなる可能性のある野心家 だったホドルコフスキー氏が、政治的理由で標的にされたのは最初か ら明らかだった。どちらにしろ、これはプーチン首相の戦いであり、 メドベージェフ大統領の戦いではない。

だからこそ、いま問題なのはホドルコフスキー氏ではなくメドベ ージェフ大統領なのだ。同大統領は引き継ぐシステムを改革すること を公約して選出された。

メドベージェフ大統領が前任者から引き継いだシステムを打破す ることへの望みはあった。メドベージェフ氏が08年2月、選挙運動中 に、4年間の任期の主要な目標は「権力の中枢部や立法組織が主導権 を握るわが国の法制度の自立を確保することだ」と述べた際、人々は 愚かにも同氏の言葉を信じた。

落第

これが試験だとすれば、これまでのところ、メドベージェフ大統 領もロシアの法制度も落第状態である。先週開かれたホドルコフスキ ー氏の裁判の予審の雰囲気は悪い兆しを示している。同氏と元同僚の プラトン・レベデフ氏は代理人の隣に座れるようガラスの囲いから出 ることを求めたが、判事はこれを拒否した。

ホドルコフスキー氏の尊厳を維持したのは同氏自身だった。同氏 は文書で「いかなる策略もめぐらせるつもりはない。告訴理由につい て明確に対応するつもりだ。今回の件が極めて単純であることが明確 に理解してもらえるよう、政治的な動機に基づくこの裁判について話 すつもりもない」としている。

モスクワの法廷では、ホドルコフスキー氏の将来と、独立した指 導者としてのメドベージェフ大統領に対する評価との両方が争点にな っている。独自の政策を設定し、目標を維持できるかどうか、同大統 領の能力が問われている。

プーチン首相が支配するロシアでのルールが適用されるとすれば、 現時点では両者とも勝ち目はない。(セレスタイン・ボーレン)

(ボーレン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。こ のコラムの内容は同氏自身の見解です)

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