山口日銀副総裁発言要旨:年度末に向けさらに踏み込んだ対応も視野に

日本銀行の山口広秀副総裁は5日、ブルーム バーグ・ニュースとのインタビューに応じ、次のように述べた。

――景気の現状と先行きをどうみるか。

「昨年9月の米リーマン・ブラザーズ破たん以降、国際金融資本市場の状 況が厳しくなり、海外経済も急速に悪化した。米国だけでなく欧州、新興国や 資源国もそういう状況になっている。国内の景気も大幅に悪化しており、当面 悪化が続きそうな状況だ。輸出は海外経済の悪化を反映して減少しており、設 備投資も企業の収益環境の悪化や先行き不安心理の高まりから減少している。 国内の金融環境も厳しさを増している」

――金融市場と企業金融の動向をどうみるか。

「金融市場は全体として厳しい状況が続いている。ただ、ターム物金利は 昨年末にかけて高止まっていたが、日銀の企業金融支援特別オペや潤沢な資金 供給による効果もあって、年明け以降は少し低下している。コマーシャルペー パー(CP)と国債とのスプレッド(金利差)も、日銀が昨年12月にCP買い 入れを表明して以降、全体として縮小している。短期金融市場に限って言えば 良い方向への動きが目立っている」

「しかし、社債市場をみると依然信用リスクに対する不安が残っており、 スプレッドが高止まっている。また、企業からみた金融機関の貸出態度は、大 企業は年明け以降少し落ち着いた感じがないわけではないが、中小企業では厳 しいという企業が増えており、資金繰りの厳しさは払しょくできていない。資 金調達のしやすさ、調達コストなど企業金融を全体としてみると、なお厳しい 状況だ」

――株式市場は依然不安定で、年度末に向けて不安感が強い。

「株価が一段と下落した場合、①金融機関の資本制約の高まり②企業の信 用リスクの増大③金融機関自身の流動性懸念-という3つのルートを通じて金 融機関の与信姿勢に影響を与える可能性がある。自己資本については、金融機 関は全体としてみると、なお相応の水準を維持しており、株価が下がっても一 定のバッファーを備えている。メガバンクを中心に資本増強も行っており、資 本面の体力はある程度確保されている」

「信用リスクと流動性リスクについては、金融機関は日銀の企業金融支援 特別オペレーションを通じて、低利かつ長めの資金を担保の範囲で無制限に調 達できる。仮に株価が下がり、信用リスク、あるいは流動性に対する懸念が高 まった場合は、そういったオペレーションを有効に使うとともに、日銀が持つ 他の資金供給手段を柔軟に使いながら対応していく」

――企業が実際に資金調達する、やや長めの金利であるターム物金利に対して、 一段と働き掛ける余地はあるか。

「企業金融支援特別オペレーションを含めて、潤沢な資金供給の効果もあ り、ターム物金利は年度末が近づいているにもかかわらず、年初に比べ低い水 準にある。従って、当面の企業金融面での対応はそれなりのことができている と思っている」

「ただ、年度末に向けて企業金融が一段と苦しくなることも否定はできな い。そうなった場合、さらに踏み込んだ対応があり得るのかどうか、そうした ことも視野において考え、必要があれば行動していく」

――日銀の昨年12月に社債、証書貸付債権の担保としての適格基準を従来の「シ ングルA」から「トリプルB」に引き下げたほか、1月にはJ-REIT債(不 動産投資法人債)を適格担保に加えた。また、A1格相当のCPを3兆円、1 年以内の社債を1兆円を上限に買い入れも行っている。今後、必要があれば適 格担保の拡大や信用基準の引き下げ、あるいは買い入れ対象の拡大や買い入れ 基準の引き下げもあり得るのか。

「日銀の金融政策はこの半年程度、①金利政策②金融市場の安定確保③企 業金融の円滑化―という3つの柱で運営されてきた。その中で企業金融に的を絞 って言えば、ご指摘のようなさまざまなメニューがある。CPや社債の買い入 れ、担保要件については、さらに見直す必要がないのかどうかは当然頭の片隅 にある。その必要があるのかどうか、そのことに意味があるのかどうかを十分 に考えながら対応していく」

――民間のリスク資産の購入によって日銀に損失が発生した場合の対応につい て、政府と一歩踏み込んだ協議を行う可能性はあるのか。

「企業金融にかかわる金融商品の買い入れと、それに伴うリスク負担の高 まりについて、日銀の考え方を政府にお話し、政府からも一定の理解が得られ ていると認識している。従って、当面何らかの追加的な協議を政府としなけれ ばならないとは思っていない。ただ、これから先、日銀の政策対応に応じて、 政府と協議を行う可能性は排除しない」

――損失が発生した場合の保証がないと、日銀がやれることには限界があるのか。 仮にそうした制約があるとすれば、政府に対してもっと働き掛ける必要がある のではないか。

「われわれの政策対応は、日銀として必要な仕事であるという認識に立っ て行うものだ。そして、政策の効果がある程度想定できることが前提だ。その 上で、われわれとして実施するかどうかの判断をするのであって、政府から保 証があれば何でも対応するということではない」

「われわれの判断がまずあって、われわれが行動を取るかどうか、そのた めに仮にリスクが高ければ、それをカバーする何らかの対応があり得るのかど うかを、われわれなりに考える。その上でなお、われわれが取るリスクが日銀 の体力を超えている、しかし、それをやらなければならないとき、そして、や ることに意味があるという判断があるのだとすれば、そこから、われわれとし てはどういう行動が必要かを考える」

――政府・与党から大規模な09年度補正予算を策定する案が浮上している。財 政の支出拡大とそれに伴う国債の発行増の結果、国債市場が不安定化する可能 性もある。財政のファイナンス(資金調達)のために日銀として何らかの協力 はあり得るか。

「資金供給を円滑に行うため、金融調節上の必要性から長期国債の買い入 れを行うという基本的な考え方を変えるつもりはない。日銀が財政ファイナン スのために長期国債の買い入れを増額していくと、財政規律に対する疑念を高 め、国債市場が不安定化して金利が上昇し、かえって財政負担が高まるという リスクは拭いきれない」

――それはとりもなおさず、長期国債の買い入れは現在の月1.4兆円のペースが これからもずっと続くということだと理解してよいのか。

「昨年12月に月2000億円増額した際は、日銀の長期国債保有額が日銀券 発行残高の範囲にかなりの期間にわたって納まるという判断をして決めた。買 入額は先行きの銀行券の動向と、日銀が買い入れる国債の残存期間とも関連す る。そうしたことを考えながら、長期の資金を供給する手段をより充実させる 必要があるかどうかをみて判断するということに尽きる。今の段階でこれ以上 増やすとも増やさないとも言えない」

――政府が株価対策を検討していると伝えられているが、日銀も何らかの形で協 力する可能性はあるか。

「われわれが行っている株式の買い入れは、株価の操作、あるいは株価形 成に影響を与えることを狙った対応では全くない。われわれとしては金融機関 が抱える株式保有リスクを軽減していくことを目的として、金融機関の保有株 式を買い取る枠組みを用意した。そういう判断とは別に、株価への影響を意識 して行動することはわれわれの頭にない」

「株式市場は基本的に企業業績の先行き、それに対する市場参加者の見方 を基本として形成される。従って、日本経済が物価安定の下での持続的な成長 経路にいつの日か復していくであろうことが認識されて初めて株価は安定もす るし、上昇もするのだろう。そういう前提がない中で日銀が株を買い入れた場 合、効果があるのか、市場の価格形成に歪みをもたらさないか、検討を行う必 要がある」

――量的緩和政策やゼロ金利政策の復活の可能性はあるのか。

「どのような政策を選択し得るかについては、いろいろな可能性を排除は できないと思う。ただ、無担保コール翌日物金利は既に0.1%まで下がっており、 この金利を限りなく0%まで下げることの意味をどう考えるか。市場取引の円 滑性確保という面に与えるマイナスの影響をどう考えるか。そのあたりをトー タルに考えていく」

「量的緩和については、われわれなりに、これが持つメリットと限界を認 識しており、それをトータルに考えて、やるべきかどうかを判断するというこ とに尽きる」

――年度末に向けてまだ国民や金融市場の不安感が根強い。日銀として、やるべ きことはすべてやる、という安心感が伝わっているとは思えない。国民として は安心してみていてよいのか。

「鉱工業生産や輸出、実質GDP(国内総生産)成長率は、この数十年に わたって経験したことがないような悪化ないし減少が起きている。われわれの 経済の現状に対する見方は非常に厳しい。しかも、下振れリスクがさらに高ま っているように思う。年度末だけでなく、その先を見渡しても、しばらくの間、 そうした状況が続くと想定される」

「こうした厳しい環境の下で、日銀としてやれること、あるいはやるべき こと、そして意味のあること、これについては予断を排して、しっかりやって いく、そういう構えでなければならないと思っているし、それに関しては、国 民に十分理解してもらいたい」

――副総裁に就任して4カ月あまりが経つが、現在の心境は。

「この間の内外の金融、経済情勢の変化はあまりに急激だったので、日銀 としてどのように政策対応をすべきか、就任以来考え続けてきた毎日だった。 わずか4カ月前なのに、随分前のような感じがしている。これから先に向けて 責任の重さを非常に強く認識しており、白川総裁を支えながら、きちんとした 対応を実践していくことを心掛けている」

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