【経済コラム】ⅰPodの発想がウォール街を救う?-W・ペセック

為替と通貨の包括的なサービスを 提供する企業オアンダの創業者でトロント在住のマイケル・スタム氏は、 為替の世界では毛色の変わった経歴の持ち主だ。米スタンフォード大学 と米コンピューターサービス大手IBMで研究職に携わるコンピュータ ー科学者から転身した。

現在オアンダの社長を務めるスタム氏は、通貨市場を民主化し、 恐らく資本主義をわれわれが知っている形にとどめておくための取り組 みの中心に位置している。同氏は利他主義者でなく、世界的な金融危機 のなかで明らかに勝者になるとみられる会社を興した起業家だ。通貨市 場はほぼ間違いなく、金融界で唯一良好な事業分野だ。投資家やヘッジ ファンドをおびえさせる為替相場のボラティリティ(変動性)が、オア ンダのような企業に恩恵を与える。

スタム氏はシンガポールで筆者に対し、「私は科学者であり、科 学的な思考の一部を利用できそうな市場に足を踏み入れたのは本当にた またまだ」と語った。

1995年に同氏と共同でオアンダを創業したのが、エコノミストの リチャード・オルセン氏だ。オルセン氏の経歴を見ると、「金融市場の 先進的な予測技術」が専門と書かれている。同氏は、広範にわたる危機 を招いた市場の急激な変動について、その根本原因を探り出すことに情 熱を抱いている。

オルセン氏は「市場の天気予報システムが必要だ」と語り、「ち ょっと後ろに下がって、金融界ではなく、天気や津波を予想する方法に ついて考えてみることだ。意味が分かるかい」と問い掛けた。答えは 「ノー」だ。

早期警戒システム

投資家らはこれまで、国際通貨基金(IMF)が今回の問題を解 決してくれるものと期待していた。1997-98年のアジア通貨危機発生 の後を受けて、そうなるはずだった。IMFは金融市場にちょっとした 問題が発生したことを警告する早期警戒システムの構築に着手した。

しかし、これは言うほど簡単なことではない。米国のサブプライ ム(信用力の低い個人向け)住宅ローンをめぐる問題の発生は、そこか しこで予想されていた。だが、想定外だったのは、ほぼすべての他の資 産クラスにそうした問題が拡大するスピードだった。

IMFのストロスカーン専務理事は、将来の危機について警告す る「新しいタイプの警戒システム」の構築に向けて作業を進めていると 述べているが、それはそれでよいとして、スタム、オルセン両氏は、金 融モデルよりも科学に基づいた具体的な戦略を持っているようだ。

ⅰPodの発想

オルセン氏は、コンピューター・電子機器大手、米アップルの音 楽プレーヤー付携帯電話端末「iPhone(アイフォーン)」や携帯 デジタルメディアプレーヤー「ⅰPod(アイポッド)」を例に挙げ、 「技術はシンプルで、使い勝手が良く、ますます広く販売され、世界を 変えつつある。市場に同じ発想が適用できないことがあるだろうか。同 様の方法で金融の簡素化を考えてみよう」と話す。

オルセン氏が示した類似性は適切な例えだ。ⅰPodは音楽配信 システムをこれまでにない形に変えた。オアンダや他社が照合するオン ライン取引データは、市場の亀裂を探り当てるために利用可能だ。ウォ ール街版の「ⅰPodソリューション」を検討すべきだと同氏は指摘す る。

オアンダは2001年以後、顧客による4億4700件を上回る取引の 執行を手助けしてきた。07年後半のある1日には、150万件を手掛け た。そのような取引を分析すれば、金融の諸問題解決に向けた糸口が見 つかるかもしれない。

地道な分析

市場データを1つ1つ収集し、分析していくことで不均衡、つま り、より幅広い示唆に富む価格とリスクプレミアムとの断絶が露呈する 可能性がある。価格の動きは単なる雑音ではない。売買注文は、誰がポ ジションを構築し、誰が解消し、その理由は何かについて多くを物語る。

ポジションの規模とその目的を表す地図を作成できれば、どの投 資家が追加証拠金の請求に直面し、近々反対売買を迫られるかを示すこ とができる。追加証拠金は世界的な金融危機の重要な分離装置の役目を 果たしており、市場の機能停止に伴い、市場から撤退する以外ない投資 家が増えている。

臨界に達するほどのパニック売りが積み上がる時こそ、情報を追 跡するための天気予報図を作成してはどうだろうか。オルセン氏は「テ クノロジーが市場に十分に適用されたためしはないが、それは間違い だ」と語る。

おかしなことだが、各国政府は原子の内部構造や血圧の研究には 巨額の資金を投じるが、国庫や都市の財政に大きな影響を与える市場の 上げ下げの研究には資金を出し渋っている。

神経系

各大学では、多くの資金を投じて性的習癖や犬の知能などの研究 はしても、金融市場の動向についてはほとんど資金が回されていない。 銀行や企業の救済で米政府が数千億ドル規模の公的資金を使っているこ とを考えれば、市場データの収集システム構築に数十億ドルを投資しな い理由はないのではないか。

そうした取り組みは、政府、銀行、国際機関の共同事業の形をと ることになるかもしれない。政策担当者や年金基金の運用担当者に大惨 事の発生を知らせる可能性があれば、何でも検討に値する。それは断然 良い資金の使い道だと思われる。

オルセン氏は「金融システムは世界経済の神経系だ。神経系に問 題が生じつつあることを知らせる手立てがわれわれには必要だ。この時 代にそれを持っていないのはどうかしている」と主張している。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラ ムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

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