【経済コラム】「バズーカ砲」で社債市場が壊れていく―W・ペセック

ポールソン前米財務長官の「バズー カ砲」は今や、大陸間弾道ミサイルの様相を呈している。バズーカ砲と は、ポールソン氏が昨年8月、何千億ドルにも上る米国の景気対策を言 い表すのに使った表現だ。同年11月には中国が5860億ドルのバズー カ砲を持ち出したのに続き、インドやインドネシア、日本、マレーシア、 シンガポールの各国も景気対策として財政支出を拡大する方針だ。

この空前絶後の景気対策ラッシュについては、次の2点に留意する 必要がある。第1に、これは社債市場の終えんを意味するということ。 第2に、より深みのある市場を創設しようというアジア諸国の努力は棚 上げになってしまうということだ。

国債は既に米国の最も貴重な輸出品だ。ポールソン氏の後継者とな ったガイトナー財務長官は米国債の一段の増発を監視することになるだ ろう。アジア諸国も空前の国債ブームになろう。それは、現時点の成長 見通しが楽観的に過ぎるからだ。国際通貨基金(IMF)によれば、今 年のアジアの途上国経済は5.5%成長が見込まれる。1998年以降では 最も低い成長率となるが、リセッション(景気後退)に陥っている日米 欧や、景気が減速している中国を考えれば、極めて楽観的だ。

これに対し、企業はどうやって対抗できるというのだろうか。確か に各国政府には選択肢はほとんどなく、景気対策が強く求められている。 しかし、アジア開発銀行(ADB)によると、あまりに多くのバズーカ 砲が設置されたおかげで、民間企業は社債市場から締め出されるリスク にひんしている。企業にとっては世界的な経済危機や競争激化を乗り越 えていく上で、さまざまな金融面のリスクを抱え込むことになる。

財政に締め出される民間投資

ADBのイ・ジョンファ地域経済統合室長は「今日の企業は資金調 達コストの上昇に直面している。さらに、新興市場から突然、投資資金 が引き揚げられるリスクがあり、東アジア新興国の自国通貨建て社債の 発行にとって複雑な要因になる可能性がある」と指摘する。同氏は、各 国政府が「企業の新規資金調達や借り換えを締め出してしまう」と懸念 する。各国のバズーカ砲は、「金融版大陸間弾道ミサイル」のような致命 的な兵器に変わる可能性があるのだ。

米国は現在や将来の景気対策の資金を工面するのに、アジア地域に 蓄えられた預金をあてにしている。米議会がこれまで了承した金融安定 化策で、米金融機関が立ち直るのに十分だとはまず言えない。日本の資 産バブル崩壊後、15年以上たっても、日本の金融機関は期待されている ほどの融資を実行できていないからだ。

日本の例

米国の国債増発の動きは将来、日本や中国、欧州の動きと衝突する だろう。こうした危機は、しずくが一滴ずつしたたり落ちるように、あ るときは信じられないようなことでも、いつしか現実になってしまうダ イナミズムがある。現時点での国債発行見通しは1年もたてば、古臭い ものとなってしまうのではないか。

日本がその好例だ。日本はそのうち野心的な国債発行計画を発表す るとみられる。麻生太郎首相は昨年12月、2011年度までの基礎的財政 収支(プライマリーバランス)の黒字化目標を撤回し、驚かせた。麻生 首相か後継の首相が国債増発の水門を上げる計画を公表する日を待とう。

中国もそうだ。経済は急速に減速しており、景気対策の増額が必要 になる。欧州各国政府も国債発行計画を増額することになろう。

欧州中央銀行(ECB)のシュタルク理事は12日、ドイツのバー デンバーデンで、ユーロ圏の「一部の国々の財政政策が心配だ」と述べ るとともに、「一部の国々の財政はただならぬ状態にある。政府は緊急に そうした問題に対処すべきであり、市場が増大する債務水準に反応して しまう」と警告した。

国債発行の嵐

シュタルク理事は既に、財政が民間投資を圧迫する「クラウディン グ・アウト」現象が欧州で起きていると懸念を表明していたという。リ セッションの深刻化で国債を一段と増発する必要が出てきたら、シュタ ルク理事はどう考えるだろうか。財政保守派にとっては、良い年にはな らない。

米議会予算局(CBO)は、景気対策は短期的に米経済を活性化さ せるものの、債務残高が増すとともに、民間投資からのクラウディング・ アウト現象で2014年までに成長や賃金の重しになるとの見通しを示し た。同じようなことがアジアでも起きるかもしれない。

国債発行ラッシュは今年のアジア経済にとって、もう一つの側面が ある。深みがあって、活性化した債券市場を創設しようという試みが頓 挫すると予想されることだ。アジアは社債や資産担保証券(ABS)に 関して、国際的な市場をいまだに必要としている。

良いニュースがあるとすれば、今回の国債発行ラッシュではアジア 通貨建てが大半を占める見通しであることだ。アジアの各国政府は自国 市場で起債しようとするし、海外投資家も国債や国営企業への投資を望 んでいる。10年前にアジアを危機に巻き込んだのは、外貨建ての借り入 れだった。

民間企業の資金調達難を緩和するため、ADBは東南アジア諸国連 合(ASEAN)に日中韓を加えた「ASEANプラス3」との間で、 社債に信用保証を供与するファンドの設立を協議している。これは良い ことだが、ずらりと並んだ各国政府のバズーカ砲のせいで、社債を発行 する企業にとって向こう数年は苦難の年になる。 (ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック氏はブルームバーグ・ニュースのコラムニ ストです。コラムの内容は同氏自身の見解です)

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