【経済コラム】米住宅公社問題から恐ろしい現実が見える-W・ペセック

機密情報資料。失業統計。国家安全保障費 の見積り。政局の世論調査。世界のリーダーたちは、よく読んで理解しなければ ならない書類が山積している。

米国の次期大統領の必読書類リストにはさらに、連邦準備制度理事会(F RB)の表「H.4.1」が加わる。

エコノミストたちは、ニューヨーク連銀が毎週発表する資料から、この表 を入手している。資料の名前は無味乾燥な「準備金の構成項目と収支」というも ので、歴代の米大統領たちがその内容を熟読していたことが知られていないのは 無理もない。

次期大統領は同表から、外国人が米国の生活水準を維持する上でいかに積 極的に資金を提供し続けているかを知ることになる。悲しいかな、米国民は、ア ジアからの資金提供がない状態で生き抜く方法を学ばなければならない十分な理 由がある。

多くのアナリストが予想していたような大幅なドル資産離れは、まだ起き ていない。米国債に対する需要は、ドルが下落し、信用危機が深刻化するなかで も、極めてしっかりしている。米住宅公社のファニーメイ(連邦住宅抵当金庫) とフレディマック(連邦住宅貸付抵当公社)の問題ですら、まだ大幅な資本逃避 をもたらしていない。

「まだ(yet)」という単語がここでは重要な意味を持つ。中銀が保有する 米政府機関債が今月約100億ドル減少したのは、資本逃避が進行中であること を必ずしも意味するものではない。しかしアジア諸国は、米当局が住宅公社の問 題にどのように対処していくか、憂慮しながら見守っている。

格付け会社フィッチ・レーティングスでアジア地域のソブリン格付け担当責 任者、ジェームズ・マコーマック氏(香港在勤)によると、中国はファニーメイ とフレディマックを中心に長期の政府機関債を3760億ドル相当保有している。 ファニーメイとフレディマックは大き過ぎてつぶせないだけでなく、地政学的な 意味も大き過ぎて倒すわけにはいかない。

恐ろしい結果

中国人民銀行の元貨幣政策委員、余永定氏は先週、「米国政府がファニー メイとフレディマックの破たんを容認し、海外の投資家に十分な補償を行わなけ れば、恐ろしい結果になる」と指摘した。「それが世界の終わりでないとしても、 現在の国際金融システムの終わりということだ」と語った。

ファニーメイとフレディマックが救済されたとしても、最近の動きはわれ われが知るところの米国の金融取り決めの終わりを示している。米国が今考慮す べきは現実である。

この問題に対処していく上では、中国だけでも十分厄介な「顧客」という ことになる。控えめに見積もっても、中国が保有する米政府機関債は同国の国内 総生産(GDP)の10%に相当する。米国が、投資家に対し返済の遅れと減額 を通知したらどうだろう。五輪の成功にどっぷり浸っている中国国民13億人は、 自分たちに多大な損失を被らせ、米国民が依然として裕福な状態に、どのように 対応するだろうか。FRBの表で立場を逆転させてみれば、米国民の間で中国へ の資金提供をやめるべきだとの世論が高まることは容易に想像できよう。

アジアの担保

米国は現在のような危機的状況にあっても足元は今後も堅固との理論は、 同国がアジアからの資金にいかに依存しているかという点を軽視している。米国 は過去数年間にわたり生産性の高い経済を構築してきており、アジア諸国はそれ を担保にしていると、しばしば指摘される。確かにそれは本当だ。

同時に、アジア諸国には選択肢がほとんどないのも事実だ。貿易黒字の規 模を背景に、アジア各国は最も流動性の高い証券市場に資金を投資し、自国通貨 が競争面で不利な水準まで上昇することを回避する以外に、ほとんど選択肢がな いのだ。

選択肢の1つとしては、ユーロ建て資産への投資が挙げられる。ただし、 ドル資産からの分散投資はリスクを伴う。ドル資産を大量に保有する日本や中国、 ロシアといった国々がユーロ資産にシフトしていることを投資家がかぎつければ、 ドル相場は大きく下げ、中銀は多大な損失を被ることになる。

共存関係の話のようだが、実際の問題は米国の海外資金への依存度合いだ。 米国の経常収支赤字は2008年1-3月(第1四半期)に1764億ドルと、1993 年以来の平均1000億ドルを上回っている。それは、米国が世界の景気拡大を支 えてきたことによるのではなく、アジアの資金が米国に危険なまでに身の程を超 えた生活を提供してきた結果である。

ほころびた金融システム

米金融業界の苦境がさらに深刻化した場合、アジア諸国は投機的な投資を 回避するために、米国に投資していたそうした資金が必要になる。その場合でも、 過去1年間のドルの乱高下がアジア諸国を慎重にさせるだろう。

米ベアー・スターンズの事実上の破たんを受けて米国型の資本主義への信 頼が損なわれるなか、ドルは米金融当局による利下げを受け、過去1年間に対ユ ーロで7%、対円で5%それぞれ下落した。米金融機関に巨額の出資を行ってい る政府系投資ファンド(SWF)も考え直すかもしれない。

民主党のオバマ候補、共和党のマケイン候補、どちらが就任するにせよ、 次期米大統領はほころびが見られる米金融システムを修復し、国民に過度の借金 体質を改善させることが課題になる。米国がアジアからの資金にこれまでほどは 頼れないと認識するなかで、そうした過程はより厳しいものとなろう。

マケイン候補は、アジアからの資金なくしてどのように減税分を補うのだ ろうか。オバマ候補は、米国がかくも依存している地域に対し用いている保護主 義論をどうやって貫いていくのだろう。

両候補が問い掛けている強いアメリカ論はすべて、米国がいかに経済政策 面での一部自治権を失いつつあるかという点を無視したものだ。ポールソン米財 務長官が取り組んでいる政府機関債の再構築への動きは外交政策の意味を持ち、 今後もそうしたプリズムを通して見ていかなければならないだろう。

次期大統領が多忙であることは間違いない。そして、アジアからの資金流入 がこれまでより細るなかでかじ取りを強いられることは、さらに疑いようがない。